労働時間の規制強化によって、物流業界に大きな影響が及ぶとされる「2024年問題」。転換期を迎え、業界は今後どうなっていくのでしょうか。ハコベルでは、幅広く物流DX支援を展開するシーオス株式会社 専務取締役 柳沼 克志氏をお迎えし、物流業界特有の課題とDX推進の関係性を考えるウェビナーを開催しました。
シーオス株式会社
専務取締役(COO)
柳沼 克志氏
長年、経営や人財・組織開発のコンサルティング業務に従事し、2016年にシーオス株式会社入社、MS事業部事業部長 執行役員就任。2018年同社取締役/CRO就任を経て2021年より現職。
ハコベル株式会社
物流DXシステム事業部 カスタマーサクセス部 部長
渡辺 健太
トーマツイノベーション株式会社(現・ラーニングエージェンシー)にて法人営業、セミナー講師、新規事業開発責任者等を担い、産学官連携プロジェクトマネージャーを歴任。2年間の上海現地子会社にてCOOとして幅広く経営に従事した後、2021年11月にラクスル株式会社ハコベル事業部に入社し、以来物流DXシステム領域の事業開発、カスタマーサクセス部門を管掌。
ウェビナーでは始めに、ハコベルの渡辺より、直近の物流業界のトレンドを紹介しました。
2023年に物流効率化を目指す閣僚会議が設置されて以来、「物流革新に向けた政策パッケージ/物流改革緊急パッケージ」の決定など、矢継ぎ早に様々な動きがありました。2024年5月に公布された「物流関連2法」【「物資の流通の効率化に関する法律(物流効率化法)/「貨物自動車運送事業法(運送事業法)」】改正案は、記憶に新しいところです。物流関連2法については明確に定義されていない部分が多いため、赤矢印の2024年12月までに定義案を作成し、2025年4月以降に施行される見通しです。
「物流関連2法」の改正は、政府が発表した2030年度に向けた中長期計画が土台となっています。その内容を見ていきましょう。
まず、荷主・物流事業者すべてを対象とした「流通業務総合効率化法」です。ここには、物流効率化に向けて全事業者が取り組むべき内容が盛り込まれています。具体的には
〇荷待ち・荷役時間の削減
〇積載率の向上
また、一定規模以上の荷主・物流事業者には中長期計画の作成と定期報告、そして物流統合管理者の選任が義務付けられました。
もうひとつは、トラック事業者を対象とした「貨物自動車運送事業法」です。
注目すべき点は、元請事業者に実運送体制管理簿の作成が義務付けられた点です。これは多重下請け構造を是正し、現場のトラックドライバーが適正な賃金を収受できるようにするのが狙いです。
物流業界は現在、大きな転換期を迎えています。
物流効率化は、一企業だけが取り組んでも何も変わりません。企業間・部門間の垣根を超え、業界全体で持続可能な物流の実現を目指すことが重要になります。
ここからは、シーオス株式会社 専務取締役 柳沼氏をお迎えし、同社の強みをご紹介いただきながら物流効率化に向けた支援方策を解説していただきました。
シーオス株式会社は創業2000年。主にロジスティクス物流業界を対象に、課題解決に資するソリューションを提供しています。構造的な課題を指摘できるコンサルティング力と高い技術力、そして長年培ってきた物流業務のナレッジで、改革プラン策定から効果創出まで、あらゆるフェーズを伴走支援できるのが強みです。
物流業界は人手不足や物流コストのインフレが加速し、経営課題が深刻化しています。それに加え、社会的な物流効率化の風潮を受けて物流投資額も嵩む一方です。その額は年間5000億円にのぼり、今後も増加する傾向です。
もっとも注目されているのが、IoTやAIなどの技術を活用して物流効率化を目指すスマートロジスティクス・ソリューションです。
市場は年平均14%増が見込まれ、2027年には530億円規模に。この市場成長の背景には、今年5月に公布された「物流関連2法改正」が大きく関わっていると柳沼氏は語ります。
柳沼氏「法改正では、荷主様・物流事業者様すべてを対象に荷役時間の削減や積載率向上へ努力義務が課されています。それに伴いバース予約やTMSなど、いわゆる管理システムの導入が伸びており、2027年には約220億円に達する予測です。
特に、倉庫管理システム(WMS)の需要は大きく、2027年には約300億円マーケットの見込みがあると見ています」
物流投資額の増加が経営難に直結している要因として、柳沼氏がもっとも大きな課題に挙げたのが環境整備=作業標準化ができていない点です。そこにソフトウェアシステムを導入することで、人やマテハン、ロボットの役割を最適配分できる可能性があると主張します。
柳沼氏「ソフトウェアシステムを導入していない場合、たとえば入荷した品物の置き場所等は作業者の状況判断に委ねられます(左図)。対して、導入している右図では、どの間口に何個配置できるかをソフトウェアが指示するので作業がスムーズになります」
このようにソフトウェアを活用するにあたっては、マスターデータなどが標準化されていることが重要です。
柳沼氏「直近数年の出荷数や在庫量、日々の出荷頻度等、お客様にビジネスの状況を細かくヒアリングして分析し、標準化を進めます。それを可視化し、利益も加味しながら人やマテハン、ロボットの最適配分を考え自動化していくのが、私たちシーオスの役割になります」
標準化の事例を見てみましょう。
柳沼氏「作業者のタブレット画面上に、“〇〇入荷日の商品の格納場所はここ”と地図で指示されます。フォークマンはこれで入荷格納の位置を確認できるため、あれこれ考える必要がありません。ミスを防いで品質向上になりますし、誰でも作業ができるようになります」
日進月歩で進化するロボット・マテハンを適切に活用し、物流の経営課題を解決していくためにも業務の標準化は避けて通れない取り組みと言えます。
ウェビナー後半は、シーオス株式会社とハコベルのシステム連携の可能性も見据え、ハコベルの渡辺による自社の事業説明からスタートしました。
ハコベルの事業は
1)トラックのマッチングサービス
2)荷主企業向けシステム(物流DX/SaaS)
1)は荷主企業と実運送会社をつなぐマッチング事業です。全国各地にハコベルと契約しているパートナー、及びトラック約5万台が登録されています。荷物を運びづらいエリアや緊急配送にも合致するドライバー・運送会社を見つけることが可能です。
2)は主に荷主企業に向けたシステムの提供となっています。
下記は、その荷主様向けシステムの全体像です。
従来、配車計画は専門性が高く、知識や経験が必要なため属人化しやすいと言われています。そこを担うベテランの方々のノウハウを可視化し、システム上で誰でも行えるようにするのが配車計画です。
渡辺「たとえばベテランのドライバーしか知りえない荷降ろし先の条件や時間帯による道の混み具合など、細かい知見をマスタ情報として標準化します。そのマスタ情報をAIによって自動化することで効率的な配車計画が可能になる仕組みです」
配車管理は、荷主・運送会社間のコミュニケーションツールの位置づけです。いまだ配車依頼等を電話・FAXでやり取りする現場が多いので、その煩雑な情報をシステム上で確認できるようにすることで、連絡業務を大幅に効率化することが可能です。
渡辺「荷主様と運送会社様とのやり取りが履歴で残ることはもちろん、ハコベル上で運送依頼を行えば自動的に請負階層も記録されます。2025年4月以降、作成が必須となる実運送体制管理簿に求められる情報がすべて充足された形で保存されるので、管理簿の開示請求にも対応することができます」
最後に、2025年以降の物流効率化について、シーオス株式会社 専務取締役 柳沼氏とハコベル渡辺でディスカッションを行いました。
柳沼氏「今のところ荷主企業様側に変化が出始めたと思っています。荷主様では製造部門と販売部門、その調整を行う在庫という構造が一般的ですが、適正在庫の管理は大変で、結局物流は調整役ですよね。今は人材不足や積載率の低下など、物流の需要に対して供給が追い付いておらず、それに伴って経営課題が深刻化しています。特に荷主様がランクアップしたときに事業者へも働きかけ、変化を急いでいる印象です」
渡辺「私も同様の肌感覚ですが、その変化に対して前向きになれない会社様もいらっしゃいます。ハコベルとして背中を押せるようにしていきたいと思っています」
柳沼氏「効率化の手段としてソフトウェア・ハードウェアの改善導入に目がいきがちです。しかし、当社としては、これらはあくまでも手段のひとつだと考えていて、手段に飛びつく前に現状把握をすることで、業務のどこに課題やボトルネックがあるかを明らかにすることができます。課題洗い出しをしっかり行い、業務を標準化して可視化するほうが大切です。標準化したデータをソフトウェア・ハードウェア設計に落とし込み、その結果効率化が見えてくると考えています」
柳沼氏「荷物が届かない、在庫が足りないなど、目に見える事象はたくさんあると思います。しかし、実はそれが起こりうる要因は複雑で、人の問題や業務の問題、荷主様と物流事業様の構造上の問題など様々原因があると思います。要因を把握しきれていない状態でもご相談いただければシーオスで課題をあぶり出し、業務の標準化をお手伝いすることができます。もちろん、シーオス1社でできることは限られていますので、ハコベルのシステムと連携するなど、業界をあげて物流効率化に取り組んでいきたいですね」
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引き続き、荷主企業様や物流事業者様に向けて定期的に各種セミナーを開催しております。
以下よりご確認いただき、ぜひご参加ください!