物流業界では、EC市場の拡大に伴い、慢性的な人手不足や効率化の必要性が高まっています。
このような物流業界の課題に対し、注目されているのがAI技術です。AIは、業務の効率化やコスト削減、さらに人手不足の解消に寄与する可能性を秘めています。
本記事では物流におけるAIの活用方法や活用で得られるメリット、さらに成功事例を通して、AIが物流現場にもたらす可能性について解説します。
物流業界におけるAI技術の活用は、今後ますます増えていくと考えられています。国土交通省が掲げる「総合物流施策大綱」では、物流のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が重点施策と位置付けられており、その中でもAI技術の積極的な活用が推奨されています。
日本では「総人口の減少」や「労働力不足」といった課題が顕在化しており、総務省の統計によると、2015年から2050年にかけて日本の人口は約2,400万人減少すると予測されています。(※)
こうした人口動態の変化により物流業界の労働力不足は一層深刻化し、人手に依存した従来の運営方法では、持続可能性の確保が難しくなるでしょう。
一方で、物流は社会インフラとして、国民の生活を支える重要な役割を担っています。物流サービスが途切れることは許されません。安定的な物流サービスを提供し続けるために、さまざまな場面でAIの活用が期待されています。
※出典参考:国土交通省,総合物流施策大綱(2021 年度~2025 年度) ,p4
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AIの活用には多くのメリットがあり、近年では業務効率化を図るために導入する企業も増えています。
物流業務でのAI活用の場面の例と効果は以下の通りです。
業務 | AI技術の活用場面 | 効果 |
在庫管理 | 需要予測 | 過剰在庫や欠品を防ぎ、最適な在庫量を維持できる。 在庫保管コストの削減にもつながる。 |
自動補充 | 在庫切れのリスクが軽減され、オペレーションの中断を防ぐ。 | |
輸送管理 | ルート最適化 | 移動距離や配送時間を短縮。燃料コストや時間の削減が可能で、エコな配送にも貢献する。 |
リアルタイム運行管理 | 配送状況の可視化により、遅延やトラブルを早期に発見できる。 | |
予防保全 | 予定外の故障やダウンタイムを未然に防ぎ、メンテナンスコストの削減が図れる。 | |
倉庫内作業 | ピッキングルートの計算 | 作業者の移動時間が短縮され、作業効率が向上する。 |
自動仕分け | 作業スピードが向上し、ピッキングミスが減少する。 | |
AGV/AMR | 作業者の負担を軽減し、倉庫内での効率的な物品搬送が実現する。 | |
顧客対応 | チャットボット | 24時間対応が可能で、顧客満足度が向上する。人手の削減にも貢献する。 |
顧客ニーズ予測 | 個別の顧客対応が可能となり、リピート率や満足度が向上する。 | |
品質管理 | 故障の兆候検知 | 故障を未然に防ぎ、品質管理や安全性の向上に役立つ。 |
輸送中の温度・湿度管理 | 温度・湿度管理が必要な商品(医薬品や食品など)の品質を確保し、無駄な廃棄を減らせる。 |
AIを導入することで物流業務は特に効率的になる可能性が高いです。現在もアナログ式の業務が多い物流業界には、改善できるポイントも多く存在するためです。
たとえば、在庫管理において需要予測ができておらず、急な大量出荷により人手不足になっている企業があります。ベテラン社員の主観により、業務を進めているケースも少なくないでしょう。しかし、AI技術を導入すればこのような大量出荷に対応することが可能になります。
ここではAI活用の主要なメリットについて解説します。
AIを導入すれば、需要予測ができたり、リアルタイムでの在庫確認をしたりすることができます。
また、過剰在庫や欠品なども防げます。たとえばシーズンものやトレンド商品は、在庫を抱えることになりがちです。このような場合もAIで需要予測をすれば、在庫管理を最適化することが可能になるでしょう。
AIを活用すれば、今までドライバーの経験に左右されていた配送ルートを天候や渋滞情報含めリアルタイムで分析し、自動で最適化することが可能です。配送時間の削減は物流業界の人手不足に大きく貢献するでしょう。さらに配送遅延なども防げれば、顧客満足度の向上にもつながります。
AIを活用すればピッキングや検品作業などを効率化できます。人力で行った場合の人為的なミスがなくなるため、荷主企業にとってもAIはメリットがあります。過酷な労働環境にある物流業界において業務の効率化は大きなメリットとなるでしょう。
一方でAIの導入にはデメリットもあります。初期コストが発生することは避けられません。また、運用形態が変わることがどう影響するのかなど、考えるべきポイントはいくつもあります。導入の際には、メリットとデメリットを整理しておきましょう。
物流業界でAIを導入する重要性は把握できたでしょうか。
ここでは、物流AIを活用して成功した2つの事例を紹介します。
課題 | 運行管理者の負担が増大し、適切な点呼管理が難しい |
導入システム | AI点呼ロボット |
多くの物流企業で運行管理者が行う点呼業務は、ドライバーの健康状態やアルコールチェックの確認を含む重要な役割を担っています。しかし作業負担が大きく、人手不足の中で適切な管理が困難になるケースも増えています。こうした課題を解決するために、菱木運送では「AI点呼ロボット」を導入しました。
AI点呼ロボットは、ドライバーと音声対話をしながら体調管理やアルコールチェック、情報伝達を自動で行い、その結果を即時にデータとして記録する機器です。管理者は収集したデータに基づいて指導や対応が可能となり、業務の効率化と負担軽減が実現できました。また、ドライバーにとっても点呼時間が短縮されることで輸送業務の効率化にもつながっています。
※参考:国土交通省,物流DX物流導入事例集,p16
課題 | ピッキングの負担増加 |
導入システム | ラピュタPA-AMR |
ほくやくは医薬品や医療機器などの卸売企業です。札幌支店の倉庫移転に伴い、従来の約3倍の広さのピッキングエリアを新設しました。従来のピッキング作業は時に約10kgのカートを押しながら手作業で行っていましたが、作業負担軽減と効率化を図るため「ラピュタPA-AMR」を導入しました。
これにより、フロアが拡大してもスタッフ数を目標通りに抑えながら業務を遂行することに成功し、大幅な効率化を実現しました。
※参考:ラピュタロボティクス株式会社,導入事例
本記事では物流AIが活用されている具体的な場面やメリット、成功事例について解説をしました。物流業界では、慢性的な人手不足や業務の効率化などが問題視されています。そこで注目されているテクノロジーがAI技術です。
AIを導入すれば業務の改善につながり、結果として人手不足が解消するなどのメリットがあります。AIは多種多様な業務で活用をすることが可能な技術です。物流とAIは関係性が薄いように聞こえますが、導入している企業も増加傾向にあります。
ぜひこの機会にAIを活用して、慢性的な人手不足や業務の改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。