運輸と運送は、物流業界においてしばしば混同されがちな用語ですが、それぞれ異なる役割と意味を持っています。運輸は物品や人を目的地まで移動させる全体のプロセスを指し、運送はその具体的な移動手段や方法を示します。
本記事では、運輸と運送の違いについて両者の基本的な概念や定義を踏まえつつ、役割や対象範囲を明確にするため具体的な事例を交えながら解説します。運輸と運送の違いを理解することで物流の全体像を把握し、効率的な商品流通を実現するための一助としてください。
運輸とは、人や物資を一地点から別の地点へ移動させる活動全般を指します。具体的には、鉄道、道路、海上、航空などの手段を用いて、旅客や貨物を輸送することを指します。日本標準産業分類では「運輸業、郵便業」として分類されており、鉄道業、道路旅客運送業、道路貨物運送業、水運業、航空運送業、倉庫業などが含まれています。これらの業種は、国土交通省の管轄下で策定された政策や規制に基づき運営されています。
運送とは、貨物や旅客を特定の地点から別の地点へ移動させる行為を指します。日本の法律において「運送」は以下のように定義されています。
貨物自動車運送事業法では「貨物自動車運送事業」を「自動車を使用して貨物を運送する事業」、海上運送法では「海上運送」を「船舶により人又は物の運送をする事業」と定義しています。
※参考:
e-Stat政府統計の総合窓口,日本標準産業分類(令和5年[2023年]7月改定)
e-GOV,貨物自動車運送事業法
e-GOV,海上運送法
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運輸は物品や人を特定の地点から別の地点へ移動させる全体の過程を指します。これは、運送業者が行う業務や、運搬手段の管理、運行計画の立案などを含む広範な概念です。つまり物品の移動だけでなく、運搬に関わる経済活動全般を指します。例えば鉄道や航空、海上などさまざまな運搬手段が運輸に含まれます。
一方で、運送は物品や人を移動させる具体的な行為そのものを指します。つまり運送は運輸の一部であり、実際に物や人が移動する際のプロセスに焦点を当てています。例えばトラックで荷物を配送する、バスで人を運ぶといった具体的な動作が該当します。
運輸は広範なシステムや管理、戦略を含む「全体の仕組み」であり、運送は荷物や人を移動させる「具体的な移動行為」を意味します。
例えば、企業が物流センターで集荷から配送先までのルート計画を立てる行為は、運輸に該当します。そのルートに基づきトラックで荷物を配送する行為は運送です。このように運輸は物流全体の管理を担い、運送はその中での具体的な業務を担当しています。
運輸の中には、輸送の効率性を高めるための計画や調整、情報管理などの要素が含まれます。また、運輸は輸送のためのインフラやルートの最適化、コスト管理、環境負荷の軽減なども考慮に入れています。
運輸と運送は物流業界において非常に重要な役割を果たしており、効率的な商品やサービスの流通を支えています。ここでは、それぞれの領域と対応する業務について詳しく解説していきます。
運輸の主な領域には、陸上、海上、航空の3つの輸送手段が含まれます。それぞれの特徴は以下の通りです。
トラック輸送では短距離から中距離の配送に対応し、迅速性が求められます。その一方で、鉄道輸送は大量輸送に適した手段として利用されます。
コンテナ船やタンカーを使用し、大量の貨物を運搬します。国際貿易に欠かせない手段です。
高価な電子機器や医薬品など、時間に制約のある貨物の輸送に適しています。特に国際物流での迅速性を求められる場面で活躍します。
運輸の具体例として、まずはトラックによる陸上運輸が挙げられます。例えば製造業の企業が工場から小売店へ商品を配送する際、トラックを利用して直接運ぶことが一般的です。また、航空運輸では国際的な速達便サービスがあり、高価な電子機器や医薬品を迅速に届ける役割を果たしています。これにより、時間的な制約が厳しいビジネスニーズに応えることができます。
運送は、具体的な輸送業務の実施を指したものです。運送業者は顧客から依頼された貨物を受け取り、指定された場所へと運ぶ役割を果たします。その業務には配送、集荷、保管、通関手続きなどが含まれます。
例えば、宅配便業者は個人や企業からの小口荷物を迅速に届けるサービスを提供し、消費者の利便性を高めています。また、大手の物流企業では3PL(サードパーティロジスティクス)サービスを通じて、商品の受発注管理から配送までを一貫して行うことが可能です。
運送業務には冷蔵・冷凍輸送も含まれ、食品や医薬品など温度管理が重要な貨物に対して専門的なサービスが提供されています。また、危険物や特殊貨物の取り扱いも運送業者の重要な業務です。
運送の具体例としては宅配便サービスが考えられます。例えばオンラインショッピングで購入した商品を自宅に届ける際、運送業者が荷物を集荷し、指定の住所まで配達します。さらに、冷蔵輸送業者は温度管理が必要な食品や医薬品を運搬し、品質を保つための特殊な車両を使用します。
このように、運輸と運送は密接に関連しながら現代の経済活動を支える基盤を形成しています。今後は顧客のニーズに応じてさらに迅速かつ安全な物流サービスを提供することが求められます。物流業界は、テクノロジーの進化とともに効率化や透明性の向上を進めており、運輸と運送の役割はますます重要性を増していくと考えられます。
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運輸と運送は、密接に関連しながらも異なる概念であり、それぞれの役割や範囲を理解することは、物流業界や経済活動全般において非常に重要です。運輸はシステム全体を、運送はその具体的なアクションを指すという理解を持つことで、より効果的な物流管理や戦略立案が可能となります。
運輸と運送の明確な違いを理解することは、業界関係者でなくても、効率的な物流管理や事業計画の立案に活用できます。この記事を参考に、自社の資料作成や業務改善に役立ててください。