物流業界において、慢性的な人手不足により注目を集めているのが「自動倉庫システム」です。入出庫や在庫管理、ピッキング、運搬などの倉庫業務をロボットが実施することで、作業の効率化、ミスやスタッフの作業負担の軽減につながるなどのメリットがあります。
一方で、初期導入コストの高さやシステム運用のための技術的な知識が求められるため、導入には慎重な検討が必要です。
本記事では、自動倉庫の機能や種類、導入の注意点について解説します。事例についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
自動倉庫とは、一般的に人の手で行っている倉庫内作業(出庫、保管、仕分けなど)を、自動化するシステムを活用した倉庫のことです。棚やラックの自動移動や自動的な在庫管理などにより、倉庫業務の効率化や省力化を実現するのが目的です。
近年では、物流業界における労働者は減少傾向にあります。国土交通省の「物流施設における労働力調査」(※)によると、2005年〜2055年までの50年で生産年齢層である15歳〜64歳の人口は半数近くまで減少すると見込まれているため、今後は自動倉庫の導入を検討する企業も増えるでしょう。
物流企業にとって労働力の確保は大きな課題です。対策の1つとして倉庫内の作業を自動化すれば、人手不足問題の解消につながります。
また、自動倉庫は荷物を正確に素早くピッキングできるため、作業時間の大幅な削減、倉庫内の保管スペースの有効活用、ヒューマンエラーの防止など、多くのメリットがあります。
現在、自動倉庫は物流センターや工場内倉庫などのさまざまな場面で使われています。自動倉庫は国土交通省も推奨している、今後取り組むべき施策です。
※出典:国土交通省,物流施設における労働力調査
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自動倉庫は一般的に以下の3つで構成されています。
保管する荷物(パレット、トレイ、ケースなど)を収納するための棚にも種類があります。
棚の種類 | 概要 |
固定ラック | 商品を一定の位置に保管するシンプルな構造で多くの自動倉庫で使用される標準的なタイプ。 |
可動ラック | 必要に応じて棚が移動し、通路を作りながら保管スペースを最大限に活用できる。 |
垂直ラック | 棚が垂直方向に配置され、高さを活かしてスペースを有効に活用できる。 |
保管棚と作業エリアの間で荷物を自動的に運ぶ機器にも種類があります。
装置の種類 | 概要 |
スタッカークレーン | 垂直・水平方向に移動し、棚から商品を取り出し、指定された位置に搬送する機械。 |
シャトル | 棚の間をシャトルロボットが移動し、商品を搬送する。高密度な保管が可能で、複雑な棚構造に対応。 |
コンベア | 倉庫内の指定されたルートに沿って荷物を運搬する装置。入出庫の際に使用される。 |
AGV/AMR | 無人搬送車が柔軟に倉庫内を移動して荷物を搬送する。ライン間の移動や倉庫内搬送に利用する。 |
自動倉庫では、倉庫内の機器や商品情報を管理し、在庫の追跡、搬送機器の制御、作業指示などを行うシステムが必要不可欠です。制御するシステムの例は以下の通りです。
システムの種類 | 概要 |
WCS | 搬送機器や自動倉庫システムをリアルタイムで制御し、各機器の動作を管理する。スタッカークレーンやシャトルの動作を最適化し、作業効率を向上させる。 |
WMS | 倉庫全体の在庫情報や入出庫作業を管理し、商品の入出庫指示や在庫管理を行う。WCSと連携して、全体の物流フローを効率化する。 |
WES | 倉庫内のオペレーション全体を管理・最適化するためのシステム。 |
※関連記事:物流ロボットの役割とは?ロボットの種類と導入のメリットを徹底解説!
ここでは自動倉庫の主な種類を紹介します。
導入する際には、自社の取り扱い商品に合ったシステムを選びましょう。
自動倉庫は保管する商品により、倉庫の種類が分かれています。
保管単位による分類 | 概要 |
バケット型自動倉庫 | 小物商品にも対応できるバケット単位で保管する。 |
パレット型自動倉庫 | 倉庫内の高さを活用し、パレット単位で商品をラックに保管する。 |
フリーサイズ型自動倉庫 | さまざまな形状、サイズの商品を保管できる。 |
スペースの確保に影響が出るため、自社のニーズに合ったタイプを導入しましょう。
自動倉庫は機能によって分類することもできます。
機能による分類 | 概要 |
シャトル型自動倉庫 | シャトルがラック内を移動して商品を取り出す。シャトルは各フロアを移動し、柔軟で迅速な取り出し作業を行う。庫内レイアウトに柔軟に対応できる。 |
移動棚型自動倉庫 | 商品を保管する棚ごと移動する自動倉庫。 棚自体が移動するため、省スペースで運用できる。 |
縦型回転式型自動倉庫 | ラックに商品を保管し、棚の内部に縦に並んだラックを回転させて商品を取り出す。作業者が商品を取り出しやすい位置までラックを回転して移動させるため、ピッキング作業を効率化できる。 |
自社の取り扱い商品に必要な機能が備わったものを導入しましょう。
自動倉庫を導入する際の注意点は以下の3つです。
自動倉庫の導入によるメリットは多くありますが、初期段階では高額なコストがかかります。費用対効果を考えて、導入することが大切です。
自動倉庫のメリットとしてヒューマンエラーの防止が挙げられる一方で、自動倉庫はコンピューターを活用するため、システム障害のリスクがあります。システム障害が大規模になってしまった場合は業務を停止する事態に発展する場合もあるでしょう。
システム障害への対策には、専門的な知識と技術が必要となります。対応方法を社内でマニュアル化したり、障害発生後の対策を事前に検討することが大切です。
自動倉庫が常に正常に稼働するためには、保守やメンテナンスが欠かせません。基本的にシステムは24時間、365日稼働するため、運用には多額のコストが発生することは認識する必要があるでしょう。
ここでは、実際に自動倉庫を導入して成功した企業の具体的な事例を紹介します。
トランコム株式会社では、倉庫業務における労働力不足と重筋作業の負担が課題となっていました。
そこで物流センターに自動倉庫システムを導入し、保管やケースピッキング作業を自動化しました。同時にAGV(自動搬送ロボット)やRGV(レールガイド車両)を活用することで、スペースの有効活用と業務の省人化が進みました。
この自動化により、作業効率の大幅な向上と労働力依存の軽減を実現しています。また、BCP(事業継続計画)に則った設計が施されており、災害時の停電などへの対応力も向上しています。
※参考:国土交通省,物流・配送会社のための物流DX導入事例集,p12
小西医療器株式会社では、自動倉庫システムを導入し、医療機器のピッキング業務の効率化を実現しました。従来は、手作業で商品を倉庫内から探し出す「ハンディピッキング」に多くの時間と労力がかかっていました。作業員が倉庫を巡回して商品を探していたため、業務の動線が長く、効率化が求められていたのです。
そこで小西医療器株式会社は、自動倉庫システムとAGV(自動搬送ロボット)を導入しました。これにより、ピッキング対象の棚が自動で作業者の前に搬送される「ウォークレスピッキング」が実現し、作業動線を60%削減しました。この自動化によって、ピッキング作業の効率が大幅に向上し、労働力削減も可能となりました。
※参考:一般財団法人 日本自動認識システム協会,令和3年度流通・物流の効率化・付加価値創出に係る基盤構築事業,p41
今回は自動倉庫システムに焦点を当てて、基本的な機能や導入のメリットについて解説をしました。
自動倉庫システムは、慢性的な人手不足が問題となっている物流業界において注目されているシステムです。
自動倉庫システムを導入すれば、倉庫業務の効率化やミスの軽減、スタッフの負担軽減が可能です。
しかし初期コストの高さやシステムを運用するための知識が求められるため、導入は慎重に検討する必要があります。