物流関連二法(流通業務総合効率化法、貨物自動車運送事業法)改正案可決により、物流事業者に義務づけられる「実運送体制管理簿」が注目されています。実運送体制管理簿とはどのようなもので、どんな準備をすればいいのでしょうか。ハコベルでは、国土交通省 山崎 康平様をお招きし、「『実運送体制管理簿』について国土交通省に直接聞いてみよう!」と題したウェビナーを開催しました。
国土交通省
物流・自動車局貨物流通事業課 主査
山崎 康平 氏
国土交通省に入省後、観光庁総務課を経て観光庁参事官(旅行振興)にて、コロナ禍における旅行需要喚起策(GoToトラベル、県民割、全国旅行支援等)の制度設計・予算業務などを経験。都市局市街地整備課法規係長として法令業務に従事。2024年7月に現職。物流法改正に伴う整備政省令の立案を担当する。
ハコベル株式会社
物流DXシステム事業部 カスタマーサクセス部 部長
渡辺 健太
トーマツイノベーション㈱(現・㈱ラーニングエージェンシー)にて法人営業、セミナー講師、新規事業開発責任者等を担い、産学官連携プロジェクトマネージャーを歴任。2年間の上海現地子会社にてCOOとして幅広く経営に従事した後、2021年11月にラクスル㈱ ハコベル事業部に入社し、以来物流DXシステム領域の事業開発、カスタマーサクセス部門を管掌。
ウェビナーでは始めに、ハコベルの渡辺より今回の法改正の動きに関するおさらいと、実運送体制管理簿の概要について前提となる情報の説明を行いました。
2023年3月に国全体の物流効率化を目指す関係閣僚会議が設置されて以降、「物流革新に向けた政策パッケージ」「物流革新緊急パッケージ」「2030年度に向けた政府の中長期計画」など、急速にさまざまな動きが出始めました。これらの動きは一貫して、「輸送力不足」の解決のために「荷主企業・物流事業者・一般消費者が協力して」取り組むという方向性のもとにあります。その具体的なアクションとして、2024年4月「物流関連2法改正案」が可決、成立しました。現状では2025年4月に施行される見方が濃厚となっています。
その改正案の内容を見ていきましょう。1つは、主に荷主・物流事業者を対象とした「流通業務総合効率化法」です。荷待ち・荷役時間削減や積載率向上といった物流効率化を努力義務とし、一定規模以上の事業者に対して中長期計画の作成・報告および物流統括管理者の選任を義務づける内容となっています。
もう1つはトラック事業者を対象にした「貨物自動車運送事業法」です。こちらが実運送体制管理薄に言及した法律になります。ポイントは以下の3点です。
(1)実運送体制管理薄の作成を義務付け
(2)役務の内容や対価を明記した上での運送契約締結を義務付け
(3)下請に出す際の適正化の努力義務を課し、一定規模以上の事業者に対し、管理規定の作成、責任者の選任を義務付け
(1)は単なる記録にとどまるものではなく、(2)(3)が適切に行われることによる物流の改善に実効性を持たせることが目的です。具体的には運賃の適正な転嫁や多重下請構造の是正です。
今回の法改正に付随して、下請けする際の運賃に下請手数料(運賃の10%を当該運賃とは別に収受)の設定が告示されました。これにより、仲介者がマージンを引いて下請に出すのではなく、逆に事業者を介するごとに10%が加算されることになります。実運送体制管理簿には請負階層の記載も求められるため、これが荷主企業に請求する下請手数料の根拠となるわけです。コストを抑えたい荷主企業としては、これを避ける方向で運送事業者と協議することになるでしょう。その結果、多重下請構造の是正につながることが期待されます。これが実運送体制管理簿の本質的な目的と言えます。
では、実運送体制管理簿は具体的にどのような形で作成すればいいのでしょうか。現状の法律をもとにハコベルが作成したサンプルが下の図です。これ以外にも省令として今後新たな項目が追加される可能性があります。
後半は国土交通省の山崎康平氏にご参加頂き、実運送体制管理簿に対する疑問・質問にお答えいただきました。順番にご紹介します。
Q1:実運送体制管理簿の作成義務を負うのは誰ですか?
A1:下請構造の最上位にいるトラック事業者です。利用運送事業者や物流子会社などは作成義務の対象ではありません。
現実的には「自社車両で運ぶか下請に出すか決まっていない場合」や「倉庫や配送など物流業務全般を請け負っている場合」など、さまざまなケースが考えられます。山崎氏はこれについて下記のように解説しました。
山崎氏「契約についてはそれぞれの約款に基づいてなされるべきであると考えています。そのため、その契約が貨物事業者運送約款によるものなのか、利用運送約款によるものなのか、これによって変わってきます。運送約款での委託なら作成対象になり、利用運送約款なら対象になりません」
これが国土交通省の正式な見解である一方で、現場の実情という視点から次のように補足しました。
山崎氏「現状、現場では事前に全てを区別できていないという声があることも承知はしています。あくまで私個人の見解として申し上げるなら、引き受けた荷物を100%下請に出すのではなく、少しでも自社で実運送する可能性がある場合は、作成義務を負うと考えた方が法令遵守の観点からは安全だと思っております」
Q2:グループ会社間でのやり取り、同一企業内の他事業所への依頼などは請負次数としてカウントされますか?
A2:運送契約を結んでいるか否かによります。結んでいれば「一次」と数え、結んでいなければ数えません。
Q3:貨物量や運送頻度などに応じて管理簿作成義務が免除される、などの例外はありますか?
A2:混載便を想定して、真荷主から引き受けた貨物が一定の重量未満の場合は対象外となります(具体的な基準は省令として検討中)。それ以外は頻度・金額等にかかわらずすべて対象となる予定です。
Q4:実運送体制管理簿の開示請求ができるのは誰ですか? (荷主企業→利用運送事業者→トラック事業者へ委託される場合、荷主企業からトラック事業者への開示請求は可能か)
A4:真荷主が開示請求可能です。法律上の定義として、「真荷主」とは「自らの事業に関してトラック事業者との間で運送契約を結んで貨物の運送を委託する者であって、トラック事業者以外のもの」ということになります。設例の場合、利用運送事業者が法律上の真荷主となり、開示請求が可能です。
この点についてハコベルとしては、利用運送事業者がトラック事業者に開示請求し、開示された内容を荷主企業に提出することは、法律に抵触するものではないと解釈しています。ここまでの質問項目に対する回答をまとめると次の図のようになります。
Q5:荷主側は実運送体制管理簿を年に1回は確認しなければならない、などの開示請求義務のようなものはありますか?
A5:特にありませんが、荷主側は委託した運送がどれだけ下請に出されているか把握するなど、むだを省く観点からも積極的に確認していただくのがよろしいと思います。
Q6:荷主からの開示請求に応えられない場合、罰則などはありますか?
A6:罰則はありません。あくまで「開示請求ができる」という規定であり、開示しないことに罰則を設けるのは法技術的に難しい部分があります。ただし、断る理由おそらくないと思いますので、しっかり開示していただきたいと思います。
Q7:開示情報に抜け漏れがあった場合や間違いがあった場合、罰則などはありますか?
A7:罰則はありませんが、管理簿に不備があった場合は行政処分の対象となる可能性があります。誰が処分対象となるかは不備の内容によって異なります(下請事業者からの完了通知の不備なら下請事業者、通知に不備がなく管理簿に抜け漏れがある場合は作成主体のトラック事業者、など)。
Q8:作成した管理簿は国土交通省などに提出・開示する必要はありますか?
A8:法律的に定期的な提出義務はありませんが、監査の際などに求められたら提出が必要です。
Q9:リスト形式、1日ごとや1運行ごとの個票形式など、形式は問わないか?
A9:法律の求める記載事項が満たされていれば、それぞれの形式・様式で作成していただいて問題ありません。
Q10:管理簿の作成期限はいつですか(配送完了日、配送完了月末など)?
A10:法律では特に期限を定めていません。ただ、できるだけ早く作成しておくに超したことはありません。できるときに作成していただけるよう、お願いできればと思います。
最後に、ハコベル渡辺より「ハコベル配車管理」について実運送体制管理簿への対応の観点からサービスの説明をいたしました。
ハコベル配車管理は、荷主企業と運送会社が同じシステム上で情報を共有しながら、リアルタイムに配車管理をオペレーションできるクラウド型のシステムです。メールやFAXのやり取りが不要で、常に両社とも同じシステム上で情報を確認できるため、連絡業務を大幅に効率化することが可能です。この6月のアップデートでは、実運送体制管理簿を作成できる機能を実装しました。
渡辺「ハコベルの新機能として、システム上に請負階層を入力できるようになりました。これにより、ハコベル上で運送依頼を行うことで自動的に請負階層も記録され、実運送体制管理簿に求められる情報がすべて充足された形で保存されていきます。これを荷主様ごと、あるいは期間で区切るなどして出力すれば、すぐに管理簿の開示請求に対応することが可能です」
現在の業務に加え、新たに実運送体制管理簿の作成・記帳のための業務負担増に懸念をお持ちの事業者様もいらっしゃるでしょう。こうしたシステムでデータ保存することによって、配車業務の効率化と同時に実運送体制管理簿の作成もカバーすることができます。
今回のウェビナーでは、そもそも実運送体制管理簿とは何か? という点からご説明を申し上げました。皆さまの疑問・質問がまだ多いようでしたら、改めてこうした機会を設けたいと思います。また、対応にお悩みの事業者様がいらっしゃいましたら、ぜひ一度壁打ち相手としてハコベルにご相談ください。
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以下よりご確認いただき、ぜひご参加ください!