物流の2024年問題を背景に、政府は物流革新に向けた中長期計画や政策パッケージを策定し、法制化も含めて推進しています。荷主企業は、政府の方針を十分に理解したうえで、運送会社や一般消費者などの各関係者と協力しながら物流効率化に向けて取り組んでいくことが必要です。
本記事では、物流効率化に向けた政府の取り組みや荷主企業に求められることについて解説します。
はじめに物流効率化に向けた政府の取り組みについて、以下の政府関係資料を基に解説します。
本資料は、令和5年6月に開催された物流革新に関する関係閣僚会議を通じ、日本国内の物流を支えるための抜本的・総合的な対策として発表されたものです。物流の2024年問題に向けて、政府の取り組みや荷主企業・運送会社・一般消費者が協力して取り組むべき施策などがまとめられています。
本資料を踏まえた物流効率化のポイントは以下のとおりです。
運送会社の営業所や倉庫などにバース予約システムやフォークリフトを導入して自動化・機械化を図ります。また、荷主企業が到着時間の指定やパレット化を行っていくために、設備やシステムへの投資を推進することもポイントです。
トラックだけでなく、鉄道や海運などへのモーダルシフトを行います。加えて、再生可能エネルギーの導入などにより、車両や物流施設、船舶、港湾などの脱炭素化を目指します。
自動運転やドローン物流、自動配送ロボットを活用して配送の効率化を図ります。また、港湾での待ち時間の短縮や荷役の効率化に向けて、AIターミナルやサイバーポートなどの仕組みを導入することもポイントです。
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標準仕様のパレットの利用拡大を図るため、運送会社による導入や物流拠点の改修、パレット管理を推進します。併せて、運送会社が共通して使用できるようコンテナの規格を統一します。
非常用電源設備の導入や鉄道河川橋梁対策などにより、物流拠点の機能強化を図ります。また、三大都市圏や地方都市の環状道路の整備などを通じて、物流ネットワークの形成支援を行うこともポイントです。
現在時速80kmとされている高速道路の大型貨物自動車の最高速度について、車両の安全性を確認したうえで、引き上げる方向で調整を行います。
大口割引や多頻度割引などを適用し利用しやすい高速道路料金を設定することで、トラックドライバーの高速道路の利用を促進し、労働生産性の向上につなげます。
特殊車両通行制度に関して、通行時間帯条件の緩和や道路情報の電子化により、手続き期間の短縮や利便性向上を図ります。
1台で通常の大型トラック2台分の輸送が可能な「ダブル連結トラック」を導入し、より少ないドライバーでの輸送を実現します。また、運行路線の拡充や駐車マスの整備、高速道路IC付近の物流拠点施設の整備を通じて、ダブル連結トラックの普及や積載率向上を図ることもポイントです。
貨物集配中の車両の駐車に関しては、路外の駐車スペースが少ない場所への駐車など交通実態を考慮したうえで、規制緩和に向けた調整を行います。
過疎地域のドライバー不足や貨物量減少、積載率低下の問題を解決するために、地域共同での輸配送を促進します。また、地域レベルでの効率的な共同輸配送・共同拠点利用の実現に向けて、荷主企業や運送会社などの関係者間での連携を促進することもポイントです。
軽トラック事故を減らし輸送の安全性を強化するために、軽トラック運送業における安全対策を強化します。加えて、荷主企業や元請事業者を通じて、軽トラック事業者が遵守すべき輸送の安全や労働時間に関する法令の周知・徹底を図ります。
快適で働きやすい職場環境を整備することで、女性や若者、外国人労働者などの多様な人材を確保し、トラック運送業における深刻な働き手不足の解消を図ることもポイントです。また、運送会社の労働生産性を向上させるため、大型車両やトレーラー、ダブル連結トラックなど輸送効率の高い車両を運転するために必要な免許の取得を促進します。
※参考:内閣官房長,物流革新に向けた政策パッケージ
本資料は、令和6年2月の物流革新に関する関係閣僚会議を通じて整理された、2030年度に向けた政府の中長期計画です。前述の「物流革新に向けた政策パッケージ」を長期的な視点で発展させたものであり、本資料を踏まえた物流効率化のポイントは以下のとおりです。
物流設備やシステムへの投資を政府が支援し、荷主や運送会社における物流プロセスの自動化・機械化を促進することで、荷待ち時間や荷役時間の短縮を図ります。具体的には、2030年度までにトラックドライバー1人当たりの荷待ち時間や荷役作業時間について、2019年度比で年間125時間以上の削減を目指します。
物流標準化やデータ連携強化などを通じて、車両の積載率向上に向けた共同輸配送や帰り荷確保を促進します。また、荷主を対象とした規制的措置として納品リードタイム延長を導入し、2030年度までに積載率を2019年度比で16%以上増加させることを目指します。
自動運転やドローン物流などのデジタル技術を活用したサービスについて、実装への取り組みを推進します。具体的には、2024年度から先行的な取り組みを開始し、150km以上のドローン航路の整備や100km以上のデジタル情報配信道の整備などを進めていきます。
※参考:内閣官房,2030年度に向けた政府の中長期計画
「2030年度に向けた政府の中長期計画」には荷主・運送会社に対する規制的措置が挙げられており、荷主企業に求められる事項は以下のとおりです。荷主企業はこれらの規制的措置を踏まえたうえで、運送会社などと協力しながら物流効率化に向けて推進していくことが必要です。
荷主企業は、経営層の意識改革により全社的な物流改善への取り組みを促進するため、役員クラスに物流管理の責任者を配置することが義務付けられています。
荷主企業は、物流効率化に向けた自社の取り組み状況を公表し、国の判断基準に基づく指導や助言があった場合は取り組みの再検討が必要です。
特定事業者として指定された一定規模以上の事業者は、中長期計画の作成や定期報告などが義務付けられています。取り組みの実施状況が不十分な場合は、勧告・命令により是正対応を行うことが求められます。
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物流効率化に向けて、政府は設備投資の促進や物流標準化の推進、高速道路のトラック速度規制の引き上げなどの各種取り組みを推進しています。荷主企業は、政府の取り組みを十分に理解したうえで、運送会社や一般消費者などの各関係者と協力しながら物流効率化に向けて施策を検討・推進していくことが必要です。
具体的には、荷主・運送会社に対する規制的措置に従い、物流統括管理者の選任や取り組み状況の公表などを行うことが求められるでしょう。