
ハコベルは毎月、エルテックラボ代表の物流ジャーナリスト 菊田一郎氏をホストにオンラインセミナーをお届けしています。2025年11月は、アサヒロジ株式会 執行役員副社長 島崎市朗氏をゲストに、今後の法改正をはじめとする物流大変革時代の到来に向けた同社の取り組みについてお話しいただきました。
アサヒロジ株式会社
執行役員副社長
島崎 市朗 氏
1989年 明治大学法律学部卒業。同年、アサヒビール株式会社入社。入社時から物流部門に配属され、工場、営業支店で生産・販売物流の実務に従事。その後、本店物流企画(物流企画管理)を経験した。アサヒグループ全体の物流企画に着手、M&Aの統合業務、各工程の生産性向上、効率化関連施策のプロジェクトを提案、推進。社内基幹物流システム構築、高圧ガスボンベのRFID活用、同業他社との共同配送など展開した。
2011年より、アサヒグループホールディングス㈱物流部門 ゼネラルマネージャー、アサヒ飲料㈱ 物流システム部長を兼任。FCトラックのテスト運行、NEXT Logistics Japan社との協業などの取り組みを企画段階から関与、実現した。2021年よりアサヒロジ取締役、2025年8月より現職。
エルテックラボ L-Tech Lab 代表
物流ジャーナリスト 菊田 一郎 氏
1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年間勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体役員等を兼務歴任。この間、国内・欧米・アジアの物流現場・企業取材は1,000件以上、講演・寄稿など外部発信多数。
2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化/DX、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスし、著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より株式会社大田花き 社外取締役、20年6月より23年5月まで株式会社日本海事新聞社顧問、20年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル㈱顧問。著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。
セミナー冒頭では「怒涛の物流法制大転換を概観する」と題し、菊田氏が「物流2030年問題」の課題と、これから進む物流関連の法改正の概要について解説しました。
「物流2024年問題」の壊滅的な影響はなんとか回避されたと見られている現在ですが、ドライバーが足りない状況は続いており、2030年には必要な輸送量の34.1%が不足する可能性が指摘されています。

この状況に対し、物流業界に対する規制強化策が次々に施行されています。即ち、「①物流総合効率化法」「②貨物自動車運送事業法」「③トラック新法」「④改正下請法(取適法)」です。各法律が、荷主企業・物流事業者・元請事業者それぞれへの規制や義務を設けており、物流の効率化と持続可能化に向けて、すべての事業者が協力し合って対策を進めていくことが求められています。

「さまざまな課題がある中で、やはり今、物流企業側はドライバー確保のために働く人に選ばれる企業にならなくてはなりません。更に、荷主側は物流企業に選ばれる荷主になることが求められています」(菊田氏)
こうした物流業界の課題と今後の法改正に向けて、アサヒロジではどのような取り組みが行われているのでしょうか。島崎氏はまず、法改正の主なポイントと現状の課題を整理しました。
物流効率化法では、25年4月から荷待ち荷役時間の改善・積載率向上の努力義務、26年4月からは特定事業者制度が段階的に施行されますが、荷主側が「物流事業者の課題」と捉えているケースが少なくないといいます。しかし、努力義務は荷主に対しても課されるものであり、荷主の協力なくしては達成できません。

また、特定荷主には「物流統括責任者」の選任が求められますが、これはグループ企業間での兼務が禁止されています。さらに、特定荷主の指定基準(年間取扱貨物重量9万トン以上)は、出荷貨物だけでなく受け入れる貨物も対象となるケースがあることに注意が必要です。
トラック新法は、運送会社にとってさまざまな面で規制が強化される改正が多く、物流自由化の時代とは真逆に舵を切る内容になっています。島崎氏は、規制から外れる事業者が淘汰・吸収されていく方向性が想像できるとの見方を示しました。
取適法(現・下請法)では、これまで運送会社から運送会社への取引が対象とされていましたが、改正により荷主から元請運送会社への取引も対象となります。また、取引適用の基準として従業員数が追加され、同社ではこの基準への対応が現在の課題になっているといいます。
物流政策の中長期計画「総合物流施策大綱(以下、物流大綱)」は、2021年度に閣議決定された現行の大綱が最終年度を迎え、現在2030年度へ向けた見直しの検討会が行われています。島崎氏は、その開示資料から今後のテーマとなり得る部分をピックアップしました。
まず「物流標準化・データ連携の促進」です。「物流情報標準ガイドライン」など、ソフト面の標準化も進んでいますが、同時にハード面(パレットや車両、マテハン)の標準化も進める必要があります。
「パレットは、平面サイズが揃ったとしても、所有形態が違うと回収が必要になるなど、運用に伴って手間が発生します。当社は一般社団法人Pパレ共同使用会の仕様でパレチゼーションに対応済みであり、標準化未対応業界のT11型との共用共存を模索しているところです」(島崎氏)

次に「陸・海・空の輸送モードを総動員した『新モーダルシフト』の推進」です。鉄道については枠を取るのが難しくなっているものの、船舶については新航路や船舶の大型化など拡大の余地が考えられます。しかし、そのためにはトレーラーのシャーシ輸送の比率を上げる必要があり、共同配送による混載がキーワードになると島崎氏は指摘しました。
陸運では、同社はすでにダブル連結トラックを運用しており、自動運転も一部でテストを開始しているといいます。また、それらの運行効率向上のため、全体最適を見据え、物流環境の変容にも対応した新たな物流拠点の設置にも積極的に関与していく考えを示しました。

「2050年カーボンニュートラル実現」も物流の大きな課題です。車両の脱炭素化の面で水素が注目される中、同社では来年度、社会実験としてFCトラックの運行を計画しています。また、倉庫の屋上などにペロブスカイト系太陽電池を設置し、余剰電力で水素を生成することで、FCトラックの燃料に活用するというアイデアも、今後の可能性として語られました。
そして「物流全体における取引環境の適正化の推進」においては、島崎氏は「適正原価」の設定が大きなイベントになるとの見通しを示しました。トラック・物流Gメンの体制強化と公正取引委員会との連携が発表されたこともあり、取適法が適用になれば罰則を伴う厳しい指摘が十分にあり得る状況となっています。
トラック事業者に義務付けられた「実運送体制管理簿」の作成も大きな課題ですが、これは多重取引構造の是正だけでなく、適正原価の設定においても極めて重要なデータになると、島崎氏は指摘しました。同時に、特定事業者へのCLO選任義務については、本来の目的を達成するにはCLO単独でなく、幅広い専門知識を持つチームでCLOを支える体制が求められると強調しました。

続けて島崎氏は、こうした課題に対する現在のアサヒロジの取り組みを解説しました。

まず物効法の努力義務「荷待ち荷役時間の短縮」については、“発着合わせて2時間以内”という正しい定義を共有した上で、「トラック簿」の活用などで実態の把握を進め、課題を抽出しています。
「実際には、荷主側の発注のタイミングや、フォークリフトとトラックとのコミュニケーション、配車計画の組み方まで、一連で見直す必要があります。物流現場だけが頑張っても実現できるものではありません」(島崎氏)
積載率向上については、単純に伝票上のトン数で見るのではなく、回送のロスなども含め、運んだ距離(トンキロ)で考える必要があります。そこで、ドライバーの手間を増やさずにデジタルで記録を取得する方法の試行錯誤を続けているといいます。
ドライバーの拘束時間については、配車段階でのコントロールが効果的であることがわかり、ダイヤに近い形で計画を立てる取り組みを進めています。これが荷待ち荷役時間の短縮を含めた全体の効率化の鍵になると、島崎氏は期待しています。

トラック新法については、実運送体制管理簿をベースに契約次数を下げる施策を展開しています。
「当社は繁閑差が大きく、実運送事業者との契約だけではその差が埋められません。利用運送事業者にどの程度発注するのが適切か、実運送体制管理簿から紐解いて検討し直す必要があると考えています」(島崎氏)
この他、適正原価への対応に向けてはいくつかのシナリオを想定しながら情報収集を続けています。

取適法については、「支払サイトに関しては大きな問題はない」としながら、適用基準に「発注時の従業員数(300人)」が追加されたため、支払サイトの設定もそれに影響されるケースが想定されます。
島崎氏はこれに加え、「取適法の対象となると、これまで当たり前に行なってきた慣習が実は禁止事項になっている可能性がある」と注意を促しました。
「グレーな領域は、線引きで白黒はっきりさせるというより、なくす方向で協議をしていく心づもりが必要です。『うまく運用してくれ』という対応はできなくなっていくと見ています」(島崎氏)
ここまで見てきた規制を単純に受け止めれば、今後、物流業界はより厳しい環境での経営を迫られることになります。しかし、アサヒロジではこれを前向きに捉え、新しい事業の立ち上げに取り組んでいます。

荷主企業の責任が増す中で、荷主の立場に寄り添った物流コンサルタントとその対応策の提供、また現場の実態を踏まえた改善提案など、同社ならではの強みを活かしたサービスです。特に、中長期的な計画の作成や実行は、人材育成を含めてすぐにできることではありません。
「我々は物流子会社という立場ですが、それは“荷主の立場で考えることができる物流会社”であるということです。ならば、物流統括管理者のカウンターパートとして荷主企業にうまく利用していただくことができるのではないか。自分たちがそういう役割に変わることで、事業拡大の機会になるのではないかと考えています」(島崎氏)
さらに、同社が全国に持つ自社ネットワークを活かした共同物流の推進や、地域連携・業界連携による持続可能な物流インフラの構築など、高付加価値サービスの外販についても検討を進めているといいます。同社は現状維持に加え体制を強化する戦略を取り、現状30%程度の外販比率を、将来的に50%にまで引き上げることを目指しています。

「アサヒロジグループは来年20周年を迎えます。この法改正の環境変化をピンチではなくチャンスと捉えることで、事業成長に目を向けていきたいと考えています」(島崎氏)

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