物流業界のトレーサビリティとは?概要や種類をはじめ目的や要素技術も解説

物流業界のトレーサビリティとは?概要や種類をはじめ目的や要素技術も解説

トレーサビリティは、日本語で「追跡可能性」や「生産履歴」などの意味をもつ言葉です。物流業界のトレーサビリティとは、原材料の仕入れから消費者の手元に届くまでのプロセスに関する記録や履歴追跡などを指します。トレーサビリティを導入すれば、貨物の位置情報可視化や業務品質の向上など、さまざまな効果を得られるでしょう。

本記事では、物流に関するトレーサビリティの概要や目的、要素技術について解説します。

この記事でわかること

  • 物流のトレーサビリティの概要

1. トレーサビリティとは

はじめに、トレーサビリティの概要や重要性について解説します。

トレーサビリティの概要

トレーサビリティとは、Trace(トレース)とAbility(アビリティ)という2つの英単語を組み合わせた造語です。Traceは「追跡」、Abilityは「能力」を意味することから、Traceability(トレーサビリティ)は「追跡可能性」「生産履歴」などと訳されます。

物流業界においては、原材料の仕入れから消費者の手元に届くまでのプロセスにおいて、いつ、どこで、誰が、どのように商品を届けたかを記録し、その履歴を追跡可能とする仕組みを指します。

トレーサビリティの重要性

トレーサビリティが日本で注目されるようになったきっかけは、2000年代に発生した狂牛病問題です。狂牛病(牛海綿状脳症/BSE)に発症した牛の特定部位(頭部、せき髄など)を人間が食べると感染してしまうことから、大きな社会問題となりました。そのほかにも、産地偽装などが頻発し、食品の信頼性や安全性が大きく損なわれたのです。

こうした事件を機に、商品の流通における透明性を高め、消費者が安心して購入・利用できることを目的として、トレーサビリティが重要視されるようになりました。

ちなみに、食品業界では、トレーサビリティの導入により産地偽装問題が減少。農産物流通において、消費者が産地情報をQRコードで確認できる仕組みが整備されました。

主なトレーサビリティの種類

トレーサビリティは主に「チェーントレーサビリティ」と「内部トレーサビリティ」の2つに分けられます。両者の最大の違いはスコープ(対象とする範囲・対象)です。

チェーントレーサビリティ

チェーントレーサビリティとは、調達→生産・製造→物流→販売といったサプライチェーン全体を対象に、各工程の動きを追跡することを指します。各工程を担当する企業が異なる場合(生産を担当する企業 など)でも、自社が生産した製品がどの工程を流れているかを確認可能です。

また、消費者にとっても、自身が購入する(購入した)製品の履歴が可視化されるため、信頼性が高いものを選択できるようになります。

内部トレーサビリティ

内部トレーサビリティとは、1つの企業や工場内で行われるトレーサビリティです。製品を生産する工場の場合、原材料の仕入れ→加工→検品→納品といった工程を追跡します。

また、物流企業の場合、さまざまな配送拠点を経由しながら消費者に届けるまでの経緯を追跡可能です。内部トレーサビリティに取り組むことで、自社内の課題や問題を検出し、適切な対策を講じやすくなります。


2. 物流業界におけるトレーサビリティの目的

トレーサビリティを導入すれば、物流プロセス全体の品質向上につながるさまざまなメリットを得られます。本章では、物流業界におけるトレーサビリティの目的について解説します。

貨物の位置情報可視化

物流業界は、単に貨物を運ぶだけではなく、さまざまな人や物をつなぐ役目を担っています。そのため、貨物がサプライチェーン上のどこにあるかを把握することが重要です。

物流企業がトレーサビリティに取り組めば、貨物の所在地や到着予定など配送の進捗状況をリアルタイムで把握できます。また、交通渋滞や自然災害といった外的要因による配送遅延やトラブルを早期に検出し、対策を講じることが可能です。

 ・フローチャート例

  原材料調達 → 工場生産 → 倉庫保管 → 配送 → 消費者



物流品質の管理

物流企業のミッションは、貨物を正確かつ完全な状態で届けることです。トレーサビリティの導入により、物流の透明性や正確性を向上させることができます。

また、貨物のなかには、デリケートな扱いが求められるものも少なくありません。食品や医薬品は高い安全性が求められ、精密機器などは丁寧な輸送が必要です。トレーサビリティにより、温度や湿度、衝撃など物流中の商品の状態を記録することで品質保証が可能となります。

不良品や問題に関する原因究明および対策

日々莫大な貨物の配送を担っている物流業界では、さまざまな要因によって誤出荷や配送遅延などの問題が発生します。

トレーサビリティを導入すれば、何らかのトラブルが発生した場合に、問題の発生源や影響範囲を迅速に特定可能です。製品のリコールや返品処理などの対応も効率化できるでしょう。

規制遵守とリスク管理

物流企業は、さまざまな国や業界の法規制を遵守しながら貨物を配送しなければなりません。具体的には、医薬品に関する輸送であればGDP(Good Distribution Practice)、食品に関する輸送であればHACCPの基準を遵守する必要があります。

トレーサビリティは、法規制への対応はもちろん、リスクの最小化により安心安全な物流の実現に寄与します。輸送禁止品や偽造品、盗難品などの流通防止にも有効です。

※参考:厚生労働省,HACCP(ハサップ)

顧客満足度の向上

トレーサビリティにより、顧客は貨物の配送状況や到着時間などをリアルタイムで把握可能です。

貨物に関する問題(遅延や紛失、破損など)が発生した場合も、迅速な対応が取れるため、顧客への影響を最小限に抑えられます。また、物流品質や法規制に沿った配送履歴も確認できるため、顧客満足度の向上が期待できます。


3. トレーサビリティに必要な技術

トレーサビリティには、さまざまな最先端技術が活用されています。本章では、トレーサビリティに必要な技術について解説します。

技術

特徴

主な用途

RFID

無線タグで一括情報読み取りが可能

倉庫内の在庫管理、出荷確認

IoTセンサー

温湿度や振動データをリアルタイム収集

医薬品や食品の輸送中品質管理

ブロックチェーン

データ改ざん防止、透明性の高い記録が可能

サプライチェーン全体の履歴管理


RFID

RFID(Radio Frequency Identification)とは、電波でやり取りを行う無線タグです。類似技術にバーコードやQRコードなどがありますが、これらは1個ずつ手動で読み取りを行う必要があります。

一方でRFIDは、無線タグ情報の読み取りや書き換えが一括で可能なため、トレーサビリティに関する処理を効率化できます。

IoTセンサー

IoTセンサーとは、さまざまなセンサーにネットワークへ接続できる機能を付加したものです。GPSセンサー、温湿度センサー、振動センサーなどが挙げられます。

これらのIoTセンサーを利用すれば、リアルタイムなデータ収集や異常検知が可能となるため、質が高いトレーサビリティを実現できます。

ブロックチェーン

ブロックチェーンは、データを分散管理する技術であり、改ざんが難しい点が特徴です。ブロックチェーンの活用により、トレーサビリティの透明性を向上させることができます。


4. まとめ

物流業界におけるトレーサビリティとは、いつ、どこで、誰が、どのように商品を届けたかを記録し、その履歴を追跡可能とする仕組みです。物流企業がトレーサビリティを導入すれば、貨物の位置情報可視化や物流品質の向上など、さまざまな効果が期待できます。消費者が安心・安全に利用できるサービスを実現するために、トレーサビリティの導入を検討してみてはいかがでしょうか。


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