ホワイト物流は、深刻なトラック運転手不足に対応し 、社会に必要な物流を確保するために、生産性向上と物流の効率化、労働環境の改善に取り組む運動です。
この運動に取り組むことで、より魅力的な業界業界と感じられるような 労働環境を実現できる でしょう。従業員が働きたいと思う環境を作るためには、さまざまな観点から改善を行なう必要があります。
この記事では、ホワイト物流の概要と成功事例、実際に取り組む際に役立つヒントなどを紹介します。
ホワイト物流を推進するには、まず基本的な定義と概要を把握しておく必要があります。ここでは、ホワイト物流の定義と概要を解説します。
「ホワイト物流」とは、「物流業界のより良い労働環境への改善」を目指す国の政策を表す用語です。
特に、2024年における物流業界の大きな変革、通称「2024年問題」への対応や、企業のSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みの重要性が増すなかで、ホワイト物流が注目されるようになりました。
ホワイト物流を広く浸透させるために、国土交通省は「ホワイト物流」推進運動を、2024年4月1日にトラックドライバーの時間外労働の上限規制がスタートするまでの間、実施していました。
ホワイト物流推進運動の目的は、トラック輸送の生産性向上や物流の効率化を図ることです。さらに、女性や60代以上のドライバーなども働きやすい、労働環境の実現を掲げています。
この運動を成功させるためには、物流にかかわるすべての関係者が連携しなければなりません。荷主企業や物流事業者、そして消費者の目線からも取り組むべき課題を検討し、協力することが求められています。2024年3月15日時点で2,665社がこの運動に参加 していることからも、その重要性がうかがえます。
ホ ワイト物流を推進すると、以下の4つのメリットが得られます。
ホワイト物流を推進すると、物流の生産性の向上につながります。
ホワイト物流の概念に即した生産性の向上に役立つ施策の一つが、トラックドライバーの業務管理を効率的に実施することです。そのためには、AIやSaaSなどを用いた労務管理システムの活用が有効です。
例えば、AIを活用した配車システムを導入すると交通状況や日時指定を考慮したうえで効率良く配車でき 、ドライバーの負担が軽減されます。このような効率的な業務管理が実現できれば、ドライバーの働きやすさが改善されるだけでなく、配車や内勤などを行なう部門の生産性の向上にもつながります。
ホワイト物流の推進により、慢性的なドライバー不足の改善も期待されます。業界全体で働きやすい環境を整備すれば、物流業界が魅力的な業界に変わり、人材が集まりやすくなるでしょう。
具体的には、労働条件の改善や労働時間の短縮、福利厚生の充実などが挙げられます。これらの改善策により、ドライバーの定着率が向上し、新しい人材の確保も容易になります。
また、AIやIT技術を活用した業務効率化によってドライバーの負担を軽減すれば、より多くの人々が物流業界で働きたいと感じる環境を提供できます。さらに、女性や高齢者など多様な人材が活躍できる場を増やせば、ドライバー不足の問題にも対処することが可能です。
これらの取り組みが総合的に作用してドライバー不足が改善されれば、物流業界全体の活性化と持続可能な発展が期待できるようになるでしょう。
ホワイト物流の推進は、物流業界が社会的責任を果たすための重要な手段です。具体的には、以下のような取り組みが挙げられます。
上記の取り組みを講じることで、SDGs(持続可能な開発目標)の達成やCO2排出量の削減など、環境負荷の低減を実現できると同時に、企業の社会的評価の向上も図れます。
また、持続可能な物流体制を確立することで、将来的な経済活動の安定性も確保できます。さらに、労働環境の改善や安全対策の強化は、従業員の働きやすさを向上させるだけでなく、地域社会との信頼関係の構築にも役立つのがメリットの一つです。
企業には、環境問題や労働環境の改善への取り組みを通じて、CO2排出量の削減など社会全体に対する責任を果たし、持続可能な発展に貢献することが期待されます。
その期待に応えられれば、結果として消費者や取引先からの信頼が高まり、企業価値の向上にもつながるでしょう。
ホワイト物流を推進すれば、サービス品質の向上も期待できます。業務改善を管理部門と現場の双方で進めることにより遅配などのミスが減少し、顧客ロイヤルティの向上が見込めます。
また、再配達や返品が減少することでコスト削減も実現可能です。コスト削減が成功すれば経営状態が良くなるだけでなく、労働環境の改善に対する余力も生まれます。
結果として、ホワイト物流の実現は企業の競争力を高め、持続的な成長へとつなげる効果的な手法といえるでしょう。
ホワイト物流へ参加するためには、以下の3STEPを踏む必要があります。
ここでは、上記の3STEPについて解説します。
ホワイト物流推進運動に参加するには、まず「自主行動宣言」の必須項目に賛同し、提出する必要があります。自主行動宣言とは、企業が持続可能な物流環境の実現を目指すための具体的な行動計画です。
必須項目の概要は以下のとおりです。
必須項目 | 内容 |
---|---|
取組方針 | 持続的な物流の確保と働き方改革を目指す |
法令遵守への配慮 | 労働関係法令などの遵守を徹底 |
契約内容の明確化・遵守 | 契約内容の明確化を目指しつつ、関係各所からの協力を得て遵守に努める |
必須項目以外に、A~Fのカテゴリに分けられた推奨項目から、自社で取り組めそうなものを選びます。以下に、荷主企業が取り組めると想定される推奨項目を紹介します。
カテゴリ | 項目例 |
---|---|
A. 運送内容の見直し | 物流の改善提案と協力、予約受付システムの導入など |
B.運送契約の方法 | 運送契約の書面化の推進、運賃と料金の別建て契約など |
C.運送契約の相手方の選定 | 契約の相手方を選定する際の法令遵守状況の考慮、働き方改革に取り組む物流事業者の活用 |
D.安全の確保 | 荷役作業時の安全対策、異常気象時等の運行の中止・中断等 |
E.その他 | 宅配便の再配達の削減への協力、協力引越時期の分散への協力他 |
F.独自の取組 | 独自の取組 |
ホワイト物流の公式サイトから、自主行動宣言の様式をダウンロードして記入したら、規定のフォームにアップロードして提出します。記入例もダウンロード可能で、わからない部分はそれを参考にしながら作成できます。
ホワイト物流推進運動は、トラック運転者の時間外労働における上限規制が導入される2024年4月1日までの実施予定とされていましたが 、自主行動宣言の提出自体は2024年8月現在も可能です。また、2024年3月15日までに賛同した企業の情報も閲覧可能となっています。
物流現場で発生していた諸問題に対してさまざまなアプローチを試みた結果、改善が見込め、ホワイト物流を実現できた成功例があります。
ここでは、日本各地でホワイト物流への取り組みに成功した事例を3つ紹介します。
参考:公益社団法人全日本トラック協会「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン事例集」
紙袋で梱包した米製品などを販売する荷主A社は、一部の各引き取り先において、JAのパレットから自社のパレットへ積み替える作業をドライバーの手作業で行なっていました。
また、トラックが満載の際にパレットだけを運ぶトラックを走らせることになる、パレット管理の難しさからパレットを紛失するおそれがあるなど 、回送・管理に問題を抱えていました。
そこで、引き取り先のパレットを借り入れられるように要望するとともに、発泡スチロールのワンウェイパレットも利用するように変更。
パレットの借り入れを実施した結果、20分ほど荷役時間を短縮できました。ワンウェイパレットを利用した輸送では回送の手間がなくなった分、効率的に業務を進められるようになりました。
鋼材加工メーカーの発荷主B社では出荷の荷造りを生産完了順に行なっており、荷造りが終わっていないために荷受けに来たトラックに待機時間が生じるケースがありました。また、トラックが周辺道路で待機して、近隣からの苦情が出ることもありました。
そこでB社は、出荷の効率化と近隣からの苦情に対処するために生産・発送工程を見直し、場合によっては先行納品で対応できるように着荷主C社にも依頼。結果的に、出荷の遅れと荷待ち時間の解消を実現でき、ドライバーの休息時間も確保できるようになりました。
大手食品加工会社の物流子会社として自社内輸送を行なうK社には、3日かけて運行するルートがありました。いずれの運行でも、業務間の休息時間は10時間以上確保できており、改善基準告知を遵守した内容です。
ただし、ドライバーが自宅に帰れるのが出発から3日目となっており、ワークライフバランスの観点で負担軽減策を実施する必要がありました。
負担軽減策として、これまで出発地から目的地へ直行していたルートに中継地点としてトラックステーションを追加し、荷卸し作業は別の作業員に担当させるようにしました。この中継地点を活用することで、ドライバーは出発の翌日には帰宅できるようになり、拘束時間を大幅に減少できたといった成果が得られています。
ホワイト物流は新しい運動・概念であるため、疑問に感じる部分もあるでしょう。そこで、ホワイト物流に関するよくある質問と回答を紹介します。
ホワイト物流の実現には、いくつかの課題があります。
まず、従業員の労働時間やトラックの走行距離などを管理するためのシステム導入が必要になり、初期投資としてシステム導入費がかかります。さらに、労働環境の改善により、人件費が増加することも避けられないでしょう。これらの費用を捻出することは、多くの企業にとってハードルとなりかねません。
また、既存の業務フローや物流ネットワークの変更も求められるため、現場からの反対意見があがることや運用上の課題が発生することも考えられます。全体の効率化を図るには、荷主企業や物流事業者との連携が不可欠であり、スムーズに進めるための調整も必要です。
こうしたコストの管理と多方面からのアプローチが、ホワイト物流の実現に向けたおもな障壁となるでしょう。
ホワイト物流の推進に際して、国からの補助金・助成金はありませんが、自治体レベルでは熊本県 、鹿児島県 、鳥取県などで過去に交付された例があります。
また、ホワイト物流推進運動に賛同していると、国土交通省の「モーダルシフト等推進事業」の審査時に評価されるところもポイントです。
モーダルシフト等推進事業は、荷物を運ぶ際に発生するCO2の削減などを図る取り組みで、認可されると上限総額500万円、もしくは上限総額1,000万円の補助金を受け取れます。
関連記事▶2024年問題対策!モーダルシフトの概要やメリット、取り組み事例を解説
ホワイト物流推進運動に参加しなかったとしても、罰則はありません。
しかし、時間外労働の上限規制に関する猶予期間の終了にともない、2024年4月1日以降、トラックドライバーが働ける上限は年960時間となりました。 法令遵守は企業にとって当然の義務であり、特に労働環境の改善や安全対策に関する部分は重要です。
また、ホワイト物流推進運動への参加で得られる、労働環境の改善や生産性向上といったメリットを享受できないことは、企業にとっての機会損失となりかねません。
ホワイト物流推進運動への取り組みを通じて、企業は持続可能な経営を実現し、社会的責任を果たすことが期待されています。物流業界の現状を改善するためには、ホワイトな労働環境の実現が必須といえるでしょう。
本記事では、ホワイト物流の基本的な定義や推進するメリット、成功事例などを紹介しました。ホワイト物流は、物流業界の生産性向上と物流の効率化、労働環境の改善をするための取り組みです。
効率的な配送業務を実現し、社会的責任を果たすためには、ホワイト物流の推進が重要です。そのためには、労働環境の改善と効率化を目指し、社会全体で取り組む ことが求められます。
ホワイト物流の実現は、企業の競争力を高め、持続的な成長を可能にする重要なステップになるでしょう。
荷主から運送会社・ドライバーまで一気通貫につなげて効率化する