バリューチェーンとは、企業が行う事業の一連の流れを「価値連鎖」として捉えるフレームワークのことです。マイケル・ポーター氏が提唱した概念で、競合他社との差別化を目的としたビジネス分析に用いられます。
本稿では、バリューチェーンの基本的な定義と役割、各要素や分析に用いるメリットについて解説します。
バリューチェーンは日本語で「価値連鎖」と翻訳されます。「競争の戦略」の著者、経済学者マイケル・ポーター氏が提唱した概念です。
総務省の「情報通信白書」では以下のように記載されています。
「バリューチェーンとは、消費者等の顧客へ製品やサービスを提供する企業活動について、企画/調達/製造/販売等といったそれぞれの業務が連鎖的につながり、最終的な価値が生み出されるとする考え方である。」
実際の事業活動ごとの役割を考えるとわかりますが、企業の価値は各事業活動を単純に合計したものではありません。それぞれの事業活動が複雑に絡み合って付加価値が生まれます。
※参考:総務省,平成30年版情報通信白書のポイント 市場の構造変化
バリューチェーンを用いた分析は経営戦略の策定やマーケティングなどの場面で活用されています。この概念を取り入れることで以下のようなことがわかります。
・競争優位性が明確になる
・経営資源の配分ができる
一連の事業活動(チェーン)がどのように価値(バリュー)を生み出し、企業全体の競争力や収益性に貢献しているかを分析するために各工程の活動を評価すると、企業の競争優位性や改善点が明確になり、戦略的な経営判断を行うことができるでしょう。
たとえば、物流業では以下の各プロセスを分析したうえで統合し、バリューチェーン全体を効率化することで、コスト削減とサービス品質の向上を図ります。
企画・計画 | 顧客のニーズや製品の特性に応じて最適な輸送方法を企画し、スケジュールを立案します。たとえば輸送手段(トラック、船舶、航空機など)の選定などがあります。 |
調達 | 必要なリソース(運搬機材、配送スタッフ、倉庫スペースなど)を確保し、効率的な配送体制を構築します。 |
輸送・保管 | 商品の安全かつ迅速な輸送を行い、中間地点での保管が必要な場合は最適な倉庫で管理します。たとえばクール便で食品を適切な温度で保管しながら輸送するケースなどです。 |
配送 | 配達状況を追跡するサービスなどを提供し、商品を顧客に届けます。顧客からのフィードバックを反映し、サービス改善に活かします。 |
バリューチェーンと似ている言葉にサプライチェーンがあります。バリューチェーンが各活動の付加価値に注目するフレームワークであるのに対し、サプライチェーンは製品やサービスが供給されるまでの物流やプロセスの最適化に焦点を当てています。混同されやすい言葉なので注意が必要です。
JIS(日本産業規格)によると、サプライチェーンマネジメントは「資材供給から生産、流通、販売に至る物又はサービスの供給連鎖をネットワークで結び、販売情報、需要情報などを部門間又は企業間でリアルタイムに共有することによって、経営業務全体のスピード及び効率を高めながら顧客満足を実現する経営コンセプト」(※)と定義されています。
このように、サプライチェーンは製品が供給(サプライ)されるまでの物的流れ(チェーン)に着目をしています。
※出典:日本産業規格,Z8141:2001 生産管理用語,p10
バリューチェーンでは企業の事業活動を、主活動と支援活動の2つで考えるのが基本です。
上記の構成要素を「基本モデル」と呼びます。
企業が製品やサービスを提供する過程で、直接的に価値を生み出す活動を指します。これらの活動は商品やサービスの企画から提供までの流れを支え、顧客に対する最終的な価値を創出する役割を果たします。
たとえば製造業であれば、以下の5つが主活動と呼ばれる代表的なものです。
購買物流:製品やサービスを生み出すための原材料の入手や保管、管理など
製造:製品の製造や加工を行う
出荷物流:完成品を顧客に配送する
販売・マーケティング:製品の販売や販売促進活動
サービス:製品やサービスを提供した後の業務(メンテナンスやアフターサービスなど)
主活動は、消費者に製品やサービスが届くまでの流れに直接関係する事業活動です。
ただし、支援活動との間に優劣はありません。
主活動を支える役割を果たし、企業全体の効率性と競争力を高めるために行われる活動を指します。主活動をスムーズに進行させるために必要なインフラや支援によって、間接的に価値を生み出します。同じく製造業の場合、具体的な構成要素は以下のとおりです。
・全般管理:企業全体の管理業務
・人事・労務管理:人材の採用、トレーニング、労務管理
・技術開発:新技術の開発やプロセス改善
・調達:必要な資材やサービスの調達
日本政策金融公庫では、運輸業は以下の分類で説明されています。
主活動:企画、販促、運送、顧客管理
支援活動:人・組織、開発
※参考:日本政策金融公庫,シグナル 運輸業編 事業活動チェックシート
バリューチェーン分析では前述の基本モデルに沿って評価を行います。目的は以下の2つです。
・事業活動において発生している問題点を見える化する
・事業活動でどのような付加価値を創出できているか認識する
ここではバリューチェーン分析のメリットについて詳しく解説します。
プロセスや活動にかかるコストを詳細に把握できる点もメリットです。分析によってコストの高い部分や非効率な活動を特定し、改善策を講じることができます。たとえば調達や生産の過程での無駄を削減することで、全体のコストを最適化できます。効率化によりコストの削減が競争優位性の向上につながり、収益性を高めることができるでしょう。
コストの削減はひとつひとつの活動だけではなく、総合的にも影響を及ぼします。個別の活動でコストを削減することが全体の競争力強化につながります。
バリューチェーン分析を通じて自社の付加価値を確認することで、強みや弱点を明確に把握できます。たとえば製造業の企業が購買物流に焦点を当てた際、原材料の調達コストが高すぎるという弱みに気づくかもしれません。この発見により、調達先との交渉力を強化し、コスト削減に取り組むことができるでしょう。
一方で製造工程の効率性が高い場合、その強みを活かして生産規模を拡大したり、他の製品ラインにリソースを再分配することもできます。各事業の具体的な状況が可視化され、どの部分に問題弱みがあるか把握できるため、経営戦略の見直しや改善の指針となります。
また、顧客にとっての価値を高めるためにどの活動が重要であるかを分析し、顧客満足度の向上につなげることもできます。
自社と同様に競合他社の強みや弱みを分析することが可能です。競合がどの活動で付加価値を高めているかを理解できれば、自社の改善点や差別化すべき点を特定できます。また、自社と競合のコスト構造やプロセスを比較することで、より効率的な戦略を立てることが可能となり、競争優位性を強化することができます。
バリューチェーン分析は、経営資源を適切に配分することにも役立ちます。
企業内の各活動がどの程度の価値を生み出しているかを可視化することにより、どの部分に経営資源(人材、資金、時間など)を集中すべきかが明確になります。たとえば価値を生む活動にはさらにリソースを投入し、非効率な部分には改善策を講じることで全体のパフォーマンスが向上し、競争優位性が高まるでしょう。
バリューチェーンは、マイケル・ポーター氏が提唱した概念で、事業の一連の流れを「価値連鎖」として捉えるフレームワークのことを言います。競合他社との差別化目的で用いられますが、自社の強みや弱みを明らかにすることもできるため、とても重要な考え方です。