働き方改革関連法において、2024年から施行された特定の業種における労働時間の上限規制。これにより、物流業界全体に大きな影響が出ると言われています。いわゆる“2024年問題”が起こる業界の背景とは。ハコベルでは、2024年問題の本質を紐解きながら、課題解決に向けた国の動きとデジタル化の加速について、運輸デジタルビジネス協議会(TDBC) 小島 薫様・株式会社traevo 鈴木 久夫様に解説していただく特別ウェビナーを開催しました。
一般社団法人運輸 デジタルビジネス協議会 代表理事
小島 薫氏
2004年ウイングアーク1st株式会社入社。技術系職に従事し、BIツールの事業責任者を担当。執行役員、CMO歴任後、運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)の設立に事務局長として参画し、一般社団法人化した2018年に代表理事就任。
株式会社traevo 代表取締役社長
鈴木 久夫氏
IT系企業に20年以上勤務後、コンサルティング会社を経て運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)立ち上げに理事・事務局長として参画。2022年より現職。
ハコベル株式会社
物流DXシステム事業部 カスタマーサクセス部 部長
渡辺 健太
トーマツイノベーション㈱(現・㈱ラーニングエージェンシー)にて法人営業、セミナー講師、新規事業開発責任者等を担い、産学官連携プロジェクトマネージャーを歴任。2年間の上海現地子会社にてCOOとして幅広く経営に従事した後、2021年11月にラクスル㈱ ハコベル事業部に入社し、以来物流DXシステム領域の事業開発、カスタマーサクセス部門を管掌。
小島氏が代表理事を務める運輸デジタルビジネス協議会(以下、TDBC)は、デジタル技術を活用し、より安心・安全・エコロジーな運輸業界の実現を目指して設立されました。各々課題を持つ事業者会員(運送事業社)/パートナーシップ会員(発着荷主企業)/サポート会員(ソリューション企業)で構成され、課題解決に向けて定期的にワーキンググループ活動を行っています。
ウェビナーは、小島氏による「新物流2法の背景と概要 最新情報」から始まりました。まず2024年問題の本質を、小島氏はこう捉えています。
そもそも、なぜ働き方改革関連法がここまで物流業界に影を落としてしまうのでしょう。そこには、物流業界で長きに渡って長時間労働が慢性化してきた悪しき慣習があります。小島氏「ドライバーの拘束時間には、順番待ちや荷物の積卸ろしなどの荷待ち、荷役作業時間が含まれてしまっており、それに対し適正な運賃・料金が支払われていないため、低賃金を招いています」
これらの諸問題を物流事業者だけで解決するのは難しいため、国が物流の革新に関する関係閣僚会議を開催し、「物流革新に向けた政策パッケージ/物流革新緊急パッケージ」が発表されました。
物流革新に向けた政策パッケージでは、「物資の流通の効率化に関する法律(物流効率化法)」「貨物自動車運送事業法(運送事業法)」の2法が改正されました。物流効率化法は主に荷主側、運送事業法は主に運送事業者側の義務、努力義務を定めています。
荷主には、運送ごとの荷物の重量増加や荷待ち・荷役作業時間の短縮を、荷主と運送事業者が、運送契約を締結する際は、役務の内容や対価を書面に記載して相互に交付することが義務化されました。また、元請け事業者には、実際に運送する事業者の名前等を記載した実運送体制管理簿の作成が課されます。さらに、一定規模以上の事業者を特定事業者として指定し、中長期計画の作成や物流統括管理者の選任が義務付けされることになりました。
特定事業者の認定基準は、国土交通省・経済産業省・農林水産省の3省合同会議で協議。現在、取りまとめ案として公開、パブリックコメントを経て指定される予定。改正された物流2法は、一部を除き2025年4月より施行される予定となっていることから、早々に準備が必要だと小島氏は述べています。
すでに見直し方針が公表されているひとつに「標準的運賃」があります。
小島氏「これまでの荷待ちに加え、荷役作業の積込料や取卸料が提示されました。そして、荷待ち・荷役時間が2時間を超えた場合は、割増率5割を加算することになりました。また、多重下請構造の是正として、実務事業者が、運賃の10%を下請け手数料として加算して荷主に請求することになりました」
こうした新物流2法を含む政策パッケージが正しく運用され、適切な改善が行われているかどうかは、トラックGメンが訪問調査等を行って問題行為の有無を調査します。
トラックドライバーの長時間労働を解決するための荷待ち時間の短縮については、バース(トラック)予約システム(物流拠点で荷物の積み込みや降ろしの予約・受付を管理するシステム)の導入が検討されています。
実際には、単にバース(トラック)予約システムを導入すれば荷待ち時間が短縮されるわけではなく、そもそもバースの荷役能力が不足している場合には、導入することで新たな弊害が発生する可能性があります。
例えば、ある事例では、以上の図の上部にあるように、バース(トラック)予約システムが導入されるまでは、大型車2台で配送できていたケースで、バース(トラック)予約システムで取得できた予約時間が重なってしまい、その予約時間を守るために4台で対応しています。バース予約によって、さらにドライバーや車両が必要となり、積載率も下げる結果となっています。
小島氏「配車や経路の効率より予約時間を優先するために起きる弊害の例ですが、もちろんシステムを導入して効果を得られた事例もあります。国土交通省でバース予約受付システムの活用事例を公開しているほか、TDBCでも改善事例や弊害やその解決策をまとめた「荷待ち時間ゼロガイドライン」をホームページで公開しています。それらを活用しながら発着荷主、運送事業者が連携して改善に向けた協議と対策を実施してほしいと思います」
いっぽう、荷待ち・荷役時間の把握の手段として期待されるのが、トラックに搭載されている通信型デジタル式運行記録計(以下、デジタコ)です。業務記録機能付きのものは、荷待ち・荷役作業等の業務記録をリアルタイムに取得することができます。
小島氏「今回の2法の改正により、荷主と運送事業者で役務内容や対価を記載した書類を相互交付することが決まりました。運送契約元である発荷主事業者には発着荷主の両方で発生した荷待ち・荷役時間等の料金を含めた請求書が送られてくるわけですから、着荷主側で起きたこともしっかり把握しなければなりません。そのため、デジタコのデータを積極的に活用し、荷待ち・荷役作業時間の把握とそれに基づいた適正な運賃・料金収受の実施との動きが加速しています」
TDBCの活動の中で生まれた異なるメーカーのデジタコ等のデータを一元的に管理することができる動態管理プラットフォーム「traevo Platform」を利用することで、運送事業者だけでなく荷主事業者も協力会社の車両を含む荷待ち、荷役作業時間などの業務記録や車両の動態情報を一元的に把握することが可能になります。
小島氏「traevo Platformは、既存のデジタコ等を活用した協力会社を含む動態情報の一元管理のプラットフォームとして企画・開発しサービス提供を行っていますが、実績データを活用した行荷・帰荷(復荷)のマッチングを行う共同輸送の実現や実積載率、実燃費に基づく精緻なCO2排出量の自動算出などの実現に向けた取り組みも積極的に実践しています」
小島氏「これまで物流業界は電話・FAX等によるアナログな業務処理が主流でしたが、物流革新に向けた政策パッケージの実践には、デジタル技術の活用が必要不可欠です。
今後は、traevo、ハコベルなどが提供するさまざまなソリューションが業界および業界を超えたサプライチェーン全体に大きく貢献していくことを期待しています。」
ウェビナー後半では、株式会社traevo 代表取締役社長の鈴木氏をお迎えし、動態管理プラットフォーム「traevo」の紹介と、期待できる成果についてお話いただきました。
鈴木氏「今回の2法改正の大きなポイントとして荷待ち・荷役時間の短縮が挙げられます。「traevo」は、この部分を可視化するために構築したシステムです。また、アナログが主流の物流業界では、時間変更や遅れの報告は電話が必須で、多重下請けにより重大な連絡が伝言ゲームのようになっていることもしばしば。「traevo」は、異なるメーカーの車載器(デジタコ等)でも情報の一元管理が可能なので、「traevo」をハブにして必要な情報を荷主・元請・着荷主に届けることができます」
「traevo」には一定の間隔で配送車・事業者からデータが収集されます。それをシステム間でAPI連携し、各所ヘ共有する仕組みです。もともとはアナログ作業の削減が目的だった「traevo」ですが、実際には作業の可視化に使われていることが多いと言います。
「traevo」は、すでに大手企業が導入しています。そのひとつがサントリーホールディングスです。サントリーホールディングスが「traevo」を導入したのは2023年6月。委託先となる多数の物流協力会社に依頼し、各社トラックの位置情報を自動的に収集する仕組みを展開されています。
鈴木氏「物流会社によって車両にGPSを搭載しているところもあれば、GPS機器の管理が難しいところもあるなど様々ですが、企業ごとに異なるデジタコ・動態管理サービスでも情報を収集・連携できるのが「traevo」の利点です。このように荷主として物流問題に取り組まれ、自社・協力会社の作業時間を年間6万時間削減という非常に大きな目標を掲げられています」
また、TDBCでも「traevo」をベースに
など、多角的なアプローチで研究が進められています。今後はより精緻な配車シミュレーションを目指してハコベル配車管理との連携も検討中です。
鈴木氏「ハコベル配車管理に「traevo」の実走行データを連携することで、AIが最適ルートを再算出してくれます。一般的なナビアプリよりも、積み荷や配送車に適した配車計画が立てられると考えています」
最後に、ハコベル渡辺より「ハコベル配車管理」について改正された物流2法の観点からサービスの説明をいたしました。
ひとつ目が「配車計画」です。配車計画は、配送先の数が増えれば増えるほど難解となり、効率的な配送計画を作成するには手間と時間がかかります。そのもっとも複雑な部分をAIで自動作成し、効率的な配車・配送計画が可能になります。
渡辺「注目していただきたいのは「マスタ情報」です。たとえばベテランのドライバーしか知りえない荷卸場の条件や時間帯による道の混み具合などがあると思います。細かい情報を事業者様からヒアリングし、マスターデータの精度を高めていくことで最適な配車計画を自動計算できるようになります」
ふたつ目が「配車管理」の機能です。
渡辺「これまで荷主様から運送事業様へメールやFAXで依頼されていた配車指示等をシステム上で行うことができます。履歴データが残るので、物流2法の改正で義務付けられた、相互間での契約書面の交付にもっとも役立つのではないでしょうか」
また、配送管理ではシステム上で請負階層を入力できるようになっており、実運送体制管理簿に求められる情報がすべて充足された形で保存されていきます。これを荷主様ごと、あるいは期間で区切るなどして出力すれば、すぐに管理簿の開示請求に対応することが可能です。
今回のウェビナーでは、2024年問題の本質を捉え直しつつ、新物流2法の解説と、それに対応するデジタル化の現状をご紹介いたしました。また、対応にお悩みの事業者様がいらっしゃいましたら、ぜひ一度壁打ち相手としてハコベルにご相談ください。
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引き続き、荷主企業様や物流事業者様に向けて定期的に各種セミナーを開催しております。
以下よりご確認いただき、ぜひご参加ください!