ロジスティクスは以前から重要視されていましたが、2024年問題やEC市場の拡大に伴い、サプライチェーン全体を最適化する戦略的な経営管理手法として、さらにその重要性が強調されるようになっています。ロジスティクスの理解を深めることは、業務効率の向上やコスト削減、そして顧客満足度の向上につながり、企業の競争力を強化する可能性があります。
本記事では、ロジスティクスの意味、目的、そしてロジスティクスの具体的な要素について詳しく解説します。
ロジスティクスとは、JIS(日本産業規格)によると、「物流の諸機能を高度化し、調達、生産、販売、回収などの分野を統合して、需要と供給との適正化を図るとともに顧客満足を向上させ、併せて環境保全、安全対策などをはじめとした社会的課題への対応を目指す戦略的な経営管理」(※)と定義されています。
分かりやすく説明すると、ロジスティクスとは、商品やサービスが生産者から消費者へ効率的に届けられるよう、調達・生産・保管・配送などの流れを最適化し、戦略的に管理することです。
※出典:日本産業規格,JIS Z0111:2006 物流用語,p3
ロジスティクス(logistics)は、もともと「兵站学(へいたんがく)」という軍事用語から派生した言葉です。兵站学とは、戦争や軍事作戦において、部隊の移動や物資の補給、拠点の整備、兵員の衛生管理などの活動を計画・管理することを指します。
この考え方がビジネスに応用され、現代の「ロジスティクス」という概念に発展しました。具体的には、原材料の調達、生産、保管、輸送、そして最終的に顧客に届けるまでのすべてのプロセスを最適化することを意味します。
物流が「物の移動」に焦点を当てるのに対し、ロジスティクスは情報の流れや資金管理、顧客対応までを含む包括的なマネジメント手法と言えます。
ロジスティクスと混同されやすいのがサプライチェーンマネジメントです。
サプライチェーンマネジメントとロジスティクスは、管理の対象範囲に違いがあります。
JIS(日本産業規格)によると、サプライチェーンマネジメントは「資材供給から生産、流通、販売に至る物又はサービスの供給連鎖をネットワークで結び、販売情報、需要情報などを部門間又は企業間でリアルタイムに共有することによって、経営業務全体のスピード及び効率を高めながら顧客満足を実現する経営コンセプト」(※)と定義されています。
サプライチェーンマネジメントが全体の管理を対象とした概念であるのに対し、ロジスティクスはその中の物流機能に焦点を当てています。
※出典:日本産業規格,Z8141:2001 生産管理用語,p10
ロジスティクスを効果的に運用するための基本概念として「ロジスティクスの5つのR」があります。
これは、適切な「モノ」(Right product)を、適切な「場所」(Right place)に、適切な「時間」(Right time)で、適切な「量」(Right quantity)を、適切な「コスト」(Right cost)で提供することを目指すものです。
これらの5つの要素を適切に管理・最適化することで、効率的な物流を実現できます。
ロジスティクスの主な目的は4つです。
5つのRの最適化により、無駄を削減できます。例えば、需要予測を基に正確な数量を発注することで、過剰在庫や欠品のリスクを減らすことができます。
また、最適な輸送手段を選定すれば、遅延のリスクを減らし、スピーディーな配送が可能となります。
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輸送手段の最適化や在庫の適正化、倉庫運営の合理化により、不要なコストを削減できます。
近年では複数の輸送手段を組み合わせたモーダルシフトも注目されており、環境への配慮とコスト削減の両立が求められているのが現状です。
サプライヤーとの協力関係強化により調達コストの削減や支払い条件の改善ができれば、企業の収益性向上にもつながります。
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顧客に対して、適切な「モノ」を、適切な「場所」へ、適切な「時間」に、適切な「量」で、適切な「コスト」で提供することで、顧客満足度の向上が図れます。特に、配送の遅延や欠品を最小限に抑えることは顧客の信頼獲得につながり、長期的な取引関係の構築にも貢献します。
また、配送状況のリアルタイムトラッキングや短納期配送など多様なニーズに対応することにより、顧客満足度の向上が期待できます。
在庫状況や配送スケジュールを正確に管理することで、営業部門はこれらの情報をリアルタイムで把握することが可能です。
その結果、営業部門は、商品の在庫状況や納期に関する問い合わせに時間を取られることが減少し、本来の営業活動に集中できるため、営業活動の効率化につながります。
ロジスティクスは、物流の機能から調達、生産、販売、回収に至るまでの供給プロセスを一元管理することであり、単なる物流の管理を超えて、経営戦略の一環としての機能を担っているのです。
JIS(日本産業規格)において、ロジスティクスはサプライチェーンマネジメントの一部としての役割が強調されていますが、実際にはロジスティクスがこれらサプライチェーンの全プロセスを直接管理するわけではなく、プロセスがスムーズに実施されるよう物流分野の戦略を担います。
ここでは、ロジスティクスの要素を4つ紹介します。
製品を生産・販売するために必要な原材料や部品を、適切なサプライヤーから確保するプロセスです。
調達の計画がうまくいかなければ、生産ラインの停止や過剰在庫の発生により、企業のコスト構造や生産効率に大きな影響を及ぼします。調達リードタイムの短縮によってコストを削減し、品質の向上を図るためには、サプライヤーや他のステークホルダーとの連携が欠かせません。
調達戦略の最適化によりコスト削減と安定的な供給が実現でき、企業の競争優位性が向上します。
調達した原材料を使用して製品を製造するプロセスです。
効率的な生産ラインの構築やスケジューリングの結果、コスト削減と品質管理が実現でき、生産コストを抑えることは企業の収益性を高めることにもつながります。生産工程全体の最適化と柔軟な生産計画ができれば、顧客の需要変動に迅速に対応できる体制を構築することが可能です。
顧客に製品やサービスを提供するプロセスです。
迅速な供給体制を整え、顧客の需要に対応することが企業の売上や競争力向上につながります。
さらに、返品や交換などアフターサービスの質を高めることは、顧客との長期的な関係構築に貢献します。
使用済みの製品や資材を、リサイクルまたは再利用のために回収するプロセスです。
環境へ配慮した持続可能な物流体制を構築し、コスト削減と資源の有効活用を目指します。
製品ライフサイクル全体を管理し、使用済み製品の回収やリサイクル・再利用を促進することで、環境負荷の低減と企業の持続可能性の向上に寄与します。逆物流を効率的に行うことは、社会的評価の向上にもつながります。
本記事では、ロジスティクスの意味、目的、そして具体的な要素について詳しく解説しました。ロジスティクスは単なる物流の管理を超え、サプライチェーン全体を戦略的に管理し、効率化する重要な経営手法です。調達、生産、販売、回収といった各工程の最適化により、業務効率の向上、コスト削減、顧客満足度の向上が実現し、競争力の強化が期待できます。
ロジスティクスを効果的に活用することで、企業は市場での競争優位性を獲得し、持続的な成長を遂げることができるのではないでしょうか。