近年、EC市場の急速な成長やグローバル化に伴い、経済活動を支える物流業の役割はますます重要になりつつあります。ドライバー不足や技術革新による大きな変革期にある中、効率化と業務継続への対応が急務となっています。
物流業は、物品の物理的な移動を支えるだけでなく、商品が消費者の手元に届くまでに多様な付加価値を提供する役割も担っています。ビジネスや日々の生活において、物流業はなくてはならない存在だと言えるでしょう。
本記事では、物流業の定義や基本的な役割、最新の業界動向とトレンドを紹介します。
物流業とは、商品や原材料などの「物の流れ」を管理し、効率的に届けることを目的とする産業を指します。具体的には商品の輸送、保管、荷役、包装、流通加工、情報処理といった物流機能を担い、サプライチェーンの中で重要な役割を果たします。
物流業は物品の物理的な移動を支える活動だけでなく、商品が消費者の手に届くまでのさまざまな付加価値を提供する活動を担います。
物流業の役割は、以下の6つの活動を通じて供給の安定、コスト削減、顧客満足度の向上などの価値を提供することです。以下でそれぞれの役割を詳しく解説します。
輸送の役割は、物品(商品や原材料など)を出発地から目的地まで安全かつ迅速に届けることです。トラック、鉄道、船舶、航空機などのさまざまな輸送手段を用いて国内外の輸送を行います。輸送の効率化を図ることで、物流コストの削減や環境負荷の軽減が可能です。例えば複数の配送をまとめる共同配送や環境に配慮したエコトラックの導入など、持続可能な物流の実現にも貢献するでしょう。
保管の役割は、商品を適切な状態で保管し、必要なときに迅速に取り出せるようにすることです。商品特性に応じて、常温保管、冷蔵・冷凍保管、危険物保管などさまざまな保管方法が用いられます。例えば医薬品や食品は厳格な温度管理が求められるため、冷蔵・冷凍倉庫の活用が必要です。また、在庫を適切に管理することで、過剰在庫や欠品のリスクを低減し、効率的な供給を支えます。
荷役の役割は、商品の積卸しや移動を行い、倉庫内や輸送手段間でのスムーズな受け渡しを実現することです。例えば港湾でのコンテナ荷役では、クレーンを使用して船からトラックにコンテナを積み替える作業が行われます。また、倉庫内では、ピッキングロボットやフォークリフトが使用され、出荷商品を正確に取り出して梱包・出荷準備を行います。
手作業に頼る部分が多い荷役プロセスでは、作業の自動化・省力化が大きな課題となるでしょう。フォークリフトやコンベアなどの荷役機器の活用により、作業の効率化を図ることが重要です。
流通加工の役割は、商品の付加価値を高め、消費者や取引先のニーズに応じた形で商品を提供することです。例えばギフトセットの組み立てやラベル貼りなどの加工を行います。定型的な作業が多いため、自動化・機械化による効率化の余地が大きいプロセスと言えるでしょう。また、ピッキングと流通加工を組み合わせた自動化システムを導入することで、大幅な生産性向上が期待できます。
包装は、商品を輸送や保管に適した形に梱包する作業を指します。輸送中の破損を防ぎ、商品価値を保護するための重要な役割です。包装の役割は商品の保護や輸送中の品質保持だけでなく、ブランドイメージの向上や消費者の利便性向上にも寄与します。適切な包装資材の選定と商品特性に合わせた梱包技術の向上が求められるでしょう。また、環境負荷の低減や輸送効率向上の観点から、リサイクル可能な包装資材の活用や梱包サイズの最適化なども重要です。
物流業における情報管理の役割は、上記活動内容全体の可視化と効率化を実現するために情報を管理することです。例えば倉庫管理システム(WMS)や輸配送管理システム(TMS)などを導入することで、リアルタイムに情報を可視化し、業務の最適化を図ることが可能になります。これにより、物流業務の効率化と顧客サービスの向上が実現するでしょう。
近年の物流業界に見られる最新動向やトレンドを解説します。
国内のBtoC-EC市場規模は、2022年に22兆7,449億円に達し、10年前の2倍以上に拡大しました。(※)その結果、受注から出荷までの一連の業務を請け負うフルフィルメントサービスの重要性が増しました。具体的には、自動倉庫やデジタルピッキングシステムの導入など、フルフィルメント業務の効率化に向けた取り組みが活発化しています。
※出典:経済産業省,令和4年度 電子商取引に関する市場調査 報告書,p7
少子高齢化に伴う労働力不足に対応するため、作業の効率化・省人化を目的とした物流倉庫の自動化・ロボット化が加速しています。実際にAmazon社の物流センターでは、自動運転ロボットが棚から商品を運ぶ「Amazon Robotics」を導入し、ピッキング作業の効率を大幅に高めました。また、無人搬送車(AGV)の導入により、商品の運搬作業を自動化した事例も増えています。
IoTやAI、ロボティクスなどのデジタル技術を活用し、物流業務の効率化と高度化を図る取り組みが進んでいます。例えば在庫の需要予測にAIを活用することで、最適な発注量や在庫水準の維持が可能になるでしょう。また、ロボティクス技術を組み合わせると、倉庫内のピッキング作業を大幅に効率化できます。ブロックチェーン技術を用いた商品トレーサビリティの向上もサプライチェーンの可視化に寄与すると期待されています。
環境負荷の低減や持続可能性の追求は、物流業界でも大きなテーマとなっています。再生可能エネルギーを動力源とする電気トラックの導入や輸送ルートの最適化によるCO2排出量の削減、モーダルシフトなどが進められています。モーダルシフトとは、トラック輸送から鉄道や船舶など、環境負荷の少ない輸送手段に切り替えることを指します。長距離輸送で鉄道や海運を利用すれば、ドライバーの労働時間や燃料費などの輸送コストとCO2の削減、輸送効率の向上が可能です。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で巣ごもり消費が進み、宅配便の取扱個数が急増しています。国土交通省の調査によると、2023年の宅配便取扱個数は、過去最高の50億733万個に達しました。
一方でドライバー不足に起因する配送遅延や再配達の増加など、いわゆる「配送クライシス」が社会問題化しているのが現状です。ロッカー受取やコンビニ受取の拡大、AIを活用した配送ルートの最適化など、課題解決に向けたさまざまな取り組みが求められています。
※出典:国土交通省,令和5年度 宅配便・メール便取扱実績について
2024年4月から、トラックドライバーの労働時間の上限が罰則付きで規制される「2024年問題」が物流業界の大きな課題です。これにより、従来の長時間労働で支えられていた輸送体制が見直され、物流業界全体で効率化や省人化の必要性が高まっています。政府は「物流革新」に関する政策を策定し、荷主企業や消費者の行動変容を促す施策も進めています。
本記事では、物流業の基本的な役割と機能、業務プロセス、そして最新の動向について詳しく解説しました。EC市場の拡大や技術革新の加速を受け、物流業界は大きな変革期を迎えています。これからの物流企業には、サステナビリティや労働力不足といった社会課題への対応力を高めながら、新たな価値創出に挑戦し続けることが求められるでしょう。変化の波を的確に捉え、競争力の源泉となる独自のオペレーションを追求していくことが重要です。