改善基準告示は、物流業界の労働環境の改善を目的としています。
違反すると罰則が科されることや行政処分を受けることがあり、さらには企業の社会的信用が低下する深刻なリスクが生じます。しかし、適用基準や罰則を正しく理解し、日常業務の改善、荷主企業との連携を進めれば未然に違反を防ぐことが可能です。
本記事では、改善基準告示の概要から違反時のリスク、罰則回避のための具体策、荷主企業が取るべき対応策について詳しく解説します。
改善基準告示は、物流業界の持続可能な発展を支えるための重要なルールです。正しく理解することで罰則リスクを回避しましょう。
改善基準告示は、物流業界の労働環境改善を目的に設けられた基準です。
ここでは、改善基準告示の概要とその適用対象について解説します。
改善基準告示は、トラックドライバーを含む自動車運転者の労働環境を改善するために設けられた国の基準です。(※)
具体的には、労働時間、休息期間などの労働条件を規定し、トラックドライバーの健康や安全を確保することを目的としています。
長時間労働や不適切なスケジュール管理が問題視されている物流業界において、各条件を規定した基準は必要不可欠と言えるでしょう。改善基準告示の主な内容は下図の通りです。「例外」は労使協定締結など条件がある場合です。
※出典:国土交通省,トラック運転者の改善基準告示が変わります!
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改善基準告示は、主に物流業界の運送事業者とその従業員(主たる業務が自動車の運転である人)を対象としています。一般貨物自動車運送事業や特定貨物自動車運送事業など、道路運送法に基づく業務に従事するドライバーです。
工場の配達部門の自動車運転者、食品配送や建設資材輸送を行う運転者など、物を運送することを目的とする運転者も改善基準告示の対象となります。
※出典:国土交通省,解説 トラック運転者の改善基準告示,p3
改善基準告示に違反すると、法的拘束力のある措置や行政指導の実施、社会的信用の低下などさまざまなリスクが生じます。
ここでは、それぞれの罰則と適用基準について詳しく解説します。
改善基準告示自体には、直接的な法的拘束力はありません。しかし違反すると、関連法規(労働基準法や貨物自動車運送事業法)に基づく罰則が科される可能性があります。
例えば労働基準法や道路運送法に違反している場合、事業停止や罰金といった処分があり得ます。重大な労働災害が発生した場合には企業の責任が問われるリスクも高まるため、企業の存続に影響する可能性もあるでしょう。
労働基準監督署は、労働条件の改善を目的に監督指導を行う機関です。改善基準告示違反が労働基準法の問題に発展した場合、是正勧告書を発行します。企業が是正勧告書を無視すると、さらなる調査や罰則が科される可能性が出てくるでしょう。
例えば労働時間管理が不適切である場合、まず是正勧告書が発行され、迅速な改善が求められます。これを無視すると最大30万円の罰金が科される可能性があります。(※)
監督署からの指導を無視する行為は、企業の信頼が失われるリスクも高めるでしょう。
※出典:国土交通省,解説 トラック運転者の改善基準告示,p1
改善基準告示違反が確認された場合、貨物自動車運送事業法に基づき、国土交通省は運送事業者に対し、事業停止命令や営業許可の取消といった行政処分を行うことがあります。(※)
特に重大な違反が継続的に行われた場合、厳しい処分が科される可能性が高まるでしょう。
事業の継続が困難になるだけでなく、関連する取引先や従業員にも影響が及ぶことがあるので注意が必要です。
※出典:国土交通省,行政処分の基準
労働時間を適切に管理することで、違反のリスクを軽減できます。
例えばタイムカードやデジタル勤怠管理システムを導入し、正確な記録を維持することが効果的です。
残業が発生しやすい部署に関しては、事前に労働時間を予測し、負担を分散する仕組みを構築するのも良いでしょう。
管理職が定期的に勤務状況を確認することで、未然に問題を防ぐことが可能となります。
無理のない運行スケジュールの設定によって、ドライバーの負担を軽減できます。
配送ルートの効率化や荷主との協議を通じて、時間に余裕のあるスケジュールを組むなどの方法が良いでしょう。
運行前にドライバーの体調を確認し、過労を防ぐ取り組みも効果的です。
これらの取り組みは改善基準告示に違反するリスクを減らすだけでなく、事故の発生率低下にも寄与します。
荷主との密接な連携は、改善基準告示の遵守において重要なポイントです。
荷待ち時間の削減や、運送条件の見直しを定期的に行う方法が挙げられます。
法令遵守の重要性を荷主と共有し、協力し合うことで企業間の信頼関係の強化が可能です。
ドライバーが改善基準告示の重要性を理解することは、違反を防ぐ上で重要です。
定期的な研修を通じて、法令の内容や遵守の必要性を伝えることが効果的でしょう。
また個別のカウンセリングやフィードバックを行い、問題点を解消する取り組みも役立ちます。
現場での意識向上によって、罰則のリスクを最小限に抑える効果が期待できます。
荷主企業としても、改善基準告示を遵守するための取り組みが求められます。
ここでは、具体的な対応策について解説します。
荷主企業は、運送会社に無理な要求を出さず適正な取引慣行を推進する必要があります。
短期間で大量輸送を求める際には、追加の人員確保や適切な運送スケジュールを事前に相談するのが望ましいでしょう。
業務内容を明確化することで両者の間で誤解を減らし、効率的な運送が実現可能となります。
荷主企業が荷待ち時間を削減する対策を講じることは、運送会社の負担を軽減する重要な要素です。
荷物の積卸しを効率化するための設備投資やスケジュールの事前調整が効果的です。予約システムを導入すれば、待機時間を最小限に抑えることも可能となるでしょう。
改善基準告示は、トラック運送事業者がドライバーの労働条件(拘束時間、休息期間、運転時間など)を適正に管理するための基準を定めています。しかし、荷主が長時間の荷待ちや無償の荷役作業を要求する場合、運送事業者の拘束時間が増え、改善基準告示に違反する可能性が高まります。
このように荷主の不適切な行為が改善基準告示違反を助長する場合、国土交通省は荷主勧告制度を通じて荷主に是正勧告をしたり企業名の公表を行ったりします。
法令を遵守するためには、体制を強化することが重要となります。
例えば社内で定期的な法令研修を実施し、全社員に改善基準告示の重要性を共有する方法などが有効です。
また法令違反のリスクを未然に防ぐため、専門の監査チームを設けるのも効果的な方法と言えるでしょう。
荷主企業は、運送会社の労働環境改善に協力する姿勢を示すことが求められます。
無理な納期を避けるだけでなく、適正な報酬を提示することで運送業務の改善が可能です。
定期的に取引先の運送会社の状況を確認し、必要に応じてサポートすることが効果的でしょう。
これらの取り組みにより、荷主企業と運送会社の信頼関係が強化されます。
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今回は、改善基準告示の概要、違反時のリスク、罰則回避のための具体策、荷主企業が取るべき対応策を解説しました。
改善基準告示は、運送業務の効率化と労働環境の改善を目的に制定された国の基準であり、物流業界全体で遵守が求められます。違反した場合には、罰則が科されることや行政処分を受けることがあり、社会的信用の低下というリスクが伴うため、しっかりと対応していく必要があるでしょう。
罰則を回避するには、労働時間管理や運行スケジュールの適正化、荷主との連携強化が不可欠です。これらの取り組みを通じて、安全かつ効率的な物流を実現することが期待されています。