企業の物流戦略においては、物流会社の選定が重要な課題となっています。適切な物流会社の選択は、コスト削減、サービス品質向上、競争力強化につながる重要な経営判断です。
しかし、物流会社の役割や機能が多様化・複雑化する中、多くの企業が最適な物流会社の選定に苦慮しています。特に中堅企業にとっては、自社のニーズに合った物流会社を見つけることが困難な場合があります。
本記事では、物流会社の基本的な役割と機能、主要な物流会社の特徴、そして物流会社の選定基準と比較方法について詳しく解説します。
物流会社とは、企業や個人の物流ニーズに応える専門サービス提供者であり、物の流れ全体を最適化する役割を担います。
この章では、物流会社の役割や機能について詳しく解説します。
物流会社は、企業のサプライチェーンにおいて極めて重要な存在です。商品の調達から最終消費者への配送まで、物流全体を効率的にマネジメントすることを役割としています。
単なる輸送や保管にとどまらず、情報管理や流通加工などの付加価値サービスも提供しています。これにより、企業は自社の核となる事業に集中し、競争力を高めることができます。
物流の基本機能は、企業活動を支える重要な要素です。以下の表は、主要な物流機能とその概要をまとめたものです。
機能 | 概要 |
輸送 | 商品や資材を指定の場所に安全かつ効率的に輸送すること |
保管 | 商品や資材を適切な環境で保管し、出荷準備を整えること |
荷役 | 商品の積卸しや仕分け作業を行うこと |
包装 | 商品を保護し、輸送や保管中の損傷を防ぐためのプロセス |
流通加工 | 商品ラベルの貼付、セットアップ、組立て、検品、再包装など、商品が消費者に届く前に行われる付加価値作業のこと |
情報管理 | 輸送、在庫、配送に関する情報を管理し、顧客や関係者に提供すること |
これらの基本機能を組み合わせ、連携させることで、企業は競争力のある効率的な物流システムを構築し、ビジネスの成功につなげることができます。
※参考:国土交通省,物流を取り巻く動向と物流施策の現状について,P20
物流業界には多くのプレイヤーが存在しますが、中でも特に知名度が高く、国内物流の大部分を担っているのが、ヤマト運輸、日本通運(日通)、佐川急便、日本郵便の4社です。
これらの企業はそれぞれ独自の歴史と強みを持ち、日本の物流ネットワークの中核を形成しています。本章では、各社の主要な特徴を詳しく見ていきます。
ヤマト運輸は、日本の物流業界をリードする大手企業の1つです。全国をカバーする配送ネットワークを持ち、特に個人向け配送サービスが強みであり、宅急便サービスで高い信頼を得ています。
特徴的なサービスとして、温度管理が必要な商品に対応した「クール宅急便」があります。また、近年のeコマース市場の拡大に伴い、「らくらくメルカリ便」のような個人間取引に特化したサービスも展開し、市場の変化に柔軟に対応しています。
ヤマト運輸は、物流業界が直面する課題にも積極的に取り組んでいます。2024年には「Sustainable Shared Transport(SST)」という新会社を設立し、共同輸配送のオープンプラットフォームの提供を開始しました。
さらに日本郵便との協業により、クロネコDM便とゆうメールの統合や新サービス「クロネコゆうメール」「クロネコゆうパケット」を展開予定です。
日本通運(日通)は、国内外に広範なネットワークを持ち、海上・航空輸送、倉庫業務、引越しサービスなど、多岐にわたる物流サービスを提供しています。
特にBtoB向けサービスに強みを持ち、精密機器の輸送や国際貨物輸送において高い評価を得ています。世界47カ国に733の拠点を展開し、グローバルな物流ニーズに対応できる体制を整えています。
近年は、サステナビリティへの取り組みにも注力しており、CO2削減を目的としたエコモーダルシフトを推進しています。
佐川急便は、国内のBtoB物流に強みを持ち、独自の配送ネットワークを活かした「飛脚宅配便」を個人向けにもサービスとして展開しています。
企業間物流に特化したサービス提供は高い信頼性と効率性を実現しています。同時にラストワンマイル配送や小型貨物の輸送にも対応し、多様な物流ニーズに応えています。
近年は企業向けの物流支援サービスにも力を入れており、物流コンサルティングや在庫管理システムの提供など、総合的な物流ソリューションを展開しています。
日本郵便は、全国約24,000の郵便局ネットワークを活用し、幅広い物流サービスを提供しています。主力サービスである郵便事業に加え、宅配便(ゆうパック)や国際物流など多様な物流ニーズに対応しています。
特に、全国をカバーする郵便局ネットワークを活かし、小口配送や国際郵便サービスに強みを持っています。eコマース市場の成長に伴い、ゆうパケットなどの小型物品配送サービスを拡充し、多様化する顧客ニーズに応えています。
また国際物流においても、海外の郵便事業者や物流企業との提携を通じて、グローバルな配送ネットワークを構築しています。
物流会社を選定する際の主要な基準と、それらを比較評価する方法について以下の表にまとめました。
選定基準 | 具体的な比較方法 |
コスト | - 輸送費用の透明性を確認 - 長期契約によるコスト削減の可能性を検討 - 付加価値サービスの費用対効果を分析 - 総合的な物流コストを他社と比較 |
サービス品質 | - 配送の正確性と迅速性を数値化して比較(例:PPM分析) - 顧客サポートの質を評価(対応時間、解決率など) - クレーム対応の迅速さを比較 - 品質管理システムの有無と内容を確認 |
技術力とイノベーション | - 最新のトラッキングシステムの導入状況を確認 - 自動化・ロボット化の程度を比較 - データ分析能力とその活用方法を評価 - 新技術への投資状況を確認 |
柔軟性と対応力 | - 急な需要変動への対応能力を評価 - カスタマイズされたソリューションの提供可能性を確認 - 災害時のBCP対策を比較 - 特殊な要求への対応実績を確認 |
業界特性への理解 | - 取り扱い商品の特性に応じた対応能力を評価 - 業界固有の規制やコンプライアンスへの対応状況を確認 - 業界トレンドへの適応能力を比較 - 同業他社での実績を確認 |
これらの選定基準について詳しく解説します。
物流コストの主な内訳には、輸送・運送費、荷役費、保管費、管理費・人件費があります。コスト削減の方法としては、輸送ルートの最適化、在庫管理の効率化、自動化・機械化の推進などが挙げられます。
しかし単純な費用比較だけでなく、総合的な視点でコストを評価することが重要です。安価なサービスでも配送の遅延や商品破損が多ければ、顧客満足度の低下や追加コストが発生する可能性があります。
主な評価ポイントとしては、配送の正確性、スピード、そして顧客対応が挙げられます。
配送の正確性は配送の遅延や誤配送の発生率で測ることができます。これらの指標が低いほど高品質なサービスを提供していると言えます。スピードに関しては、注文から配達までのリードタイムが重要な指標となります。
配送中の問い合わせへの迅速な対応やトラブル発生時のサポート体制の充実度は、顧客満足度に直結します。
最新のテクノロジーを活用し、効率的で革新的なサービスを提供できるかどうかは、企業の成長を大きく左右します。
一例を挙げると、AIとIoTの活用は物流業界に革命をもたらしています。AIによる需要予測や配送ルートの最適化は、効率性を大幅に向上させ、コスト削減に貢献しています。IoTを用いたリアルタイムの配送追跡は、顧客満足度の向上に直結します。
自動化技術も急速に進歩しており、自動倉庫システムの導入は作業効率と正確性を飛躍的に高めています。
この能力は、予期せぬ事態や需要変動に迅速に対応できるかどうかで評価されます。
季節やプロモーションによる需要変動時に追加のリソースを確保する能力は、重要な評価ポイントです。また、天候不順や災害などの突発的な事態への迅速な対応能力も、信頼性の高い物流会社の条件となります。
さらに、顧客の特殊な要望に応じてサービスをカスタマイズする能力も、柔軟性の重要な側面です。特殊な梱包要求や配送時間の指定など、多様なニーズへの対応が求められます。
荷主企業の業界に対する深い理解と専門的なノウハウを持つ物流会社は、より効果的かつ効率的なサービスを提供できます。
特に医薬品、食品、化学品などの特定業界には、法的規制や特殊な保管・輸送要件が存在します。例えば、医薬品では温度管理や品質保証が厳しく求められ、食品では衛生管理や鮮度保持が重要です。化学品では危険物取扱の専門知識が必要です。
また業界特性を理解している物流会社は、将来的な規制変更や市場トレンドにも柔軟に対応できる可能性が高くなります。
※参考:経済産業省,物流アウトソーシングマニュアル,P7
本記事では、物流会社の役割と選定方法について詳しく解説しました。
物流会社は単なる輸送業者ではなく、企業のサプライチェーン全体を最適化する重要なパートナーです。主要な物流会社の特徴と強みを理解し、自社のニーズに合った選定基準を設定することが重要です。
コスト、サービス品質、技術力、柔軟性、業界理解などの多角的な視点から物流会社を評価することで、最適な物流会社を見つけることができます。