地球温暖化対策とエネルギー使用の合理化は、企業が避けて通れない重要な課題です。この課題に対応するために制定された法律が「温対法」と「省エネ法」です。
これらの法律は、目的や対象範囲、遵守すべき基準などに違いがあります。そのため、企業は自社の事業特性を踏まえ、それぞれの法律の要求事項を正しく理解したうえで、計画的な対策を講じることが重要です。
特に、省エネの推進は2つの法律に共通する重要な取り組みであり、企業の温暖化対策と経営効率化を同時に実現する鍵となるでしょう。
本記事では、温対法と省エネ法の違いについて詳しく解説します。また、それぞれの目的や背景、企業が取るべき具体的な対応策も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)は、地球温暖化の進行を抑制し、持続可能な社会を実現するための基本方針を定めた法律です。環境省によれば、1997年に採択された京都議定書を受け、日本では2002年に温対法が制定されました。国や地方自治体、事業者が地球温暖化対策を実施する際の基本的な枠組みを定めています。
※参考:環境省,地球温暖化対策計画(令和3年10月22日閣議決定)
関連記事▶省エネ法における特定荷主とは?概要と課せられる3つの義務について解説
温対法の主な目的として、以下の4つが挙げられます。
温対法は、温室効果ガスの排出量を削減し、地球温暖化の進行を抑制することを目指しています。これは、日本国内での削減努力を促すだけではなく、国際的な削減目標の達成にも寄与するものです。
国、地方自治体、事業者、そして国民が一体となり、それぞれの役割を果たしながら温暖化対策を推進することが求められています。
長期的には、脱炭素社会を目指し、再生可能エネルギーの導入や技術革新を促進することで、2050年までのカーボンニュートラル実現を目指しています。
地球温暖化対策は、国際的な枠組みのなかで進められており、日本は責任ある一員として、削減目標の達成に向けた積極的な役割を果たすことが求められています。
温対法は、1997年の京都議定書採択を受け、日本における地球温暖化対策を強化するため2002年に制定されました。この法律は、1992年の地球サミットで採択された「気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)」をもとにした国際的な取り組みを背景にしています。
日本は京都議定書を2002年に締結し、温対法を活用して温室効果ガス削減目標の達成を目指してきました。さらに、2016年には「地球温暖化対策計画」が策定され、2030年度までに2013年度比で46%の排出削減を目指す目標が設定されています。
※参考:外務省,気候変動に関する国際枠組み
ここでは、温対法と省エネ法の違いについて解説します。
温対法(地球温暖化対策推進法) | 省エネ法(エネルギーの使用の合理化などに関する法律) | |
目的 | 地球温暖化防止のための政策推進 | エネルギー消費の効率化とエネルギー浪費の削減 |
対象 | 温室効果ガス(CO2、CH4、N2O、HFCなど) | エネルギー(電力、燃料など) |
義務内容 | 温室効果ガス排出量削減目標の設定・報告 | エネルギー消費原単位(効率)の向上、エネルギー使用量の報告 |
報告対象 | 温室効果ガス排出量(CO2など) | エネルギー消費量(電力、燃料など) |
主な施策 | ・温室効果ガス排出量の報告・管理 ・地球温暖化対策計画の策定 ・再生可能エネルギーの導入促進 ・カーボンニュートラルの推進 | ・エネルギー管理体制の強化 ・省エネ計画の策定・報告 ・省エネ基準の設定 ・省エネ設備の導入支援 ・物流・輸送の省エネ推進(モーダルシフトなど) |
主体 | 環境省(地方自治体も関与) | 経済産業省 |
省エネ法は、エネルギーの使用の合理化を総合的に進めるための法律です。資源エネルギー庁によると、1979年に制定された省エネ法は、石油危機を契機としたエネルギー安定供給への対応から始まりました。その後、省エネ法は1998年以降、地球温暖化対策の観点を取り入れた改正を重ね、エネルギー使用の合理化を通じたCO2排出削減にも重要な役割を果たしています。
※参考:経済産業省(資源エネルギー庁),はじめに 3-2
※参考:国土交通省,省エネ法(工場・事業場分野)に基づく定期報告書等の提出について
温対法は地球温暖化対策全体の推進を目的とし、そのなかで省エネの推進は重要な施策のひとつです。
一方、省エネ法はエネルギーの使用効率を高めることを目的としており、その結果として地球温暖化対策に貢献します。環境省によると、温対法の目的は「地球温暖化対策の推進」(温対法第1条)、省エネ法の目的は「エネルギーの使用の合理化」(省エネ法第1条)と法律上明確に区別されています。
※参考:環境省,地球温暖化対策推進法と地球温暖化対策計画
※参考:国土交通省,エネルギーの使用の合理化等に関する法律(住宅・建築物関係)のページ
※参考:経済産業省(資源エネルギー庁),エネルギー基本計画,p16
温対法は温室効果ガス全般、省エネ法はエネルギー使用に伴うCO2が主な対象です。温対法施行令第3条によると、温対法の対象はCO2(二酸化炭素)、CH4(メタン)、N2O(一酸化二窒素)、HFC(ハイドロフルオロカーボン)など7種類の温室効果ガスとされています。
一方、省エネ法第2条、第3条によると、省エネ法の対象は主に燃料や電気の使用に伴うエネルギー起源のCO2とされています。
※参考:環境省,温室効果ガス総排出量 算出方法ガイドライン,p6
※参考:経済産業省(資源エネルギー庁),省エネ法の手引き,p2
温対法にはCO2削減目標、省エネ法にはエネルギー原単位目標の遵守義務があります。温対法第8条によると、温対法では、国が策定する「地球温暖化対策計画」に掲げる削減目標を達成しなければなりません。
省エネ法第5条によると、省エネ法では、事業者に毎年1%以上のエネルギー原単位の改善が求められます。
※参考:環境省,地球温暖化対策計画,p16
※参考:経済産業省(資源エネルギー庁),省エネ法の手引き,p12
温対法は温室効果ガス排出量、省エネ法はエネルギー使用量の報告義務があります。温対法第21条の2によると、温対法において、一定量以上の温室効果ガスを排出する事業者は排出量の国への報告が必要です。
省エネ法第15条によると、省エネ法では、一定量以上のエネルギーを使用する事業者に、使用量の国への報告が義務付けられています。
※参考:環境省,地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく 温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度の主な論点,p1
※参考:経済産業省(資源エネルギー庁),省エネルギー法 定期報告書・中長期計画書 (特定事業者等)記入要領 ,p2
温対法は、再生可能エネルギーの普及や温室効果ガス排出削減といった広範囲な施策を含む一方で、省エネ法はエネルギー使用効率に特化し、具体的な基準や管理体制を強化しています。両法律は目的や範囲に違いがありますが、省エネ法の施策は温対法の目標達成に寄与する補完的な役割を果たしています。
次に温帯法、省エネ法それぞれに対して、企業が具体的にどのような対応を取るべきかを解説します。
温対法では、特定排出者(一定量以上の温室効果ガスを排出する事業者)に対し、排出量の算定と国への報告が義務付けられています。
温室効果ガス排出量を正確に把握するため、以下の対応が必要です。
・排出量を把握・管理する専任チームや体制を整備する
・環境省の「温室効果ガス排出量算定・報告制度」などを活用し、基準に従った算定を実施する
・自社の温室効果ガス排出量(スコープ1、2、3)を算定し、政府や自治体に報告する
排出削減目標を設定し、以下を含む計画を策定します。
・短期および中長期の削減目標を明確化する
・高効率機器や省エネ設備を導入する
・再生可能エネルギーの積極的な導入を計画に盛り込む
太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの活用を促進し、排出量を削減します。
温対法と同様に、省エネ法でも報告義務があります。
※出典:経済産業省資源エネルギー庁,省エネ法の概要
省エネ法の対象となるのは、以下の事業者です。
・工場・事業場をもつ事業者
・貨物/旅客輸送事業者、荷主
さらに、以下のいずれかに該当する事業者には、エネルギー使用に関する報告義務があります。
・特定事業者(原油換算エネルギー使用量合計が1500kl/年以上)
・特定貨物/旅客輸送事業者(保有車両トラック200台以上など)
・特定荷主(年間輸送量3,000万トンキロ以上)
一定以上のエネルギー使用量がある事業者は、エネルギー管理者を選任し、エネルギー使用状況を適切に管理します。
年次報告書を作成し、経済産業省や地方自治体に提出します。報告義務のある事業者は、基準に従った報告を徹底しましょう。
省エネ法が定める基準に基づき、必要な改善を実施します。
・IoTやAIを活用し、エネルギー使用量をリアルタイムで監視・最適化する
・モーダルシフト(鉄道や船舶への転換)や共同配送を活用し、輸送効率を向上させる
・トラックの燃費向上やルート最適化によりエネルギー使用の削減する
温対法と省エネ法はどちらも環境問題に対応するための法律ですが、目的や対象範囲、遵守すべき基準などに違いがあります。
温対法は地球温暖化対策を目的に温室効果ガスの排出削減を重視しており、省エネ法はエネルギー使用の効率化と合理化を目指してエネルギー管理や削減を求めています。
温対法と省エネ法は密接に関連しているため、企業はそれぞれの要求事項を理解し、計画的な対策を講じることが重要です。