省エネ法における「特定荷主」として認定されると、他の荷主にはない多くの義務が課せられ、どのように対応すべきか頭を悩ませる企業も多いでしょう。
法令遵守のためのコストや業務負担が増える中で、効率的にこれらの義務を果たす方法を見つけることが求められます。
本記事では、特定荷主とは何か、そして企業が直面する3つの主要な義務とその対応策について詳しく解説します。
特定荷主を理解するために、まず「荷主」とは何かを把握しましょう。ここでは、荷主ならびに特定荷主の概要について解説します。
荷主とは、物流プロセスにおいて、貨物の輸送や保管を委託する個人または組織のことです。つまり、商品や材料を輸送する際、その輸送を依頼する者が「荷主」となります。
荷主には「発荷主」と「着荷主」の2種類があり、発荷主は出荷する側、着荷主は到着先の荷主を指しています。物流業界で「荷主」というと、発荷主を示すことが大半です。
また、荷主は省エネ法(正式名称:エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)に基づいて以下の3つに分類されます。
上記のうち、一定の条件を満たした特定の荷主が「特定荷主」と指定されます。
特定荷主とは、特に大規模な貨物輸送を取り扱う荷主のことです。具体的には、年間の貨物輸送量が3,000万トンキロ以上となる荷主が特定荷主として指定されます。この規模の荷主は、物流業界において非常に大きな影響力を持つため、省エネ法に基づいて特定の義務を果たさなくてはなりません。
特定荷主には、特定荷主ではない荷主よりも厳しい省エネ義務が課されます。次項より、特定荷主が果たすべき義務について詳しく見ていきましょう。
特定荷主として指定された企業は、物流業界におけるエネルギー効率の向上に貢献するため、省エネ法に基づいた3つの義務を果たさなければなりません。ここでは、その3つの義務について解説します。
特定荷主に指定された場合、その事業所を管轄する地域の経済産業局長に対して、貨物の輸送量届出書を提出しなくてはなりません。輸送量届出書の提出は、特定荷主に指定された初年度の1回に限り行なうもので、提出期限は毎年4月末までと定められています。
特定荷主は年に1回、毎年6月末日までに「中長期計画書」を作成し、主務大臣(経済産業大臣および事業所管大臣)に提出しなくてはなりません。この計画書には、今後のエネルギー効率改善に向けた具体的な方針や目標を記載する必要があります。
ただし、省エネ取り組みの優良事業者として認められる場合は、中長期計画の提出義務が免除されることがあります。経済産業省資源エネルギー庁の省エネポータルサイトには、免除条件について以下のとおり記載されています。
直近過去2年度以上連続で「5年間平均エネルギー消費原単位を年1%以上低減」を達成している場合、翌年度以降、最後に提出した中長期計画の計画期間内(5年が上限)は、上記の条件を継続して満たしている限りにおいて、中長期計画の提出を免除します。
引用:経済産業省資源エネルギー庁「事業者向け省エネ関連情報 輸送の省エネ法規制」
なお、免除条件を満たす事業者も、中長期計画をその期間継続して提出することは可能です。
特定荷主は年に1回、毎年6月末日までに、主務大臣に対して定期報告を行なわなくてはなりません。定期報告書には、おもに前年のエネルギー使用量や輸送実績、および省エネ計画の進捗状況などを記載します。特定荷主が年間を通じてどのような省エネ対策を講じているかを評価するうえで、定期報告は重要なデータとなります。
特定荷主が中長期計画の作成や定期報告を行なわなかった場合、省エネ法に基づき、50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。特定荷主に指定された事業者は義務を怠らず、適切に報告を行ないましょう。
ここでは、特定荷主に関するよくある質問を見ていきましょう。
特定荷主制度が導入された背景には、2006年の省エネ法改正があります。運輸分野におけるエネルギー使用の合理化を目的としたこの法改正により、物流業界に対しても省エネ対策が求められるようになりました。
物流業界では資源の効率的な利用が重要な課題となっており、エネルギー消費を抑えつつ、より効率的に輸送を行なう必要性が年々高まっています。大量の貨物を取り扱う特定荷主が厳しい省エネ義務を果たすことにより、物流業界全体のエネルギー効率が向上し、環境負荷が下がることが期待されます。
前述のとおり、特定荷主は省エネ法で定められた3つの義務(貨物の輸送量届出書の提出・中長期計画の作成・定期報告)を果たさなくてはなりません。義務を怠ったり、実施内容に問題があったりすると、国により以下の措置がとられる場合があります。
措置 | 内容 |
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勧告および命令 | ・勧告:エネルギー使用の合理化の状況が判断基準に対し著しく不十分である場合 ・公表:勧告に従わない場合 ・命令:正当な理由なく勧告の内容に沿った措置をとらない場合 |
報告および立入検査 | 荷主に対する措置に必要な回数分のみ実施 |
罰則 | ・計画の作成および定期報告を行なわない者や虚偽の届出を行なった者には50万円以下の罰金 ・省エネへの取り組みが荷主の判断基準と照らして著しく不十分であると認められる場合は100万円以下の罰金が科せられることがある |
上記は特定荷主に対してのみ取られる措置となります。特定荷主に指定された事業者は、より遵法意識を持ち事業を推進していくことが求められるでしょう。
特定荷主は、荷主のなかでも規模の大きい事業者である分、省エネに関して負うべき責務が多くなります。省エネ法で定める3つの義務(貨物の輸送量届出書の提出・中長期計画の作成・定期報告)を履行し、持続可能な経済活動を展開していかなくてはなりません。
省エネ法に準じて事業を推進するためには、効率的な輸送を行なえるように社内体制を整備することが大切です。