Scope3とは?目的やメリット、算出方法、削減のための取り組みを解説

Scope3とは?目的やメリット、算出方法、削減のための取り組みを解説

企業の温室効果ガス排出量の削減に向けて、サプライチェーン全体を視野に入れた取り組みが加速しています。その中心的な概念がScope3です。


Scope3は、企業活動に関連する間接的な排出量であり、バリューチェーン全体で発生する排出量を15のカテゴリに分類して可視化し、削減へつなげるための重要な指標です。企業にとって、Scope3排出量の可視化と削減は、環境経営の強化やステークホルダーとの関係構築、リスク管理など、多面的なメリットをもたらします。


本記事では、Scope3の概要や目的、メリット、算定方法を解説します。また、Scope3削減のための具体的な取り組みも紹介するため、製造業の経営者、もしくは物流担当者はぜひ参考にしてください。

この記事でわかること

  • Scope3の基礎知識
  • Scope3削減のための具体的な対策について

1.Scope3とは

まず、Scope3の概要について解説します。

Scope3の概要

Scope3とは、企業が温室効果ガス(GHG)排出量を管理する際に用いる3区分の一つで、企業活動に関連する indirect(間接的)な温室効果ガス排出量のことです。具体的には、企業のバリューチェーン全体で発生する排出量を15のカテゴリに分類し、算定・報告します。


GHGプロトコルにおけるScope1(直接排出)、Scope2(エネルギー起源の間接排出)に続く、Scope3(その他の間接排出)の概念が2011年に策定されています。

Scopeの分類

各Scopeの対象は以下のとおりです。


Scope1: 企業が自ら直接排出する温室効果ガス(例: 自社工場や車両の燃料燃焼)。

Scope2: 企業が購入した電力や熱、冷房などのエネルギー使用による間接的な排出。

Scope3: サプライチェーン全体を含む、企業活動に関連するその他すべての間接的な排出。


Scope3は、企業活動全体における温室効果ガス排出の大部分を占めることが多いです。これには、サプライヤーや顧客の活動による排出も含まれるため、測定と削減が難しい一方で、持続可能性の観点から非常に重要といえます。


※参考:環境省,サプライチェーン排出量算定の考え方,p4

※参考:環境省,今、脱炭素経営に 取組む8の理由と 主なアクションリスト,p8

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2.Scope3排出量を算定するメリット

Scope3排出量の算定・報告には、サプライチェーン全体の可視化、コスト削減、リスク管理、企業価値の向上、競争優位性の確保など、さまざまなメリットがあります。それぞれの詳細を解説します。

サプライチェーン全体の可視化

Scope3を算定することで、サプライチェーン全体でどの部分が最大の温室効果ガス(GHG)排出源であるかが明確になります。これにより、排出量の多いプロセスや取引先を特定し、優先的に対策を講じる改善計画を立案できます。


たとえば、原材料の調達段階で排出量が多いことが判明すれば、環境負荷の少ない代替材料の検討や、サプライヤーとの協働によるScope3の削減対策の実施が可能です。

コスト削減

Scope3の排出源を特定して改善することで、大きなコスト削減効果が期待できます。


たとえば、サプライヤーの製造プロセス効率化による原材料コストの削減、輸送ルートの最適化による物流コストの削減、製品使用時のエネルギー効率向上による運用コストの削減などが実現します。

リスク管理

気候変動に関する規制強化や市場の変化に備え、サプライチェーン全体のリスクを把握・管理できます。


具体的には、環境規制の強化による原材料調達コストの上昇リスク、気候変動による物流網の寸断リスク、環境配慮要求の高まりによる製品の競争力低下リスクなどを事前に特定し、対策を講じることが可能です。

企業価値の向上

Scope3の管理・削減への取り組みは、投資家や環境意識の高い消費者からの評価向上につながります。ESG投資やSDGsの観点でも評価され、ブランド価値の向上や市場での信頼性向上が期待できるでしょう。

競争優位性の確保

環境意識の高い消費者や企業との取引において、Scope3の削減は大きな競争力となります。


たとえば、脱炭素型製品の開発や環境配慮型サービス提供により、競合他社との差別化を図れます。また、環境規制や市場要求に対応した持続可能なサプライチェーンの構築により、長期的なビジネス機会の創出が可能です。


3.Scope3の算出方法

Scope3排出量の算定方法は、GHGプロトコルのScope3基準に基づいて、15のカテゴリごとに活動量と排出係数を用いて算定し、合算する方法が一般的です。

1. Scope3排出源の特定

15カテゴリのなかから、どのカテゴリが自社の活動に関連するかを特定します。

2. データ収集

主に以下のデータを収集します。


・活動量データ:取引先の購入量(トン数、金額)、輸送距離、エネルギー消費量など

・排出係数:各活動に対応するGHG排出量(例: 購入金額や重量あたりのCO2排出量

3. 算出

「活動量×排出原単位」の式で排出量を算出します。

環境省の資料に、Scope3の算定方法が15カテゴリそれぞれで記載されています。


※出典:環境省,サプライチェーン 排出量算定の考え方,p11

※参考:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム,Scope3排出量とは


4.Scope3削減のための具体的な取り組み

Scope3排出量の削減には、バリューチェーン全体での協働が不可欠です。調達、物流、製品設計、販売など、各段階で具体的な削減策を講じることが求められます。製品ライフサイクルでのCO2削減は、原材料調達から製造、使用、廃棄に至るまでの各段階で取り組むことが効果的です。

サプライヤーエンゲージメント

サプライヤーとの協力を強化し、再生可能エネルギーの導入を促進したり、環境に優しい原材料の使用を推奨することが重要です。たとえば、製造工程で太陽光発電を活用する取引先を選定すると、Scope3の削減に寄与できます。

物流の効率化

輸送プロセスにおいて、モーダルシフト(鉄道や船舶への転換)を推進すると、CO2排出量を大幅に削減できます。また、配送ルートの最適化や、燃費の良い車両の導入も輸送時の排出量削減に効果的です。


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製品設計での配慮

製品のエネルギー効率を高める設計や、リサイクル可能な素材の採用は、使用段階や廃棄段階での排出量削減につながります。たとえば、エネルギー効率の良い家電や、再利用可能なパッケージ素材を使用することで、消費者の環境負荷を軽減できるでしょう。

顧客との協働

企業がScope3排出量を削減するためには、顧客との協働など多角的なアプローチも必要です。

従業員の行動変革

企業全体で従業員の行動変革を促すことも重要です。テレワークを推奨して通勤時の排出量を削減する、公共交通機関や自転車通勤を奨励するといった取り組みが効果を発揮します。また、環境意識を高めるための社内教育を実施することも有効です。

デジタルツールの活用

温室効果ガス(GHG)排出量を測定・管理するためのデジタルプラットフォームを導入し、排出状況を可視化すると、効果的な改善策を立案できます。たとえば、AIを活用して排出量の傾向を分析し、具体的な削減目標を設定することが可能です。


5.Scope3削減の事例

最後に、Scope3削減の具体的な事例を2つ紹介します。

イケア社の取り組み

イケア社は、サプライヤーとの協働により、2030年までにScope3排出量を50%削減することを目指しています。具体的には、サプライヤーの再生可能エネルギー利用を支援するプログラムを実施しています。


※参考:IKEA,クライメートアクション

トヨタ自動車株式会社の取り組み

トヨタ自動車は、物流における輸送効率の改善や、モーダルシフトの推進により、Scope3排出量の削減を進めています。製品設計においては、軽量化や燃費改善を通じてライフサイクルCO2削減に取り組んでいます。具体的な取り組みは以下のとおりです。


取り組み

具体例

サプライヤーエンゲージメント

 ・サプライヤーの温室効果ガス排出量データの収集

 ・サプライヤーの排出削減目標設定の支援

 ・再生可能エネルギー利用の推進

物流の効率化

 ・輸送ルートの最適化

 ・低燃費車両の導入

 ・モーダルシフトの推進

製品設計での配慮

 ・軽量化や小型化による資源使用量の削減

 ・省エネ性能の向上

 ・長寿命化や修理容易性の向上

顧客との協働

 ・製品の適切な使用方法の周知

 ・省エネ製品の普及促進

 ・使用済み製品の回収・リサイクルの推進


※参考:トヨタ自動車株式会社,環境への基本的な考え方

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6. まとめ

Scope3とは、企業活動に関連する間接的な温室効果ガス排出量のことです。企業のサプライチェーン全体で発生する排出量を15のカテゴリに分類し、算定・報告することが求められます。企業は、GHGプロトコルのScope3基準に従い、サプライヤーからのデータを活用しながら排出量を算定し、バリューチェーン全体での削減に取り組むことが重要です。


物流業界では、輸送効率の改善やモーダルシフトなどを通じて、Scope3排出量の削減に貢献することが期待されています。Scope3排出量の算定・報告は、企業の環境経営強化やステークホルダーとの関係構築、リスク管理など、多面的なメリットをもたらす取り組みといえるでしょう。

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