.jpg?fit=crop&w=3072&fm=jpeg)
毎月エルテックラボ代表の物流ジャーナリスト 菊田一郎氏をホストにお届けしているハコベルウェビナー。2025年12月は、菊田氏による年末恒例の特番です。不足する物流人財の定着のための施策についてお話しいただきました。
エルテックラボ L-Tech Lab 代表
物流ジャーナリスト 菊田 一郎 氏
1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年間勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体役員等を兼務歴任。この間、国内・欧米・アジアの物流現場・企業取材は1,000件以上、講演・寄稿など外部発信多数。
2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化/DX、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスし、著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より株式会社大田花き 社外取締役、20年6月より23年5月まで株式会社日本海事新聞社顧問、20年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル㈱顧問。著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。
菊田氏は以前から、物流革新の最終目的は「物流と地球社会を持続可能にすること」にあり、その鍵は「働く人の環境保全」と「地球と社会の環境保全」の2点であると主張しています。その基本前提を話し、今日は主に「働く人の環境保全」の話であると述べました。また、現在の物流危機に至る背景と政府の打開策について説明しました。
人手不足の原因の1つは生産年齢人口の減少ですが、ドライバーについては別の要因があります。1990年代に旧物流2法の施行による規制緩和で運送市場がレッドオーシャン化。4万社だった物流事業者は6万3千者まで増加するとほぼ同時に、バブル経済が崩壊。供給が増えたのに需要は増えず、運賃のたたき合いで業界は疲弊しました。今後も生産年齢人口は毎年66万人ずつ、総人口は85万人ずつ減っていく見込みです。いずれ需要と供給は均衡していくとしても、今後10~15年は総人口より生産年齢人口の減少スピードの方が速いため、人手不足が深刻化します。そのタイミングで2025年に新物流2法が施行され、さらにトラック新法や取適法といった法改正が矢継ぎ早に行われたのです。

ピーク時に70億トンだった年間国内貨物輸送量は、現在40億トン強。しかし運送事業者数は6万3千者前後のままです。しかも98%がトラック100台以下の中小事業者、75%が20台以下の零細事業者。この供給超過が約30年にわたる運賃低下・給料低下につながり、逆にドライバーが減少して供給不足に転じたことが物流2024年問題の根本原因です。
政府は2024年に物流需要が2019年度レベルに回復した場合は輸送能力14.2%(4億トン)が不足すると試算しました。需要がそこまで戻らなかったため大問題にはなりませんでしたが、2030年には輸送力不足が顕在化し、34.1%(9.4億トン)の輸送能力が不足する可能性が残ります。今後はこの「物流2030年問題」を見据えた対応が必要です。

菊田氏は、ドライバーだけでなく構内作業者なども不足していることを指摘。解決策は業界全体のホワイト化であり、社内外で競争優位性の確立が必要です。社内での競争優位性とは、生産性の向上と人材の定着を可能にする待遇・環境整備です。適切な施策を打ってエンゲージメントを向上させ、従業員に会社に居ついてもらわねばなりません。
高齢者、外国人といった付加的な労働力も十分でなく、賃金上昇が始まっています。2024年春には、求職者が企業を見極める「逆面接」を描いたショート動画が話題になりました。企業が働き手を選ぶのではなく、働き手が企業を選ぶ時代になりつつあるのです。これからは、従業員を軽んじる企業は生き残れないでしょう。

物流事業者は働き手を尊重し、荷主は物流事業者を対等なパートナーとして扱わなければなりません。選ばれるためにやるべきことを、菊田氏は3つの施策にまとめました。
第一の施策は労務人事施策です。まず賃金アップ。十分な対価で人材を確保して物流業務をディーセントワークに変え、定着してもらいます。そして労働環境の改善。自動化・デジタル化を進めて労務軽減に取り組みましょう。大事なのは、働く人が家族に誇らしく語れる職場や仕事であること。多くの求人サイトには口コミ掲示板があり、悪評はSNSで瞬く間に拡散します。レピュテーションリスクを避けるために、ハラスメントの撲滅も欠かせません。

これらの施策がもたらす効果をいくつか挙げましょう。ひとつは「サービス・プロフィット・チェ-ン(SPC)理論」です。待遇を改善すると、従業員の満足度が向上し、すると従業員は意欲を高めるので生産性が上がり、商品やサービスの品質が向上します。これにより顧客満足度が上がり、利用頻度や利用額が増えて収益が向上する正のサイクルが回り始めます。定着率が上がり、採用や教育コストも減らせます。高い品質に対する顧客の感謝が従業員に伝わって、やりがい向上につながった事例も現実にあります。

もう一つはハーバード大学の教授が提唱した「チームの心理的安全性」。不安や恐れを感じずに発言や質問ができる環境や関係性のことで、Googleが2012~2016年に検証プロジェクトを実施。「心理的安全性の高いチームは、より高い生産性で仕事をこなして収益拡大に貢献する」ことを実証しました。
日本能率協会総合研究所が2024年9月に発表した従業員の転職意向レポートでも、転職を考えたことがない理由として「やりがい」「心身の不調なく働ける」「職場環境が快適」「職場の人を信頼している」など広義の心理的安全性に該当する内容が多く挙げられています。菊田氏は「心理的安全性は社内だけでなく、荷主と物流事業者の間でも必要」と強調します。

経営学者ドラッカーの調査結果も重要です。GMからマネジメント構造の調査を依頼されたドラッカーは「働く人にとって何が大切か」を調査。明らかになったのは、賃金や昇進はさしたるインセンティブにはならず、最大の動機づけは成果・貢献・責任であること、能力を発揮できないことに不満を覚え、尊敬できる会社や上司を望んでいることでした。ちなみに、この結果をまとめたのが名著『企業とは何か』です。
それからウェルビーイング経営。幸福感の高い社員は創造性・生産性・売上が高く、欠勤率や離職率が低く、業務上の過失も少ないという調査結果があります。

第二の施策は、構内作業をホワイト化するための自動化の具体策です。参考のため、倉庫や物流センターのロボットやシステムの導入事例をいくつかピックアップしました。通販会社アスクルの業務プロセスを見ると、すでに大部分の作業が自動化されています。

化粧品EC企業のオルビスは、ピッキング支援搬送ロボットを330台導入。最適な運用のために商品の配置など週次でメンテナンスを行い、1台1オーダー処理で作業員約3割、出荷コスト約2割減を達成しました。倉庫会社のDPL平塚では自走型ロボットを約50台導入。1つのシステムでECの個配送と店舗向け配送の同時処理を実現し、従来比で約3倍の高密度保管、約3倍の注文処理を達成しました。アパレルのビームスはリニアモーター式搬送ロボットを世界初導入。重いZラックの搬送とRFID検品を自動化しました。さらに自律型コンテナ搬送ロボットを57台導入し、高速自動入出庫を実現しました。

中小企業の事例もご紹介しましょう。倉庫会社のスミレ・ジョイント・ロジは、高い省スペース性能を持つロボット立体仕分け機を導入。生産性を上げて年間売上を20億円から25億円以上に伸ばしました。中小だって腹を決めればできるのです。
前後の工程をしっかり考えて導入すれば、自動化はパフォーマンス向上に役立つはずです。廉価版無人フォークリフトの開発も進んでいます。無人化にこだわる必要はありませんが、意思決定もAIが行う自律型全自動物流センターが出てくるかもしれません。そうなった場合も、AIを使いこなせる人間が必要です。

国交省が考える高度物流人材とは、データ活用力、サプライチェーンの管理能力、社会変化への対応力などを持った人物です。しかし、知識・技能・経験だけでは十分とは言えません。問われるのは「人間力」ではないでしょうか。東大の西成活裕教授も、高度物流人財/CLOの要件は「最新技術の知見」「財務の知見」「ビジネスモデルの知見」「倫理観(人格)」であり、チームで取り組むべきだと主張しています。
菊田氏はそのチームの中核に、能力だけでなく胆力や使命感を備えたリーダーを据えるべきだと語り、人格陶冶による「人間性革命」が必要だと持論を展開。そして、優れたリーダーの例として自動化を成功させたスミレ・ジョイント・ロジの社長を挙げました。「同社は現場の意見を重視し、コミュニケーションを徹底。売上や経費の数字も社員に共有し、リーダーは部下の投票による多数決で決めています。そうした職場環境が心理的安全性を高めて従業員を定着させるのでしょう」

また、「物流企業側にも、CLOと対等に議論できるLPD(Logistics Producer)の設置が必要」とする日本フィジカルインターネットセンターの提言に賛同。必ずしも物流実務の専門家ではないCLOに対し、LPDは物流のプロとして助言する存在であるべきだと考えています。
第三の施策は、地球環境や社会全体を視野に入れたパーパスを策定し、明確なビジョンを共有することです。誇らしい使命に挑む会社であると示すことは、社会意識の高いZ世代に対しては特に大きな意味があります。パーパス策定にあたってはSDGsを見つめ直してみてください。哲学者のマルクス・ガブリエルは道徳的価値と経済的価値を再統合する「倫理資本主義」を唱え、「企業の活動目的は善行である」とまで言っています。

菊田氏は、人材の確保と定着のためには「物流DX」「グリーン物流:GX」「ホワイト物流:EX2」「人間性革命:HX」の推進が必要だと結論付け、「経営者、リーダーは使命感と覚悟を持って改革を積極的に進めてください。それが働く人のエンゲージメントを培い、物流と産業社会を持続可能なものにします」と結びました。

◇◇◇
ハコベルでは定期的に各種セミナーを開催しております。
以下よりご確認いただき、ぜひご参加ください!