【セミナーレポート】物流脱炭素化に全力チャレンジ センコーグループの頑張りを学ぶ!“2050カーボンニュートラル”達成へのロードマップと具体策

【セミナーレポート】物流脱炭素化に全力チャレンジ センコーグループの頑張りを学ぶ!“2050カーボンニュートラル”達成へのロードマップと具体策

エルテックラボ代表の物流ジャーナリスト 菊田一郎氏をホストに、さまざまなゲストをお迎えするハコベルスペシャル対談。2024年9月に開催された第43回では、物流事業全体で積極的に脱炭素化を図っているセンコーグループホールディングス株式会社 管理本部 サステナブル推進部 渡邉裕介氏をお迎えしました。環境対応車両やダブル連結トラックの導入など新しい物流への取り組みから、環境植樹や従業員への環境教育まで、グループをあげた脱炭素社会実現に向けたロードマップをうかがいます。

この記事でわかること

  • 環境対応車両やダブル連結トラックの導入など新しい物流への取り組み
  • 脱炭素社会実現に向けたロードマップ

センコーグループホールディングス株式会社 

管理本部 サステナブル推進部 

渡邉 裕介氏

1990年、関西大学社会学部卒業、同年センコー株式会社入社。支店本部にて人事労務管理・収支管理・許認可を担務。2013年に監査室、2015年に安全品質環境管理部を経て2022年よりセンコーグループホールディングス株式会社 管理本部 サステナブル推進部就任。現在に至る。

 

エルテックラボ L-Tech Lab

菊田 一郎氏

1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年間勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体役員等を兼務歴任。この間、国内・欧米・アジアの物流現場・企業取材は約1,000件、講演・寄稿など外部発信多数。
2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化/DX、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスし、著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より(株)大田花き 社外取締役、20年6月より(株)日本海事新聞社顧問、同年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル(株)顧問。著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。 



物流脱炭素化の必要性と必然性

ウェビナー冒頭では、対談の前段として菊田氏から“なぜ今、グリーントランスフォーメーション(以下GX)を推進する必要があるのか”を解説していただきました。

菊田氏によると、一度発生したCO2は大気中に何百年も消えないといいます。溜まり続けたCO2の累積排出量は、2019年までで2兆4000億トンに到達。温暖化を抑制するため、今後の気温上昇を1.5℃以内に抑えるには、残りのCO2排出量上限は4000億トンになる計算です。

近年、日本では猛烈な暑さが頻発し、氷河融解も劇的に進行するなど地球温暖化の加速が止まりません。そのような地球を子孫に残していいはずがない、と菊田氏は主張します。


昨年、日本政府はG7エネルギー・環境担当相による札幌会合の共同声明で、議長国として「2035年の温室効果ガス(GHG)排出削減目標は19年比60%減」との共同声明を発表しました。

菊田氏「この数値は、従来の政府公約“2050年にカーボンニュートラル実現、2030年に2013年度比で46%削減” の目標では達成できません。G7目標を13年度比に換算すると、<2035年に66%削減>になるのです。今策定中の第7次エネルギー基本計画の帰趨によっては今後、全産業界、自治体には目標の上積みが求められるかもしれません」。

2022年、東証プライム市場の上場企業には気候変動によるリスク情報の開示が義務付けされました。自社の持続可能性はもちろん、地球の未来のためにも上場企業はサプライチェーン全体でCO2削減を追求していく必要があります。




菊田氏「BEV(バッテリー式電動自動車)の切り替えや物流のモーダルシフトなど、単社ではなく皆で取り組むことが大切です。グループ全体で脱炭素化を推進しているセンコーグループホールディングス様のお話は、必ず役立つでしょう。

21世紀の今後は、自然エネルギーの時代です。100年に一度のエネルギー革命、皆さんも地球を守るためにぜひGXに取り組んでいただきたいと思います」


全国に拠点を持つセンコーグループならではの、脱炭素に向けた取り組み

ここからは、センコーグループホールディングス株式会社 管理本部 サステナブル推進部の渡邉氏をお迎えし、同社の物流事業を中心としたGHG排出削減の基本方針と具体的な取り組み、及びその成果についてうかがいました。

センコーグループは、5つの事業領域で事業を展開しています。グループ総会社数188社(2024年3月末時点)のうち、物流事業に携わる企業は117社。物流を軸に、生産から消費者まで一貫したサービスを展開しているのが特徴です。

2023年、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、上場企業に対して取引先など供給網全体の「スコープ3」を含めたGHG排出量の情報開示の義務を確定しました。それらも背景に、センコーグループは2024年5月取締会の承認を経て、スコープ1+2についてGHG排出量削減目標を公表しています。


渡邉氏は「M&Aなどにより、バウンダリに変更が生じた場合には、GHG排出量も増えていくため基準年度の排出量を遡及して見直す予定もある」としつつ、物流事業においては環境優良車両・船舶の導入やクリーン燃料の導入、最新技術を取り入れながら、2050年にはカーボンニュートラルを実現するロードマップを描いています。


「スコープ1」では先進環境トラックを積極的に導入

実際に、センコーグループの脱炭素社会に向けた取り組みをスコープ1からご紹介いただきました。スコープ1(自社による直接排出)については

〇車歴10年超の老朽化したトラックを最新ディーゼルトラックへ代替

→中小型車で約15%、大型車で約10%の燃費改善

〇ハイブリッドトラック(電気モーターとディーゼルエンジン等を組み合わせたトラック)、天然ガス、電気(BEV)トラックの導入

〇蓄電池を使ったアイドリングストップ支援機器の活用


水素燃料電池(FCEV)トラックは今年3月にグループ初導入。車体と荷台を分離できる脱着(スワップ)ボディコンテナ車は、荷台を切り離すことで荷役分離が可能となり、トラックの運行効率を高めるのが狙いです。

菊田氏「スワップボディ車は、私も以前から着目しています。ヨーロッパではすでに主流となっており、2024年問題にも大いに効果があると思います」

渡邉氏「その他、長距離輸送では車長25mのダブル連結トラックを2年前から導入しています。現在は関東⇔関西で運行中の8編成、今年中にプラス6編成、2030年までに100編成体制を構築する予定です」

また、センコーグループでは、こうした輸送ドライバーの乗り替わりやトレーラー交換ができる施設「TSUNAGU STATION」を今年8月に静岡県浜松市にオープン、以降も幹線中間拠点への設置を計画しています。


陸上・海上輸送を柔軟に組み合わせ、モーダルシフトを推進

事例では、センコーグループ中核企業で冷凍冷蔵物流を展開する株式会社ランテックの取り組みが紹介されました。


渡邉氏「冷凍冷蔵食品物流に強みを有するランテックでは、特許認定を受けたハイブリッド電動式冷凍機(ハイブリッド大型トラック)を導入しています。これは、小型の蓄電池を併用しエンジン回転数を抑える冷蔵冷却装置を搭載しているものです。倉庫内も自然冷媒式冷却機器を導入しており、こうした取り組みが認められ、2022年に交通関係環境保全優良事業者等大臣表彰を受けました」

菊田氏「コールドチェーンは冷蔵・冷凍設備に大量に電力を消費しますからね」

渡邉氏「食品そのものは一次産品であるため気候変動に大きな影響を受けますから、真摯に環境問題に取り組まなければならないと思っています」

一方、海上輸送の脱炭素取り組みとしては

〇CO2排出係数が高いC重油からA重油専焼船への転換

→20%以上の低炭素化を実現

〇タグボートに特殊プロペラを装着しCO2削減

などが挙げられました。従来の長距離幹線輸送から鉄道・船舶を複合的に活用する「モーダルシフト」を積極的に推進しているといいます。


渡邉氏「片道500kmを超える長距離幹線輸送においてはトラック、鉄道や船舶を複動的に活用しています。(片道500km以上の輸送量に占める、鉄道・海上輸送の比率)モーダルシフト率は、センコーとセンコー汽船の合算で、2022年は67.5%、2023年は69%と約7割となっています」


「スコープ2」では余剰電力の課題を解決し、新たな太陽電池の実験も開始

続いてスコープ2(自社の間接排出/他社から供給された電気や熱を使うことで間接的に排出されるGHGが対象)の取り組みです。太陽光発電の取り組みは、以前はFITのような固定額の売電収入によって収益安定化を図っていましたが、売電価格の下落により収益化が困難に。現在は、屋根の上に自家消費型太陽光発電を設置し、発電・消費量に応じてPPA事業者に料金を支払う新モデルの導入を進めています。

当初、PPAモデルを一般の物流センターに導入した際、センター閑散期はフル積載だと「電気の作り過ぎ」による余剰電力が発生し、大きな課題になりました。

その課題を解決したのが、2021年10月より稼働を開始した岐阜羽島PDセンターです。


渡邉氏「PDセンター稼働日は、屋根上全面に導入した太陽光発電を優先して消費する。余剰電力は、新電力会社の電源として有効活用しています。双方にとってまさにWin-Winのモデル開発になったと思います」

同様の課題解決として、2022年4月から稼働開始した泉南PDセンターでは、既存の送電網を介して余剰電力をグループ内の3拠点が活用する仕組みを構築しました。1対3の自己託送は、当時日本初だったといいます。

菊田氏「物流センターでの太陽光パネルの導入は、各センターの電力使用状況を細かく把握し、最適な設備・運用の仕方をする必要がありますね」

渡邉氏「そうですね。現在は屋根上に取り付ける太陽光パネル以外にも、路面設置型の太陽光パネルを導入したり、物流センターの壁面に貼ることができるフィルム型ペロブスカイト太陽電池の実証実験も開始しました」



サプライチェーンの賛同を得ながら慎重に進める「スコープ3」

最後にスコープ3(サプライチェーン排出量)の取り組みです。

渡邉氏「まずサーキュラーエコノミーとして、ファッション店舗などで発生するポリエチレン製のハンガーカバーを回収し、プラスチック再生工場にて水平リサイクルを行っています。バージンプラスチックは極力使用しない、この取り組みに賛同していただけるメーカーさんに随時お声がけしているところです。

また、トラックのタイヤはリトレッドタイヤ(更生タイヤ)を取り入れています。品質に難色を示す声もありましたが、グループの物流事業で多くのタイヤを必要とすることから、天然資源の削減率や新製タイヤの製造時に由来するCO2排出量を考慮して切り替えを進めています。ただし、タイヤの更生回数は1回限定とし、使った履歴をタイヤメーカーに共有することを徹底しています」


その他、ペットボトル回収プロジェクトや廃プラスチックパレットのリサイクル。そしてサステナブル推進の取り組みとしてライトダウンや環境植樹など、従業員への環境教育まで幅広く取り組みを行っています。


一人ひとりが意識を変えて行動し、カーボンニュートラルを目指して

センコーグループとして環境関連、とりわけ重要課題と挙げている気候変動対策に取り組んだ結果、2023年度の実績として15,260トンのCO2削減に成功しました。(対BAU)


23年度、センコーグループが実際に排出したCO2は、スコープ1・2合わせて約480,000トンといいます。人に言われてやるのではなく、自分事として捉える意識が必要だと改めて両氏は強調しました。

最後に、センコーグループが提唱するCO2=ZEROの、物流センターの未来図を見せていただきました。


渡邉氏「屋根の太陽光パネルや省エネ・ノンフロンの空調機器など建物そのものが環境に優しいイメージです。将来的には棟数を増やし、カーボンニュートラルを目指していきたい。従業員一人ひとりが環境や脱炭素への意識を持って、行動を変えていくことが必要だと思っています」

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