.png?fit=crop&w=3072&fm=png)
ハコベルが毎月開催している人気オンラインセミナー。今回はエルテックラボ代表の物流ジャーナリスト 菊田一郎氏による人材育成論をお届けしました。同氏が別のクローズドな場で披露したところ「もっと多くの人に伝えてほしい」との声が上がり、開催の運びとなりました。人材育成やリーダー論で知られるアドラーの「叱らず・ほめず・教えない」考え方を一歩前進させた菊田氏のリーダー育成論とは?
エルテックラボ L-Tech Lab 代表
物流ジャーナリスト 菊田 一郎 氏
1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年間勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体役員等を兼務歴任。この間、国内・欧米・アジアの物流現場・企業取材は1,000件以上、講演・寄稿など外部発信多数。
2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化/DX、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスし、著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より株式会社大田花き 社外取締役、20年6月より23年5月まで株式会社日本海事新聞社顧問、20年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル㈱顧問。著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。
最初は、現在の物流施策が行われるに至った歴史的経緯を振り返りました。ここ60年あまりで日本は物流危機を3度経験。政府はその都度、対応策を講じてきました。高度経済成長期に起きた最初の危機には一貫パレチゼーション推進などを実施。次のバブル経済期の危機には旧物流2法で規制緩和を断行しました。しかし、直後にバブルがはじけて供給過剰となり業界は疲弊。その後30年続く暗黒の時代に突入しました。その不況の中で皮肉にも生産年齢人口のピークが訪れ、1995年には働き手が8,700万人以上もいました。

その後およそ25年を経た2021年の国税調査では、生産年齢人口は約1,300万人減少。2065年には今からさらに約3,000万人減り、生産年齢人口は4,500万人程度になる見込みです。今後10数年はその減少速度が総人口の減り具合より速いため、2040年前後までは超人手不足の状況が続くでしょう。
そんな状況下で私たちは3度目の物流危機に直面し、政府は前回とは真逆の規制強化で対応しています。現場の主な課題を解決するため、物流効率化法は3大努力義務として「積載効率の向上」「荷待ち時間の短縮」「荷役等時間の短縮」を定め、加えて特定荷主には2026年度から物流統括管理者の設置が義務付けられました。

「物流2024年問題」はどうにか乗り越えた今も「物流2030年問題」が残り、法改正が次々に進められています。これまでの改正下請法では発荷主と運送事業者間の取引が対象でしたが、今後は着荷主の責任も問われることになりそうです。
次は物流統括管理者とCLOの役割・業務にフォーカス。その違いを明らかにし、CLOに求められる資質について説明しました。

菊田氏は、今年2月の国交省の物流政策担当官の講演資料ほかに「物流統括管理者は、法令上の責務を果たしつつ、それにとどまらず、CLOやCSCOの役割も担っていくことが期待される」と記載され、同月の「物流統括管理者(CLO)のあるべき姿に関するワークショップ」提言でも物流統括管理者とCLOの違いが明記されていることを指摘。「物流統括管理者(CLO)」という表記であっても、それぞれ異なる役割と業務範囲を理解し、違いを認識する必要があると訴えました。

その違いを明確にするため示されたのが上の図です。ビジネスの遂行を「実行」「戦術」「戦略」「パーパス」の4層に分け、JISやJPICが定めたロジスティクスとCLOの定義、国が規定する物流統括管理者の責務をあてはめたもので、上に行くほど現場に近く、下に行くほど経営マターへと登ります。戦術・戦略レイヤーには重なる部分が多いものの、物流統括管理者の役割は中長期計画の策定や定期報告、管理体制の整備への対応などで業務効率化を図ることであり、CLOの役割は物流機能の高度化や統合、需要供給の適正化、社会課題への対応、企業価値の向上などはるかに広い領域で物流全体の最適化だと分かります。
「物流統括管理者にはパーパス層の役割に記載がなく、ロジスティクスの最高責任者とは言えないことは明らか。良い・悪いの話ではなく、違う。混同すると混乱を招くから、しっかり区別すべきなのです」と菊田氏。物流課題に詳しい東大の西成活裕教授も両者の役割の違いを明言していることに触れ、「物流効率化法で選任が義務付けられているのは物流統括管理者であって、CLOではありません。まずは3大義務の達成に集中して取り組むこと。余力があればぜひ、CLO設置の組織改革に挑んで欲しいと思います」と話しました。

物流全体の最適化を担うCLOには、実に幅広い分野の知見や経験が求められます。これらすべてを併せ持つ人は少ないので、チームで取り組むことが基本です。チームのリーダーには、各能力を持った人を集めてゼネラリストとして全体の調整を行う能力が必要です。
ここまで説明した上で、菊田氏は「そうした知識・技能・経験だけでCLO適格人材と言えるのでしょうか?」と問題提起。そして、東大の西成活裕教授が高度物流人財/CLOの要件のひとつに「倫理観(人格)」を挙げていること、そうした人間性を養うにはリベラルアーツが大事だと説いていることを紹介し、その考えに賛同の意を表しました。

「CLOチームの中核となるリーダーには、倫理観、責任感、利他の志などを備え、従業員に慕われトップや社外の関係者からも信頼される人間性が必要です」と菊田氏。その人間性とは、改革への抵抗に負けない胆力、労働環境や地球環境を守る使命感などであり、この人間性を磨くことこそがCLOリーダー育成のもう1つの鍵だと語りました。

働く人がリーダーに優れた人間性を求めるのは、今に始まったことではありません。80年も前に、経営学者のドラッカーは著書『企業とは何か』の中で、従業員が求めるリーダー像について書いています。根拠となったのは2年間の調査結果。GMからマネジメント構造の調査を依頼されたドラッカーは、「働く人にとって何が大切か」を調べました。そこで明らかになったのは、従業員の最たるモチベーションは賃金や昇進ではなく、成果・貢献・責任であること、そして尊敬できる会社や上司の下で能力を発揮したいと望んでいることでした。
「上に立つべきは、優れた人間性を備えた人物。これを青臭い理想論だと片付けるのではなく課題山積みの中でも私たちは、ムーンショットとして掲げ続けるべきと思います」
では、そうした優れた人材を育てるにはどうすれば良いのでしょうか。

菊田氏が示したのは、人材育成について山本五十六が語ったとされる言葉です。3句それぞれを端的に表すとティーチング、コーチング、エンパワーメントとなり、非常に納得感があります。しかしアドラーは「叱るな」「ほめるな」「教えるな」と真逆を主張しています。そんな人材育成が本当に成果を出せるのでしょうか? 1つ1つを見ていきます。

「叱る」とは、目上の者が目下の者に対して行う権力の行使で、憤りから行われることもあります。臨床心理士の村中直人氏は「叱る」とは「言葉を用いてネガティブな感情体験(恐怖、不安、苦痛、悲しみなど)を与えることで、相手の行動や認識の変化を引き起こし、思うようにコントロールしようとする行為」と再定義。危機回避のための緊急対応を除き、容認しない姿勢を取っています。「叱責は人格・尊厳を害する行為で、従業員のモチベーション低下、エンゲージメント喪失、離職につながります」と菊田氏。
村中氏は、「人は叱られて苦しまなければ変化・成長できない」という根強い考えは誤りで、苦しみが成長につながるのは、本人が能動的にその苦しみを乗り越えたときだけだと説いています。また、人に罰を与えると報酬系回路が活性化して充足感を得られることで、「叱る依存症」に陥っている人が少なくないと警鐘を鳴らしています。叱る行為は上から下へと連鎖することがあるので要注意です。

ほめることは、実は上から目線の行為。自立心を阻害して相手をコントロールしようとするもので、本質的には叱る行為と同じ側面があるので、注意が必要なのです。望ましいのは「横から目線」で自身の感想を伝え、勇気づけること。これこそアドラーが最も重視した人材育成の核心概念。相手が自分の力で課題を解決できるよう支援することが大切です。

アドラーは一切教えるなと言っているわけではありません。当然ながら最初は知識・技術の基本を教える必要があるので、「ティーチング」で正解を教えるやり方で良いでしょう。ただ、すべてを教え、指示し、命令してしまうと「指示待ち族」になってしまう恐れがあります。そこで基本を教えた後は、質問を投げかけて相手に意見を促す「コーチング」を推奨しています。
「自分で考え、自分の意志で行動する社員を育てたいなら、指示や命令を通じて答えを初めから言ってはいけない。あえて教えず、空白を作り、それを自分で考えて埋めさせることが、人財育成の本質だ」とアドラーは言っています。部下を信頼し、能動性の発芽と成長を支援することが、「教えず、育てる」極意のひとつ。能動性を身につけた人材は、教えずとも自ら学び行動するはずです。

その上で自発性・能動性を生む「意欲」を維持するために、菊田氏は本テーマをさらに深堀りしました。それは意欲の源泉となる「使命感」を獲得することです。目標達成のための決意、使命感を持つ人は強く、簡単には揺るぎません。使命感を触発することが、究極の「教えず、育てる」方法なのです。
最後に菊田氏は、「合本主義」で環境保全と経済成長の両立を説いた渋沢栄一、著書『倫理資本主義』の中で「企業の活動目的は善行」と述べているマルクス・ガブリエルを例に挙げ、物流リーダーがめざすべきSDGsの正当性を強調。「全世界で逆風が吹き荒れていますが、あきらめずに、地球環境と人間社会を守るために最優先すべきSDGsの達成をめざしましょう」と講演を締めくくりました。

◇◇◇
ハコベルでは定期的に各種セミナーを開催しております。
以下よりご確認いただき、ぜひご参加ください!