エルテックラボ代表の物流ジャーナリスト 菊田一郎氏をホストに、さまざまなゲストをお迎えするハコベルスペシャル対談。2024年6月に開催された第42回では、物流センターの自動化において先進的な取り組みを続ける、株式会社スミレ・ジョイント・ロジ 代表取締役CEO 山口耕平氏をお迎えしました。機械の導入だけではできない本当の効率化を実現するために、山口氏が重視していることとは? 「自動化の“要”」に迫るお話をうかがいます。
株式会社スミレ・ジョイント・ロジ
代表取締役
山口 耕平 氏
大型トラック運転手・営業職を経て、1997年、現在のスミレ・ジョイント・ロジの前身となる運送会社に入社。その約1年後、会社の資金繰りが悪化し倒産寸前にあったところを、コンビニで下ろしてきた10万円で買収。社名を変更し、倉庫業務をメインに再スタートを切る。2000年前半頃からBtoBの倉庫業務、続けて現在のEC通販物流に繋がるBtoC紙上通販物流を始め、現在の業容へ拡大。キャラクター雑貨、アパレル、工業製品、イベント什器、食品など幅広い商品を取り扱う。2017年頃より自動化機器を導入。その貴重な経験や失敗を惜しみなく公開している。自動化機械に興味を持つ企業の見学会などを複数メーカーと実施し、年間の見学企業は100社を超える。
エルテックラボ L-Tech Lab
菊田 一郎 氏
1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年間勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体役員等を兼務歴任。この間、国内・欧米・アジアの物流現場・企業取材は約1,000件、講演・寄稿など外部発信多数。
2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化/DX、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスし、著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より㈱大田花き 社外取締役、20年6月より㈱日本海事新聞社顧問、同年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル㈱顧問。著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。
ウェビナー冒頭では、「物流ロボ導入の<大目的>とはなにか」と題し、菊田氏が取材したさまざまな企業・物流センターにおけるロボット導入の事例が紹介されました。
たとえば、商品の入ったコンテナを作業者の場所まで棚ごと自動搬送するGTP(Goods To Person)ロボットの導入事例では、ピッキング作業の効率化は当然ながら、非稼働時間内に出荷頻度の高い商品を1つの棚に集めたり、翌日出荷する商品のコンテナを1つの棚へ集約するといった運用が導入効果を高めています。
また、固定コンベヤに代えてAGV(無人搬送車)を導入した物流センターの事例では、常に効果を最大化できるよう、商品の売れ行き変化やプロモーション計画等に合わせて商品ロケーションの最適化をメンテナンスし続けています。
こうした自動化による物流センターのDXには、そもそもどのような目的があるのでしょうか。人手不足を補い、正確・迅速な作業で生産性を高めることはもちろんですが、それだけではないと菊田氏は主張します。
菊田氏「一つは地球の環境保全です。DXは、配送計画の最適化でトラック便を減らします。省スペース化と稼働時間の短縮で施設の電力消費を減らし、出荷作業の最適化はトラック待機時間や梱包資材の使用量も減らします。つまり、物流のGX(グリーントランスフォーメーション)に貢献します。
もう一つは働く人の環境保全です。DXは、重い荷物や厳しい作業環境から人間を解放します。ノウハウや暗黙知のデジタル化は技術継承と事業継続性を確保し、デジタルツールを活用したコミュニケーションや教育の充実は組織の心理的安全性やエンゲージメント向上につながるでしょう。さらに、人海戦術を脱することで感染症リスクの低減にも役立ちます。これらは従業員体験の革新に貢献します。
物流DXの最終的な目的は、実は地球環境と働く人の環境の改善に貢献することである、と私は考えています」
ウェビナー後半では、株式会社スミレ・ジョイント・ロジ 代表取締役CEOの山口氏をお迎えし、同社の先進的な自動化の取り組みと、それを成果につなげる同社の経営方針についてうかがいました。
同社が自動化に取り組み始めたのは2017年。背景には、山口氏が物流業界における将来的な労働人口減少に問題意識を持ったことがありました。物流センターはもともと雇用が難しく、今働いている人たちも年齢を重ねていきます。ドライバー減少を見越して、物流センター事業も対策を取る必要がありました。
しかし、設備導入は簡単ではありません。むしろ「不安の巣窟」だといいます。
これらを乗り越えてきた山口氏は、「不安」に対して一定の基準となる“答えの出し方”を次のように述べました。
山口氏「たとえば『どんな機械が合うのか?』に対しては、まずシンプルに『作業者がもっとも困っているところ』です。倉庫は入荷が肝心な事は確かなのですが、現場では出荷が忙しいケースが多く、当社も最初に導入したのはシュリンク梱包機でした。もう一つ、『そのセンターで1日どれくらい出荷をしたいか』という出口側から考えることです。例えば1日4000件の梱包機械を導入したら、その機械で5000件出すことはできません」
一方、採算性に関しては「エラーのない機械はないので稼働率100%は難しい」としながら、止めないための努力の重要性を強調しました。
山口氏「自動化は生産性を高める分、止まれば遠慮なくロスが出ます。いかに早くエラーを解除し、作業を再開するかが非常に重要です。そのためには教育に力を入れる必要があります」
さらに、採算には従業員の時給換算との比較だけでなく求人コストや繁忙期の派遣の増員なども含めて考える必要がある、と付け加えました。視野を広げて考えることが求められるのです。
山口氏「自動化は取り組む前に考えるべきことがたくさんあり、それを考え抜く人が必要です。コミュニケーションや情報共有も重要ですが、自動化はそれまでとまったく視点が異なります。目的を明確にし、手段として何を選ぶのか、とことん考えてくれる人を社内に増やすことが重要だと思います」
この点に菊田氏も強く賛同しました。
菊田氏「長期的に見れば、いまや自動化機器のハード的な性能にはそれほど差はありません。むしろ運用面やソフト面、つまり人が考え抜く情熱が導入効果を大きく変えるのだと考えています」
同社では毎年のように先進的な自動化機器の導入を進めていますが、高額な機器も含めすべて数年でペイできていると言います。そこまで生産性向上を高められる背景には何があるのでしょうか。山口氏が挙げたのは、「安心づくり」を徹底する三つの経営方針でした。
まず、従業員に対する「財務内容の開示」です。お客様からの受注金額や、機械の導入費用、求人コストなど、他の社員への給与を除く財務内容をすべて見せているといいます。パート、アルバイト従業員も希望すれば見ることができます。
山口氏「自動化の予算も従業員の給与も、原資はお客様にいただいた対価であり、それがどう分配されどうコストになっているのかを知ってもらうことが目的です。生産性を上げる根拠は数字であって、数字を教えないのに数字を求めることはできません。逆に数字を知ることで見えない部分が晴れて、いい提案が上がって来やすくなるのです」
次に、「月例戦略会議の推薦制導入」です。同社の役員は山口氏のみ。そこで、従業員にも経営に参画してもらおうと「月例戦略会議」を導入しました。出席者は全従業員を対象に社内選挙で選ばれた上位約30名です。次回7月の会議では、来期に向けた経営計画の策定に取り組むといいます。
山口氏「普通の企業とは違って、当社の経営会議では給与や賞与積立金の目標を決め、それに必要な売上・利益を算出しています。働いている人にはこれが響きますし、より多くの従業員が“この人の言うことなら聞く”と票を投じた人が選出されているので、決まったことが現場に浸透しやすいのです。また、こうした話し合いの中で給与は会社が出しているのではなくお客様からいただいているのだと実感してもらうことができます」
最後に、全従業員が参加する定例の「集団問題解決会議」です。これは各センターで週1回必ず開催される会議で、立場や役職に関係なく、誹謗中傷を除いてどんなことでも発言が推奨されます。目的は、現場が持っている不安や不満を引き出すことです。
山口氏「たとえば商品の誤出荷や破損があったとき、当社では人に対するペナルティはありません。人でなく環境に問題があったと捉え、環境を変える取り組みにつなげています。一方で、人間関係についてもここで話し合ってもらいます。何かトラブルがあった時はよくよく聞けばほとんどが誤解から生じたものだからです。また、PDCAの一環として直近の入出荷の振り返りも必ず実施してもらい、些細なことでも問題提起してくださいと伝えています。有識者の話より、現場を経験体験している人たちの意見を優先することが大切だと考えているからです」
「安心づくり」のための取り組みを、山口氏は次のようにまとめました。
山口氏「自動化は、単にこの機械を入れれば生産性が上がるという単純なものではありません。何に困っていて、どうしたら生産性が上がるか、現場が答えを持っています。現場の部下にはたくさん問題をさがしてもらい、上司は聞く耳を持つことが大切です。立場は違っても、問題解決の目標は一緒なので、同じ目線で考えられるはずです。
そして、私も含めて経営層が取り組むべきは、メンバーがコミュニケーションしやすい環境・風土をつくることです。自動化が進むとコミュニケーションが減るケースも当然あります。そうなったときに問題を見落とすことのないよう、経営層はこの点をしっかり認識していただけると良いと思います」
最後に山口氏は、「考え抜く人」を育てる環境作りの重要性を述べてウェビナーを締めくくりました。
山口氏「人は不安の中でものごとを考えることはできません。ですから、考える人材が育つには安心して考えられる環境を用意することが重要なのです。自動化は人が要です。考え抜いた人の意見が集まることで、より良い自動化が実現できるのだと私は考えています」
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