物流業界では、取引の透明性を高めるために「下請法」と「物流特殊指定」というルールが設定されています。
下請法は、元請企業と下請企業の間で起きる取引の不公平を防ぐための法律です。物流特殊指定は、物流業界特有の慣行を是正するために定められた規制となっています。これらのルールは、荷主と物流事業者の間で適切な取引環境を維持することを目的としています。
本記事では、これらの規制の内容や違反しやすいポイント、注意すべき行為について詳しくお伝えします。
下請法と物流特殊指定は、いずれも公正な取引を確保するための法律や規制であり、独占禁止法に基づいています。それぞれの目的や適用範囲には違いがありますので、以下にその関係性を整理します。
独占禁止法 | ・事業者間の公正かつ自由な競争を促進し、消費者の利益を図ることが目的 |
下請法 | ・正式名称:下請代金支払遅延等防止法(独占禁止法の補完法) ・特に下請取引における代金支払の遅延や不公正な取引条件を防止するための法律で、物流業界においては元請と下請の関係にある事業者間の取引を規制する |
物流特殊指定 | ・正式名称:特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の不公平な取引方法(独占禁止法上の告示) ・物流事業者に対する荷主の優越的地位の乱用を防ぎ、物流取引における公正性を確保するための規制 ・物流特殊指定は独占禁止法の枠組みの一部として、物流業界に特化して設けられた |
下請法 | 物流特殊指定 | |
取引の主体 | 元請企業と下請企業の関係に適用される | 荷主と物流事業者の取引に対して適用される |
対象となる取引 | ・特定の役務(サービス)提供や物品の製造・修理、情報成果物の制作などが対象 ・物流業界で下請法が適用されるのは、元請企業が物流サービス(例:保管や配送の再委託など)を下請企業に発注する場合 | ・荷主が物流事業者に運送、保管、その他の物流業務(例:流通加工、輸送管理など)を委託する取引 |
規制対象 | ・代金の支払遅延や減額 ・発注内容にない作業の強要や返品 ・下請企業へ不利益を強いる取引条件の強制 など | ・一方的な運賃・料金の引き下げ要求 ・対価に見合わないサービスの強要 ・不合理な返品や支払いの遅延 など |
ここでは下請法と物流特殊指定について詳しく解説します。
下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)は、独占禁止法の補完法と位置付けられています。物流業界では主に元請企業と下請企業の間で発生する取引において、下請企業が不利益を被らないよう保護するための法律です。
この法律は、公正取引委員会と中小企業庁によって所管されており、元請企業が取引の過程で下請企業に対して不公正な行為を行わないように規制しています。
元請企業と下請企業の資本金規模が異なる場合、特に下請企業が元請企業よりも小規模であるケースに適用されます。適用される資本金基準は以下の通りです。
①物品の製造委託・修理委託・政令で定める情報成果物作成委託・役務提供委託(倉庫保管及び情報処理に係るもの)
親事業者 | 下請事業者 |
資本金3億円超 | 資本金3億円以下(個人を含む) |
資本金1千万円超3億円以下 | 資本金1千万円以下(個人を含む) |
②情報成果物作成委託・役務提供委託(倉庫保管及び情報処理に係るもの、①を除く)
親事業者 | 下請事業者 |
資本金5千万円超 | 資本金5千万円以下(個人を含む) |
資本金1千万円超5千万円以下 | 資本金1千万円以下(個人を含む) |
※参考:公正取引委員会,下請法の概要
下請企業に対する代金の支払遅延、支払減額、一方的な返品、その他の不公正な条件の押し付けなどが禁止されています。下請法違反を行った際には公正取引委員会から勧告があります。違反になった場合には「企業名の公表」もあるため、注意が必要です。
親事業者は注意して公正な取引を行う必要があります。
物流特殊指定の正式名称は「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」です。物流特殊指定は、独占禁止法の具体化にあたる規制です。
物流業界における荷主と物流事業者の取引に特化しており、荷主の優越的地位の乱用を防ぐために制定されました。
物流特殊指定の対象となる取引の条件は以下の2つです。
・荷主から委託を受けている取引が運送サービスか倉庫保管サービスであること
・荷主と物流事業者の資本金区分が以下に該当していること
荷主(特定荷主) | 物流事業者(特定物流事業者) |
資本金3億円超 | 資本金3億円以下(個人を含む) ※資本金3億円超の事業者の子会社を除く。 |
資本金1千万円超3億円以下 | 資本金1千万円以下(個人を含む) ※資本金1千万円超の事業者の子会社を除く。 |
優越的地位に立つ荷主 | 取引上地位が劣っている物流事業者 |
※参考:国土交通省,物流特殊指定の概要
荷主が物流事業者に対して優越的地位を濫用し、不当な価格の引き下げ、過剰なサービス要求、受領拒否などを行うことが禁止されています。
公正取引委員会の公式サイトに物流特殊指定の違反行為に関する記載があるので確認をしておきましょう。
ここでは、特定荷主の禁止行為について詳しく解説します。以下の行為は、特定荷主と物流事業者の取引関係において問題になりやすいため注意しましょう。
荷主が物流事業者に対して「顧客からの支払いが遅れている」という理由で代金支払いを遅延させる行為が該当します。これは、物流事業者の資金繰りに悪影響を及ぼすため、不当とみなされます。
物流事業者がすでに完了した業務に対し、荷主が「業務のコスト削減が必要」などという理由で一方的に支払い額を減額する行為です。取引条件を変更し、物流事業者に不利益を与える行為は規制されています。
荷主が物流事業者に対し「他社はもっと安い運賃で受けている」などと圧力をかけ、不当に安い運賃で契約させる行為です。物流事業者の経営を圧迫するため、公正取引委員会によって規制されています。
荷主が物流事業者に対して、物流業務に関係のない専用の作業道具やソフトウェアの購入を強制する行為です。また、荷主が指定するサービスの利用(例:特定のセキュリティサービス契約)を物流事業者に無理に要求する行為も含まれます。こうした強制行為は、物流事業者に不要なコストをかけるため、禁止されています。
荷主が物流事業者に対して、割引が困難な長期の手形で支払う行為です。例えば、通常の手形期間を大幅に超えた1年超の手形で支払う場合、物流事業者の資金繰りに負担をかけるため、不公正な行為とされています。
荷主が契約にない「追加業務」や「無償でのサービス提供」を物流事業者に要求する行為です。例えば、追加の倉庫保管作業や納品先での特殊な処理を無償で求めることは、過度な負担を強いるため禁止されています。
物流事業者が完了した配送業務に対し、荷主が後から「指定されたルートで運んでいない」といった理由で配送のやり直しを求め、追加費用を支払わない行為です。契約内容にないやり直しの強要は不公正とされています。
物流事業者が荷主の不当な要求(例:無償での追加作業)を拒否した場合、荷主が報復として次回以降の発注を減らしたり、取引条件を一方的に厳しくしたりする行為です。これは取引の公正性を損なうため、禁止されています。
物流事業者が公正取引委員会に不公正取引の情報を提供したことを理由に、荷主がその事業者との取引条件を不利に変更したり、取引を停止したりする行為です。公正取引委員会への通報や情報提供を理由とする報復は違法とされています。
※参考:一般社団法人日本アスファルト合材協会,物流特殊指定,p5-11
下請法と物流特殊指定について解説をしました。下請法と物流特殊指定は物流業界の公正化が目的の法律です。違反を行えば企業名が公表される可能性もあるため、大きなイメージダウンにつながってしまいます。下請法と物流特殊指定については公正取引委員会の資料をよく読み、内容を理解することが重要です。
自社が違反行為を行っていれば罰を受ける可能性もあるため、この機会に業務を見直してみてください。