2024年3月に「標準的運賃」が、また6月に「標準運送約款」がそれぞれ改定されたことにより、さまざまな項目が見直されました。これらの改正は、来年度の施行が見込まれる改正物流関連2法とも深く関わることから、荷主企業はその全体像を掴んでおく必要があります。今回のウェビナーでは国土交通省 平田 伸一様をお招きし、標準運送約款や標準的運賃に関する質問にお答えいただきました。
国土交通省
物流・自動車局 貨物流通事業課 課長補佐
平田 伸一 氏
国土交通省関東運輸局に入局後、バス・タクシー・トラック・倉庫などの許認可業務を担当。 また、千葉運輸支局及び神奈川運輸支局時代には現場を経験し、2024年4月より現職。 運賃、約款も含めた貨物自動車運送事業の許認可全般を担当。
ハコベル株式会社物流DXシステム事業部
カスタマーサクセス部 部長
渡辺 健太
トーマツイノベーション株式会社(現・株式会社ラーニングエージェンシー)にて法人営業、セミナー講師、新規事業開発責任者等を担い、産学官連携プロジェクトマネージャーを歴任。2年間の上海現地子会社にてCOOとして幅広く経営に従事した後、2021年11月にラクスル株式会社ハコベル事業部に入社し、以来物流DXシステム領域の事業開発、カスタマーサクセス部門を管掌。
始めにハコベルの渡辺より、標準運送約款および標準的運賃の改正について改めて概要の説明を行いました。
この改正は、①荷主等への適正な転嫁、②多重下請構造の是正等、③多様な運賃・料金設定等を見直すもので、主なポイントは次の8つです。
2020年告示の標準的運賃を基準に平均約8%引き上げ、算定根拠となる原価のうち燃料費を120円に変更。燃料サーチャージの基準価格も同様。
位置づけが曖昧だった部分を切り分け、積込・取卸を別業務として対価の標準的な水準を提示。
荷待ちも含めて2時間を超えた場合は割増率5割を加算する。
2・3に関連し、標準運送約款において運送と運送以外の業務を別の章に分離し、荷主から対価を収受する旨が明記された。
4と同様に、「有料道路利用料」も運賃とは別に明記する。
荷主からの依頼を下請けの協力会社に再委託する場合は、運賃とは別に下請け手数料として運賃の10%を収受する。手数料は下請け階層が増えるごとに10%ずつ加算。運賃全額を実際に運んだ会社が収受できるようにする。
多様な運賃・料金設定のひとつとして、今後の共同配送などの動きを念頭に、個建て運賃を設定する。
これらの条件や付帯業務を「運送申込書/運送引受書」にまとめ、運行ごとに取り交わす。
上記の画像が運送申込書/運送引受書のフォーマットです。重要なのは書類下部(画像の右側)で、運賃や付帯業務の内容・作業時間および料金を詳しく記載する形になっています。
渡辺「依頼側と引き受け側の間で、何をお願いするのか、それに対していくらかかるのかを、運送の度に合意した上でやり取りする形に変わったことが、今回の改正の大きなポイントです」
これとは別に、2025年4月に施行される見通しの「物流関連2法改正案」では、トラック事業者を対象に「実運送体制管理簿」の作成が新たに義務づけられます。
実運送体制管理簿は、実際に運送を担う事業者名や貨物の内容・区間、請負階層などを記録する書類です。元請事業者は、荷主企業の求めに応じて開示する義務があります。前述した下請け手数料が発生するようになると、荷主企業としてはなるべく下請け階層を減らしてほしいと考えます。そのため、実運送体制管理簿を整備・開示することで、荷主からも多重下請け構造をなくす働きかけをしてもらおうとしています。
渡辺「個別の法案や改正を見ても全体像がつかみづらいのですが、実はそれぞれが密接に関連して物流の効率化・適正化を進める道筋が設計されています。すでにご承知の企業様も多いと思いますが、さまざまな改正を立体的に見て、取り組むべきことを見極めていただくことが大切です」
後半は国土交通省 平田 伸一様にご登壇いただき、改正内容に関する質問にお答えいただきました。
以下、11のQ&Aをご紹介します。
Q1:「運送申込書/運送引受書」は必要項目が網羅されていれば形式は問わないか
A1:必要事項が網羅されていれば形式は問いません。標準運送約款をもとに、各社使いやすいように作成してください。
Q2:「運送申込書」や「運送引受書」という書類の名称である必要があるか
A2:その書類が申込書・引受書と分かるようになっていれば、必ずしもその名称である必要はありません。但し書きで「この書類を運送申込書と扱う」といった補足があるとよいでしょう。
Q3:「運送申込書」と「運送引受書」は1つの書類にまとまっている必要はあるか
a. 複数の書類で「運送申込書」と「運送引受書」の内容を充足する、という交付の仕方は可能か
b. 複数書類を同一運送のものであると認めるためには、各社独自の通し番号などで突合する形でよいか
A3:a・bいずれもすべての項目が網羅され、突合できる状態ならば支障はないと考えますが、管理の負担を考えると1つの書類にしたほうが煩雑にならないでしょう。
Q4:「運送申込書/運送引受書」の交付を行っていない場合、罰則や処分の対象になるか
A4:標準運送約款を設定している事業者であれば、対象になる可能性はあります。
Q5:「運送申込書/運送引受書」は、省庁などへの提出義務などはあるか
A5:提出義務はありません。
Q6:トラック運送事業者側が標準運送約款を掲載していなくとも、約款を守る必要があるか
A6:約款は掲出義務がなされています。それをもとに運送契約等を結ぶため、約款を守る必要があります。
Q7:利用運送手数料は10%だがトラック事業者側で変動してよいか(時期や案件内容によって変えてもよいか)
A7:変更した場合は運賃の変更届を行う必要があります。なお今回の改正で示した「10%」は、各事業者の実勢の手数料を調べた上での水準となっております。
Q8:利用運送手数料は、依頼が多重化していくと運賃がどんどん変化していくが、そのたびに申込者とコミュニケーションをとっていく形となるか
A8:まさに、荷主企業の理解を得ることが非常に重要です。交渉のタイミングは個別に異なるかと思いますが、コミュニケーションをしっかり取っていただきたいと思います。
Q9:標準的運賃を下回る金額で運行をしている場合、荷主やトラック事業者に罰則などはあるか
A9:届け出と異なる運賃で運行する場合、貨物自動車運送事業報告規則により30日以内に変更を届け出ていただくことになっています。ただし、届け出た運賃の「適用方」(標準的運賃に対して上下何%)においての運賃の割増・割引が設定されている場合、その範囲内で計算して適用することができます。
Q10:標準的運賃は「荷主から元請事業者」と「元請事業者から下請事業者」のどちらを想定しているか
A10:「荷主から元請事業者」であっても、「元請事業者から下請事業者」であっても、トラック運送事業者とやり取りをする場合には変わらず適用されます。
Q11:片道のみ実車で帰り荷が見つからず空車である場合、荷主にはそれを考慮した価格提示を行うべきか
A11:標準的運賃は、帰り荷がない場合の運行においても、帰路に要する原価を確保することを前提として算出しています。標準的運賃の根拠となる計算式が公開されているので、荷主・運送事業者間の価格のコミュニケーションに活用してください。
最後にハコベル渡辺より、今回の改正への対応に役立つサービスの説明をいたしました。
今後の複雑なやり取りへの対応、またガバナンス強化のためにも、管理のデジタル化はもはや必須です。「ハコベル配車管理」は、現在この改正に対応した機能を開発中で、実装により細かい指示や料金のすり合わせがシステム上で完結でき、さらに記録も残る形になります。また、実運送体制管理簿も新たな事務負担を追加することなく情報がすぐにそろう状態になります。さらに、新たにハコベルが事業継承したトラック受付/予約サービス「トラック簿」を含めて、一気通貫した運送事業のシステム化を提供しています。
そして、今回お話ししたような複雑な法対応に苦慮されている企業様のために、リスク対策に伴走するアセスメントサービスの提供を開始しました。契約書から運送申込書/引受書などの書類チェックから、子会社・関連会社の法対応まで、リスクのレポートと対策の立案を行います(レポートのみのご利用も可能です)。
さまざまな変動が続く中で企業が対応するべき項目も増えています。お悩みの事業者様がいらっしゃいましたら、ぜひ一度壁打ち相手としてハコベルにご相談ください。
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引き続き、荷主企業様や物流事業者様に向けて定期的に各種セミナーを開催しております。
以下よりご確認いただき、ぜひご参加ください!