物流業界には、労働環境の悪化や深刻な人材不足、再配達の負担の大きさなどさまざまな課題があります。これらに物流業界に大きな変革をもたらす「2024年問題」も加わり、企業は状況に応じた解決策を講じることが求められています。
そこで本記事では、物流業界における課題と解決策のひとつである「物流DX」について解説します。ぜひ、課題解決にお役立て下さい。
物流業界の現状と課題について説明します。
高齢化や少子化に加え、物流業界の労働環境の厳しさ(長時間労働、低賃金など)により、労働力の確保が難しくなっています。特にトラックドライバーの担い手は急速に減少しており、さらなる人材不足が予測されています。
現在ドライバーの高齢化が進んでおり、対策を講じなければ、2028年には約27.8万人のドライバーが不足する見込みです(※)。また、ドライバーの年間労働時間は他業種に比べて2割長く、賃金は1割低くなっています(※)。
これらの要因から、物流業界の人材不足は今後さらに深刻化すると予想されます。
※出典:国土交通省,<今後の鉄道物流のあり方に関する検討会>データ等補足資料,p1
国土交通省,(資料3)検討の背景② 物流を取り巻く現状と課題,p7
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配送量の増加と長時間労働が原因で物流業界の労働環境は悪化しており、労働者の健康リスクが高まっています。
全産業平均の年間労働時間が2,112時間であるのに対し、大型トラックドライバーは2,544時間、中小型トラックドライバーは2,484時間と約2割多くなっており、長時間労働が常態化しています(※)。
このような過酷な労働環境を改善するために、勤務シフトの見直しや休憩時間の確保など労働環境整備の取り組みが進められています。
※出典:国土交通省,(資料2)我が国の物流を取り巻く現状と取組状況,p8
近年のECサイトの拡大により小口の注文が増加し、貨物1件あたりの重量が減少しています。また、トラックへの積載率は40%以下と非常に低水準で推移しています(※)。小口配送は配送回数が多くなるためドライバーの負担が大きく、配送効率の低下につながります。
※出典:国土交通省, (資料3)検討の背景②物流を取り巻く現状と課題,p4
BtoBの企業拠点間で大量の荷物を一括運送する場合に比べ、BtoCは配送先が多岐に亘ります。多くのケースで不在時の再配達は無料であり、誰もが気軽に利用するため再配達が頻繁に発生します。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い消費者の在宅時間が増加したことで、再配達割合は減っているものの、現状でも11.1%は再配達が必要となっています(※)。
再配達はドライバーの負担を増やすだけでなく、燃料費や時間の浪費、配送効率の悪化を招いています。
※出典:国土交通省, (資料3)検討の背景②物流を取り巻く現状と課題,p5
持続可能な社会の実現に向けて、物流業界におけるCO2排出削減が求められています。
エコドライブや自動運転の導入、環境に配慮した梱包材の使用などエコロジカルな物流への移行が進められています。
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燃料価格の上昇は経営コストの直接的な増加につながるため、物流業界に大きな影響を与えます。
経済産業省の資源エネルギー庁が提供している資料によると、レギュラーガソリンの価格について、2020年5月時点では124.8(円/リットル)だったのに対し、2024年7月時点では175.9(円/リットル)と、40%以上値上がりしています(※)。
しかし、燃料価格が上昇しても運賃に反映できない業者が多く、経営が圧迫されているケースもあるでしょう。
燃料費の高騰は物流業界の収益を圧迫するため、適切なコスト管理が求められます。
※出典:資源エネルギー庁,石油製品価格調査
2023年4月、中小企業における月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が25%から50%に引き上げられました(※)。これにより、人件費が増加します。
運賃契約の見直しや荷待ちなどの待機時間に対する適切な料金の検討も必要です。
※出典:厚生労働省,月60時間を超える時間外労働の 割増賃金率が引き上げられます
ドライバーは法律で定められた休憩や仮眠を取る必要があります。特に長距離輸送の場合、途中で休憩を取るために駐車する時間が長くなります。
また、着荷先の時間指定や荷物待ちに対する調整、深夜の高速料金割引待ちのための長時間駐車も問題です。
駐車場予約システムの導入や駐車スペースの有料化などの対策が検討されています。
※出典:国土交通省,(資料3)検討の背景②物流を取り巻く現状と課題,p15
業界単位、企業単位でさまざまなサイズ・仕様のパレットが使われていることも問題です。
パレットのサイズが不統一だとトラックやコンテナに効率的に積載できないため、空間の無駄が発生し、輸送効率の低下や着荷主側での管理コストの増加が生じます。
物流の効率化に向け、荷主・運送会社等の関係者で規格の統一化が検討されています。
※出典:国土交通省,(資料3)検討の背景②物流を取り巻く現状と課題,p20
荷主企業の依頼によって、長時間の荷待ちや手作業による夜間・早朝の積込み、積卸し作業が発生しています。
荷待ち時間や荷役時間が長くなると、ドライバーの労働時間が増え、コストが増加します。また、トラックが長時間停車することで稼働率が低下し、効率が悪化します。
荷役作業の自動化や機械の導入による作業効率化など、荷主企業と協力した取り組みが必要です。
※出典:国土交通省,(資料3)検討の背景②物流を取り巻く現状と課題,p17
2024年4月以降、ドライバーの時間外労働や拘束時間の上限が厳しく規制されています。
人手不足がさらに深刻化する可能性があり、企業はトラックドライバーの人員配置見直しを余儀なくされています。
これにより、輸送能力の低下が懸念されており、物流業界の労働環境と輸送能力に大きな影響があるでしょう。
※出典:国土交通省, (資料2)我が国の物流を取り巻く現状と取組状況
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上記課題の解決のために政府は「物流革新に向けた政策パッケージ」を策定しました(※)。中長期的な視点で、持続可能な物流システム構築のための対策が盛り込まれています。
このなかでも述べられている通り、物流業界の課題解決には、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が欠かせません。物流DXとは、機械化やデジタル化を通じて業務のあり方を変革することを指します。具体的には、機械化では「ドローン配送」や「自動配送ロボ」の導入が、デジタル化では「AIを活用した配車計画や管理」「手続きの電子化」などが挙げられます。
物流革新に向けた政策パッケージを併せて確認し、自社の課題となっている内容から取り組むことが大切です。
参考:※出典:内閣官房,「物流革新に向けた政策パッケージ」のポイント
※出典:国土交通省,物流DXについて
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物流業界には、深刻な人材不足や労働環境の悪化など、さまざまな課題があります。さらに2024年問題も加わり、企業としては何らかの対策を講じなければなりません。
これらの課題の対策としては、物流DXの推進が有効です。
本記事の内容が、自社課題の把握や課題解決の一助になれば幸いです。