物流業界において、2024年問題の解決策の1つとしてモーダルシフトへの転換が推奨されています。モーダルシフトにより大量輸送の効率化はもちろん、CO2排出量や輸送コストの削減、トラックドライバー不足の解消、交通渋滞の緩和などのさまざまな効果が見込めます。
本記事では、トラックなどの長距離輸送を行っている運送会社や中小企業の経営者向けに、モーダルシフトの概要やメリット、取り組み事例などを詳しく解説します。
まずは、モーダルシフトの定義や重要性、2024年問題との関係を解説します。
モーダルシフトとは、2024年問題の解決策として期待されている施策の1つです。2024年4月にトラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用され、長距離輸送が困難になる点や物流業務の負担増加、ドライバー不足が懸念されるようになりました。
そのため、ドライバーの労働時間を短縮しつつ、大量の物資を輸送する手段が求められています。その解決策として推奨されているのが、従来のトラックによる輸送ではなく、鉄道や船舶を利用して輸送するモーダルシフトです。
モーダルシフトが必要とされる背景として、以下3つの要因が挙げられます。
以下の図が示す通り、2024年問題に対して何も対策を講じなかった場合、政府が試算した結果ではトラックの輸送能力が2024年には14.2%不足し、さらに2030年には34.1%不足する可能性があるとされています。(※)
※出典:公益社団法人全日本トラック協会,知っていますか?物流の2024年問題
トラックドライバーの時間外労働の上限規制により、長距離輸送などの従来通りの輸送が難しくなります。その結果、一般消費者や荷主のニーズに応えられなくなる可能性があります。
従来通りの輸送を継続するためにはドライバーの増員が不可欠ですが、長時間労働ができず給与面に影響が出ることにより、人材の確保が厳しくなることが懸念されます。
時間外労働の上限規制により、ドライバーの1日あたりの平均労働時間は約12.5時間となり、長距離輸送では翌日中に運べないケースが発生することが懸念されます。また、残業時間の減少により給与が下がることが予想されるため、ドライバーの離職率も高まるでしょう。
仮にドライバーを確保するため給与を引き上げたとしても、陸上輸送費も上昇しかねません。その結果、運送会社はもちろん、荷主や消費者にも影響を及ぼしてしまいます。
物流業界において2024年問題は深刻な課題ですが、それらの解決策としてモーダルシフトを推進することが有効な手段とされています。
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次にモーダルシフトへ転換することによるメリットを5つ解説します。
政府の調査結果によれば、1トンの貨物を1km輸送する際に発生するCO2排出量は、トラックなどの営業用貨物車が216g-CO2/t・kmであるのに対し、船舶は43g-CO2/t・kmと試算されています。よって、トラック輸送から鉄道輸送に切り替えることでCO2を約90%削減、船舶輸送に切り替えることで約80%削減する効果が見込めます。(※)
※出典:国土交通省,運輸部門における二酸化炭素排出量
スペースが限られるトラックの荷台と比べ、鉄道や船舶を利用することで大量輸送が可能になるでしょう。一度に大量の貨物を運べるため、ドライバーの人数も最小限確保できれば問題ありません。ドライバーの労働時間が短縮され、労働環境の改善にもつながります。
鉄道や船舶を利用することにより、一度に多くの貨物を運ぶことができるため、必要なドライバーの数を抑えることが可能です。その結果、ドライバーの労働時間や燃料費などの輸送コストの削減を見込めます。また、鉄道や船舶による輸送は輸送距離が長いほど割安になる傾向があります。つまりトラックでの輸送距離が長いほど、コスト削減の効果を期待できるでしょう。
コスト削減に類似している部分もありますが、鉄道や船舶を利用することで陸路による輸送が減少するため、従来のように多くのドライバーを確保できなくとも輸送が可能となります。一般的に拘束時間が長く、労働負荷が大きいとされる長距離輸送では、モーダルシフトによる効果が大いに発揮されるでしょう。
鉄道や船舶を利用することで、交通事情や天候などの影響を受けにくくなり、より円滑に輸送を行うことが可能です。その結果、荷物の損傷や紛失などのリスクを低減できるでしょう。モーダルシフトは物流業務を円滑化する施策として注目されていますが、その他にも省エネルギーや交通事故防止などのさまざまな社会問題の解決策としても期待できます。
モーダルシフトへ転換したことで実績を出している企業の取り組み事例を3つ紹介します。
最初に紹介するのは、異業種の企業が協同で行った鉄道モーダルシフトの取り組みです。この取り組みでは、飲料製品および紙製品の輸送を、従来のトラックから鉄道へモーダルシフトしています。
それまで関西圏から関東圏への輸送が比較的に少なく、単独で往復輸送を行うことが難しい状況だった食品飲料会社が、反対に同区間での輸送が多い製紙メーカーと協力し、それぞれ片道ずつ貨物を積載することにより、往復輸送を実現しました。長距離を鉄道、拠点の最寄り駅までをトラックでの輸送に切り替えました。
また、その他にも輸送エリアを関東圏、中部圏、関西圏の3つに分け、複数のトラックドライバーがリレー形式で輸送するなど、積載率の向上や輸送効率化を図っている点、ドライバーの負荷軽減に努めている点も特徴と言えるでしょう。その結果、CO2排出量を約60%、ドライバーの運転時間を約70%削減することに成功しています。(※)
※出典:国土交通省総合政策局物流政策課,(資料3)モーダルシフトに関する事例(物流総合効率化法の認定事例より),p2
次は3つの運送会社によるモーダルシフトの事例です。この取り組みは、中部地区・九州地区間の特別積合せ運送が対象です。鉄道の幹線輸送において、ブロックトレインと呼ばれる一部貸し切り列車を利用したモーダルシフトを実施しています。
従来、中部地区の部品センターから集荷した貨物を拠点別に積み替え、九州地区までトラック輸送していました。モーダルシフト後は、集荷した貨物を中部地区の拠点で鉄道コンテナに積み替え、ターミナル駅経由での鉄道輸送に切り替えました。
九州地区のターミナル駅で引き取ったコンテナはそのまま荷受け先に輸送、または配送トラックに積み替えることでトラックによる輸送時間を削減しています。この施策の結果、CO2排出量を約74%、ドライバーの運転時間を約85%削減することに成功しています。(※)
※出典:国土交通省総合政策局物流政策課,(資料3)モーダルシフトに関する事例(物流総合効率化法の認定事例より),p3
最後の取り組み事例は海上モーダルシフトの取り組みです。それまで陸上輸送していた4つのビールメーカーが、関東地区・関西地区間の輸送の一部を船舶輸送へ転換しています。
RORO船と呼ばれる貨物を積んだシャーシごと輸送する船舶を利用し、ビールメーカーの工場などから直接大型シャーシで、あるいは集約拠点で大型シャーシに積替えて輸送する手段を適用しました。これによりCO2排出量を約59%、ドライバーの運転時間を約77%削減することに成功しています。(※)
※出典:国土交通省総合政策局物流政策課, (資料3)モーダルシフトに関する事例(物流総合効率化法の認定事例より),p4
モーダルシフトとは、輸送の手段を従来のトラックから鉄道や船舶に切り替える施策のことです。物流業界において2024年問題は、トラックの輸送能力の低下やドライバー不足などを引き起こすとされる重大な課題です。加えて、時間外労働の上限規制により従来通りの長距離輸送もできなくなるため、何かしらの対策を講じなければ荷主や消費者にも影響を及ぼしかねません。
本記事を参考に、2024年問題の対策としてモーダルシフトへ転換することを検討し、物流業務を円滑に遂行しましょう。