貨物自動車運送事業法とは、トラックなどによる運送事業の運営を適正化し、輸送の安全を確保することを目的とした法律です。
2024年5月15日に同法律が改正され、物流効率化の努力義務化、中長期計画の策定・定期報告の義務化、物流統括管理者の選任の義務化などが盛り込まれました。
本記事では、荷主企業の方に向けて、貨物自動車運送事業法の改正内容や影響、求められる施策を解説します。
まずは、2024年に貨物自動車運送事業法が改正された背景と改正内容を解説します。
貨物自動車運送事業法は、貨物自動車運送事業の許可制の詳細や行為規制などを定めた法律です。
2024年における貨物自動車運送事業法の改正は、生活・経済を支えるインフラである物流業界の持続可能な成長を促進するために行われました。これに合わせて、「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律(流通業務総合効率化法)」は「物資の流通の効率化に関する法律(物流総合効率化法)」へと名称が変更されました。
この背景には、物流効率の向上と安全対策の強化が求められていることがあります。
特にトラック運転者の労働環境改善と過労運転防止が重要な課題となっており、これらに対応するための法整備が進められました。
また、自動車運転者の時間外労働上限規制(年間960時間)などの改善基準告示改正もあり、物流業界は「2024年問題」に直面しており、物流の停滞が懸念されています。
物流業界の2024年問題については以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事▶2024年問題で何が起きる?物流への影響や具体的な対策を解説
※参考:e-Gov法令検索,貨物自動車運送事業法
国土交通省,「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」を閣議決定
ここからは、荷主・物流事業者に関係する法改正の内容を解説します。
荷主および物流事業者には、物流の効率化を図るための具体的な措置を講じることが努力義務として課されました。この取り組みには、国が設定する判断基準に基づいて指導や助言がなされ、状況に応じた調査や公表も行われます。
一定規模以上の事業者は、物流効率化のための中長期計画を作成し、その進捗状況を定期的に報告することが義務付けられました。進捗が不十分な場合は、国から勧告や命令が下されることがあります。
特定の事業者に対しては、物流効率化を統括する責任者を選任することが義務付けられました。これにより、組織内での物流業務の一元管理を目指します。
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続いて、その他の法改正の内容を紹介します。
元請事業者は、実運送事業者の名称や運送体制を記載した管理簿の作成が義務付けられました。荷主とトラック事業者、利用運送事業者などの運送会社は、運送契約締結時に提供する役務内容や対価等を記載した書面の交付が必要となります。
また、他の運送会社の運送利用(下請け)の適正化について努力義務が課され、一定規模以上の事業者には管理規定の作成と責任者の選任が義務付けられました。
軽トラック事業者には、死亡・重傷事故を抑制するため安全対策の強化が求められています。具体的には、貨物軽自動車安全管理者を選任し、国土交通大臣へ事故の報告をすることが義務付けられました。
また、必要な法令等の知識を担保するための定期講習の受講も義務付けられています。
事故報告や安全確保命令に関する情報は、国土交通省のホームページで公表されます。
続いて、貨物自動車運送事業法等の改正が物流業界へ与える影響を解説します。
物流業界全体の効率化が期待される一方で、対象事業者としては現在の業務に加え、効率化への取り組みが必要となります。
規制が強化され、既存契約の見直しや業者ごとに複数の契約を締結・交付することが求められます。
軽トラック事業者は、貨物軽自動車安全管理者の選任や定期的な講習受講が求められます。また、事故発生時の報告が義務化され、報告内容が国土交通省により公表されるため、よりいっそうの注意が必要です。
事故防止に向けた取り組みが促進される一方で、当該事業者としては様々な管理が必要となります。
本章では、荷主企業に求められる内容を解説します。
2024年の貨物自動車運送事業法改正により、荷主企業も物流効率化に向けた取り組みを求められています。具体的には、荷待ち時間や待機時間の削減を図るために、出荷や受け入れのタイミングを事前に予約・調整するシステムの導入が推奨されています。
また、配車計画・管理をシステム化することは、連絡業務等の削減による効率化と業務属人化の解消に寄与します。さらにパレット化やフォークリフトなどの活用を推進することで、手作業による荷役作業を減らすことが可能です。
荷主企業として運送会社への協力も欠かせません。両者が協力することで、物流の効率化とトラックドライバーの労働環境改善が実現できます。
例えば長距離輸送において、リードタイムを延長するなど余裕を持った運送計画を立てることで、現実的かつ計画通りの輸送が可能となります。また、こまめに輸送をするのではなく、積載率を向上させることで、効率的な輸送ができるでしょう。
さらに、適正な運賃を確保することや燃料費・附帯作業にかかるコストを適切に設定することで、トラックドライバーの労働環境改善や働き方改革を支援できます。
法改正に伴い、特定の荷主企業には物流効率化の中長期計画の策定と具体的な措置の実施が求められます。統括管理者を選任し、当該管理者の指揮のもと、物流業務全体の最適化を図ることが重要です。
また、物流の適正化に関する管理規程を作成し、責任者を選任することも求められます。
取り組みの進捗状況を国土交通省へ定期的に報告し、受けた指導や助言を実行するなど、計画や取り組みのさらなる効率化が必要です。
貨物自動車運送事業法の改正は、物流業界に大きな影響を与えることが予想されます。
改正内容には、物流効率化への努力義務化、中長期計画の策定・定期報告の義務化、物流統括管理者の選任の義務化などが含まれます。
これを受けて荷主企業としても、持続可能な物流の実現に向けて取り組む姿勢が欠かせません。トラックの予約調整や配車計画のシステム化、運送会社との協力などの取り組みが求められます。
本記事の内容を参考に、貨物自動車運送事業法改正の対策を検討しましょう。
また、貨物自動車運送事業法の改正を含む、物流関連二法の改正についてまとめた資料もございますのでぜひご活用ください。