物流MaaSは、物流業界の増加する輸送需要や人手不足、環境問題といった課題を解決するための革新的な取り組みです。IT技術やデータ連携を活用し、業務の効率化と持続可能な物流の実現を目指しています。
物流Maasは政府が推進しており、データ標準化や新技術の導入を通じて効率化を図り、地方交通の維持や物流高度化に貢献しています。
本記事では、物流MaaSの概念やその必要性、具体的な政府の施策を解説し、未来の物流社会の可能性に迫ります。
物流MaaS(Mobility as a Service for Logistics) とは、物流プロセス全体を統合・最適化し、効率的かつ柔軟な物流ネットワークを構築する概念です。
従来のMaaS(人の移動が対象)と異なり、「モノの移動」に特化している点が特徴と言えるでしょう。
経済産業省において、物流MaaSは「荷主・運送事業者・車両の物流・商流データ連携と物流機能の自動化により最適物流を実現し、社会課題解決や物流の付加価値向上を目指す」と示されています。(※)
ここでは物流MaaSの目的や必要性について詳しく解説します。
※出典:経済産業省,物流MaaSの推進
物流MaaSの目的は、デジタル技術とデータ連携を活用してさまざまな課題解決を目指すことです。
複数の輸送手段や倉庫、配送オペレーションをデータで連携させることで、最適な輸送計画を自動で割り出します。渋滞や気象条件を考慮したルート最適化により、輸送時間とコストの削減が可能です。
環境に配慮した輸送手段の活用やモーダルシフトを促進し、空きリソースを効率的に活用することでCO2排出量を抑え、持続可能な物流を実現します。
経済産業省では、幹線輸送から支線配送に至るまでの連携を推進しています。(※)
※出典:経済産業省,今後の物流MaaSの方向性について,p2-4
物流ロボットや自動運転車、ドローンを活用し、慢性的な労働力不足を補います。これにより配送効率が向上し、ドライバーや物流スタッフの負担軽減が期待されています。
地方物流の効率化を支援し、地域交通の維持や中小企業の物流コスト削減に寄与します。地域間の物流をデジタルでつなぎ、地方経済を支える物流ネットワークの構築を目指しています。
物流MaaSが注目される背景には、物流業界が抱えるさまざまな課題があります。
これらの課題を解決するための革新的な取り組みとして、物流MaaSが期待されています。
物流業界の主な課題 | 説明 |
需要過多と人手不足 | EC市場の拡大により輸送需要が急増している一方、ドライバー不足が深刻化。2024年問題(労働時間規制強化)がさらなる影響を及ぼしている。(※) |
カーボンニュートラルへの対応 | 運輸部門は日本のCO2排出量の約18.5%を占めており、特に貨物自動車による排出が課題となっている。(※) |
デジタル化の必要性 | 物流業界では大企業を中心にデジタル化が進む一方で、中小企業ではシステム導入やデータ活用が遅れている。 |
CASE(Connected, Autonomous, Shared, Electric)への対応 | CASE技術とは、コネクティビティや自動運転、シェアリング、電動化を指し、物流業界でも活用が進んでいる。(※) |
※出典:
・厚生労働省,建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制(旧時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務)
・国土交通省,運輸部門における二酸化炭素排出量
・経済産業省,製造基盤白書(ものづくり白書) 2018年版 第1部 第1章 第3節 価値創出に向けた Connected Industries の推進
物流MaaSの実現には、商流データや物流データなどを統合・活用し、物流プロセス全体を最適化することが重要です。以下は主なデータの種類と内容です。
データの種類 | 説明 |
商流データ | 商品の流通情報(受発注、在庫、配送予定など)。 |
物流データ | 輸送手段、ルート、配送状況、トラックの稼働状況など。 |
リアルタイムデータ | 交通状況、気象情報、事故情報、需要の変動など。 |
ユーザーデータ | 配送依頼主や受取人の要望、過去の取引履歴。 |
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国土交通省が策定した「総合物流施策大綱(2021年度〜2025年度)」では、物流MaaSの推進が重要な施策の1つとして位置づけられています。
主要な取り組み内容は以下の通りです。
取り組み | 説明 |
物流・商流データ基盤の構築 | データを一元化し、物流の可視化と効率化を実現する。 |
複数事業者間の連携強化 | 共同配送モデルの推進により、配送効率の向上とコスト削減を図る。 |
IoTやAIの活用 | リアルタイム監視や予測分析を通じた物流DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進。 |
環境負荷の軽減 | 電動車の普及促進やモーダルシフトによるCO2削減を目指す。 |
経済産業省は、物流MaaSの実現を通じて物流業界の課題を解決するため、さまざまな施策を展開しています。
ここでは、主要な取り組みについて解説します。
経済産業省は、物流MaaS推進のために定期的に検討会を開催しています。(※)
この検討会では、業界全体の課題を分析し、効率的な輸送体制を構築するための議論が行われています。
主な内容として、データ連携の促進、輸送効率の向上、自動化技術の活用が挙げられます。
例えば、荷主や運送事業者が持つデータを統合し、輸送ルートや車両運行の最適化を実現する取り組みが進められています。
※出典:経済産業省,物流MaaSの推進
物流MaaSの実現には、トラックデータの統合と共有が不可欠です。
経済産業省は、これを支える標準APIガイドラインの策定を進めています。(※)
ガイドラインでは、トラックの位置情報や運行状況、荷役情報などを統一的に管理する基準が設けられました。
この取り組みは、車両運行の効率化だけでなく、危険挙動の監視や事故予防など、安全性の向上にも貢献します。
※出典:経済産業省,トラックデータ標準APIガイドライン0.1版
輸配送の効率化を目指し、経済産業省は、荷物の「見える化」と「混載」の推進に取り組んでいます。(※)
「見える化」はセンサーやIoT技術を活用してリアルタイムで荷物の状況を可視化し、「混載」は複数の荷主が共同で複数商品の輸送を行う仕組みです。
これらの取り組みにより、輸配送全体の効率化とコスト削減が進められています。
※出典:経済産業省,物流MaaSの推進に向けて!
カーボンニュートラルへの対応として、経済産業省は電動商用車の導入促進とエネルギーマネジメントの効率化にも取り組んでいます。(※)
軽貨物EVの実証実験では、ガソリン車と比較した際の経済性や環境負荷軽減効果が評価されました。充電インフラの整備では、地域ごとの利用状況に応じたモデルの構築が進められています。
※出典:経済産業省,物流MaaSの推進に向けて!
内閣官房からは、内閣官房成長戦略会議事務局によって包括的な日本版MaaS戦略が発信されています。物流MaaSや新技術の社会実装を通じて地域交通の課題を解決し、持続可能な社会の実現を目指す取り組みです。
ここでは、具体的な内容について解説します。
日本版MaaSは、地域住民や旅行者の移動ニーズに応じた効率的な交通サービスを提供するための取り組みであり、その中には物流も含まれます。
内閣官房では、交通と物流、医療、買い物などのサービスを統合することで、特に人口減少地域における課題解決を発信しています。
日本版MaaS推進の取り組み | 説明 |
地方公共交通の維持と活性化 | 地方では交通サービスの縮小が進む中、MaaSの導入が新たな解決策として注目されている。 |
交通と物流の融合による効率化 | 交通と物流を組み合わせた新たなモデルを構築し、輸送効率を向上させる取り組みが進行している。 |
※出典:首相官邸,モビリティ
内閣官房の発表では、新技術を活用して交通の利便性と安全性を向上させることを目指しています。
新技術の取り組み | 説明 |
自動運転技術の導入 | 自動運転技術は、地域交通の効率化と高齢者の移動手段確保において重要な役割を果たす。 |
小型無人機(ドローン)の活用 | ドローンを活用した物流システムは、遠隔地や過疎地域での配送において特に効果的である。 |
※出典:首相官邸,モビリティ
本記事では、物流MaaSの概念や必要性、具体的な政府の施策、未来の物流社会の可能性について解説しました。
物流MaaSは、IT技術やデータ連携を活用して物流業界の効率化を目指す新しい概念です。労働力不足やカーボンニュートラルへの対応といった課題解決に貢献し、持続可能で効率的な物流の実現を可能にします。
政府は、物流MaaSの実現に向けて、基盤整備や新技術の導入を推進しています。今後、物流の持続可能性と付加価値の向上が期待できるでしょう。