把握できているつもりで実はできていなかった待機時間の管理、行き当たりばったりの管理で長期化していた待機時間がトラック簿を導入し改善。
さらに、関連工場(出庫元)にもトラック簿を導入することで、工場からの到着時間を予測可能になり、タイムリーな荷揃えを行えるようになった。
「やっぱり、『おもしろい』というのはモチベーションの源泉である」──凸版物流 関宿事業所におけるトラック予約受付システム『トラック簿』の導入事例を取材して、つくづく感じた。
『トラック簿』のようなバース管理システムが実現する、荷待ち・荷役時間の削減のような改善活動は、得てして地味で、継続的な努力を必要としつつも、なかなか思うような結果が出にくいものである。
だが、関宿事業所では、楽しく、そして明るく前向きに、荷待ち・荷役時間の削減に取り組み、そして凸版物流内の模範となるような結果を出している。
そのポイントは、データ活用にある。
関宿事業所が、どのようなきっかけから荷待ち・荷役時間の削減に取り組み始め、そしてどのように『トラック簿』を活用しているのか、ご紹介しよう。
凸版物流 東日本統括本部 関東物流五部 部長 馬場洋平氏
関宿事業所(千葉県野田市)は、クルマで15分ほどの距離にあるTOPPAN 幸手工場から出荷される荷物を主として取り扱っている。関宿事業所では、約1000坪の倉庫に、約2500パレット相当の荷物を収納、入出荷量は平均150パレット/日、多いときには最大250パレット/日に及ぶ。その輸送は、常傭の協力会社を中心に行っている。
馬場氏は、「もともと『待機・荷役時間が長いのでは?』という肌感覚はありました。ただし、その実態は把握していませんでした」と、トラック予約受付システム『トラック簿』導入前の状況を振り返る。
荷待ち・荷役時間が長かったのはなぜか?
原因の1つは、幸手工場から荷物が到着するまで、トラックを待機させていることがあったためである。
幸手工場では、在庫商品を出荷するのではなく、生産と同時並行で受注および出荷を行う。そのため、幸手工場から完成した商品が到着するまで、トラックを待機させることもあったそうだ。
もう1つの原因は、庫内オペレーションにあった。
トラックが来た順番、悪く言えば「行き当たりばったり」で入庫・出庫作業を行っていたため、どうしても荷待ち・荷役が長時間化していたのだ。
凸版物流 東日本統括本部 関東物流五部 幸手・野田・柏G (関宿) 係長 矢島一男氏
そんな関宿事業所が、荷待ち・荷役時間削減に取り組み始めたきっかけは何だったのか?
「意識し始めたのは、やはり『物流の2024年問題』がきっかけです」(馬場氏)
まず始めたのは、現状把握だったという。
矢島氏は、「まずは実態を把握するために、2022年12月から紙(ノート)の受付簿を用意し、手集計を開始しました。集計したら、思った以上に荷待ち・荷役時間が長く、驚きました」と当時を振り返る。
そのうちに、業界メディアのみならず、テレビ、ラジオなどの一般メディアでも「物流の2024年問題」が報道されるようになってきた。
世の流れに遅れていることを痛感した矢島氏は、「早く解決せねば」と焦りを感じていたという。
『トラック簿』導入以前に、関宿事業所が行い始めた荷待ち・荷役時間削減に向けた取り組みは、大きく2つあった。
1つは、庫内レイアウトの改善である。
関宿事業所の倉庫には、北東側に1つ、南西側に2つの計3つのバースがある。取り組み開始前には、その日その時の流れで、それぞれを入出庫に使っていたのだが、これをあらため、北東側バースは入庫専用、南西側バース2か所は出庫専用にしたのだ。また、それぞれのバース脇に荷物の一時置きスペースを設けた。
以前は、トラックから荷物を卸すと、そのまま荷物の収納場所まで運んでいた。積み込み時も同様である。このフォークリフトによる荷送距離の長さが、荷役時間を長くしていた一因だった。そのため、取り組み開始前には毎回30分以上、荷役に時間が掛かっていたが、現在では卸作業では15分以内に、積み込み作業でも30分以内に終えることができるようになったという。
入荷バース付近の様子。バース脇に荷物の一時置きスペースを設けることで荷役時間の削減を実現した。
もう1つの取り組みは、現状と課題を社内で共有するようにしたことである。
紙の受付簿からデータを手集計した荷待ち・荷役時間を事務所内の壁面に掲示し、実績を朝礼にて報告、「どうしたらもっと荷待ち・荷役時間を削減できるのか?」を毎日のように議論したのだと言う。
こういった、地道ながらも対策を続けつつ、関宿事業所では、2023年3月に『トラック簿』の検討を開始。同年5月には『トラック簿』を導入したのだ。
関宿事業所の事務所壁面には、荷待ち・荷役時間削減に向けた取り組み状況が掲示されている。
具体的な取り組み内容とともに、その担当者、期限などが簡潔にまとめられている。
「まず大きかったのは、事務所で受付を行えるようになり、待機車両を探す手間と時間を削減できたことです」と矢島氏は語る。
実は、関宿事業所と同時期に、幸手工場でも『トラック簿』を導入している。
この相乗効果は大きかった。クラウドシステムゆえに、幸手工場における『トラック簿』での受付状況を、関宿事業所でも確認することができるからである。関宿事業所のフォークリフトオペレーターは、幸手工場における受付時間を確認することで、関宿事業所への到着時間を予測し、あらかじめ荷受けの準備をできるようになったのだ。
「これは幸手工場も同様です。関宿事業所~幸手工場を往復し、横持ちしているため、幸手工場では関宿事業所の受付状況を確認し、荷揃えを行えるようになりました」(馬場氏)
各フォークリフトには、『トラック簿』を操作確認できるタブレットが設置されている。
フォークリフトオペレーターは、『トラック簿』を逐次確認することで、事前に荷揃えなどを行うことができるようになった。
凸版物流 経営企画本部 情報システム部 部長代理 岩崎敏氏
荷待ち・荷役時間の削減は、関宿事業所だけが感じていた課題ではない。社長の旗振りのもと、凸版物流として荷待ち・荷役時間の削減に取り組んでいるという。
トラック予約受付システムに関する下調べは、実は検討開始に先んじること2ヶ月前の2023年1月から行っていた。当時、社長からは「もっと早く!」と急かされたそうだ。
岩崎氏は、「ウチの社長からは、『まずは動いてみる。結果、ダメな時は、違う手段を考えよう』と言われました。そして少しでも取り組みにもたつくと、『遅いよ!』と激が飛んできます」と苦笑する。
ではなぜ、凸版物流は『トラック簿』を選んだのか?
岩崎氏は、まず第一に、「受付に足を運ばなくても受付ができること」を挙げる。
関宿事業所では、10km圏内であれば遠隔受付ができるようにしている。関宿事業所で取り扱う荷物の大半を出荷する幸手工場が、関宿事業所と直線距離で5km弱に位置するからである。関宿・幸手の荷待ち・荷役時間削減には、遠隔受付機能が効果的に働くと判断したのだ。
次に岩崎氏は、「年単位ではなく月単位の契約であり、『解約したい』と思ったら、すぐにできること」を挙げる。
凸版物流にとって、業務に合わないと判断した場合に、方針修正を可能とする「すぐ解約できること」も選択理由の1つだった。
結果、関宿事業所など、当初7拠点から導入開始した『トラック簿』は、わずか3か月後の同年8月には24拠点まで拡大し、同年末までに4拠点を追加し、28拠点となった。
凸版物流が、スピード感を持って改善に取り組んでいく企業であることは、先の社長の発言からも分かる。だがそれにしても、3ヶ月でほぼ主要拠点を網羅する24拠点へと『トラック簿』導入が拡大するとは尋常なスピード感ではない。
「導入時にモノフルが行ってくれたサポートが充実していたことは、大きいですね」(岩崎氏)
「何か問い合わせをしても、その反応がめちゃくちゃ早いからじゃないですか?」(馬場氏)
「いや、単純に『トラック簿』導入の説明会が分かり易かったからじゃないかと思います」(矢島氏)
皆さまの言葉からは、モノフルのサポートに対する賞賛の言葉に加え、『トラック簿』の導入プロセスそのものに知的好奇心を感じていた気配すら感じ取れる。
実際、どうなのだろうか?
「かんたんで直感的な操作で、受付ができるのは興味深いですよ。私の立場で言えば、紙の受付簿を集計する手間から解放されたのも嬉しかったですし」と矢島氏は、導入時のことを振り返る。
矢島氏(右)とディスカッションをするモノフル カスタマーサクセス マネージャー 東海薫
各事業所に対し、『トラック簿』導入を牽引する役目を担った岩崎氏は、「各事業所のメンバーが積極的に動いてくれたことに加え、『トラック簿』そのものの操作がかんたんだったことは大きかったと思います。ドライバーへの説明もラクでしたし。だからこれだけスピード感をもって、多くの事業所へと展開できたのでしょう」と分析する。
凸版物流 経営企画本部 情報システム部 情報システム1グループ 泊果歩氏
今回、取材をしていて、とても印象的なことがあった。
泊氏が、『トラック簿』のデータを集計・分析するExcelVBAを、馬場氏、矢島氏に披露し、両氏が「これいいよね!」と食いついていたのだ。
泊氏が開発したのは、『トラック簿』で集計した荷待ち・荷役時間などをグラフ化できるExcelVBAであった。ちなみに、モノフルとしては近い将来、泊氏が作成したようなBI機能を機能追加していこうという考えもあるらしい。
実に楽しげに、泊氏の作成した『トラック簿』の集計・分析ExcelVBAに食いつく馬場氏、矢島氏、岩崎氏らの様子が印象的であった。
筆者は仕事柄、改善活動を行うさまざまな企業や現場を見ている。その経験から言えば、眉間にしわを寄せて深刻な表情で改善を行う現場よりも、凸版物流のように「改善に知的好奇心を感じ、前向きに取り組む」現場の方が、圧倒的に高い効果を上げられる。
実は、この「改善活動に知的好奇心を感じる」というのは、凸版物流の企業文化らしい。
聞けば矢島氏も、『トラック簿』の導入を含む、待機時間削減に対する一連の活動が評価されて、社内表彰されているそうだ。
改善活動は、地道な努力を必要とする。だからこそ、こうやって従業員らが改善活動を明るく前向きに、知的好奇心をモチベーションにさらなる改善活動につなげていくのは、とても大切だし有効なのだ。
ただし実際のところ、『トラック簿』を導入すれば、実はそれほど多大な苦労をすることなく、荷待ち時間・荷役時間の削減が実現できるのも事実である。
この点については、別記事でご紹介する、凸版物流 大阪物流センターへの導入事例も参考にして欲しい。
荷待ち・荷役時間の削減は、岸田内閣が推し進める「物流革新」政策における柱の1つでもあり、もはや放置は許されない状況になりつつある。
荷待ち・荷役時間の削減に課題を抱えている人(企業)は、ぜひ凸版物流の取り組みを参考にして欲しい。
(物流ジャーナリスト 坂田良平)
取材にご協力いただいた、凸版物流 関宿事業所の皆さま