物流業界では、2024年問題や人手不足、EC市場の拡大により、「物流クライシス」と呼ばれる危機的な状況に陥ると言われています。特に、ドライバーの拘束時間規制から生じる2024年問題は、物流業界に大きな影響をもたらしています。
物流クライシスが発生すると、物流企業だけでなく荷主企業、消費者にさまざまな影響を及ぼします。本記事では、物流クライシスの原因と影響、具体的な対策を解説します。
物流クライシスとは、荷物の取扱量の増加に対応できず、今までのサービスレベルを維持できなくなる問題を指します。
物流業界では、2024年問題によりトラックドライバー不足が進んでいるため、キャパシティは限界を超える可能性が高いです。
また、物流クライシスは物流業界外にも影響を及ぼすと言われているため、物流クライシスの仕組みを理解することが重要です。
物流クライシスが発生する原因は以下の3つです。
・物流業界の人手不足
・2024年問題
・EC市場の拡大による荷物の取扱量の増加
物流業界では低賃金・長時間労働の問題から、トラックドライバーとバックオフィス両方の人材不足が発生しています。
物流業界の平均年収は450万円前後で、全業種平均の480万円と比較して若干低い程度です。しかし、物流業界の賃金は時間外労働で補っているのが現状です。また、重労働が多いため離職率は約10.5%と高い傾向にあります。
したがって、物流業界への若年層の参入が少ない点も問題です。
2024年問題とは、トラックドライバーの年間時間外労働の上限が960時間に定められるなど、労働時間が制限されることで起こる諸問題を指します。
厚生労働省の調査によると、トラックドライバーの年間労働時間は全業種の平均と比較して400時間程度長いため、労働環境の改善が急務です。しかし、トラックドライバーの労働時間が制限されることで取り扱う荷物の量が減り、消費者に荷物が届かない事態が懸念されます。
※参考:厚生労働省,建設業・ドライバー・医師の時間外労働の上限規制 特設サイト はたらきかたススメ
公益社団法人 全日本トラック協会,トラック運送業界の2024年問題について,p4
※関連記事:2024年問題で何が起きる?物流への影響や具体的な対策を解説
近年では、ネットショッピングの普及に伴い、宅配便など小口配送が増加しています。EC市場の拡大とともに、荷物量は今後も右肩上がりに増え続けることが見込まれます。
※参考:経済産業省,令和4年度 電子商取引に関する市場調査 報告書,p32
物流クライシスが荷主企業や物流企業、消費者に与える影響を説明します。
荷主企業への影響 | ・輸送コストの増加による売上減少 ・供給遅延と在庫不足の発生 ・サプライチェーンの寸断 |
物流企業への影響 | ・業務負荷の増大 ・サービスレベルの低下 ・生産性・収益性の低下 |
消費者への影響 | ・商品の価格上昇 ・商品供給の遅れや欠品 ・サービス品質の低下 |
荷主企業への影響は以下のとおりです。
輸送力が不足することで運賃が上昇し、物流コストが増加し、売上の減少につながる可能性が高いです。
輸送の遅延や混乱によって原材料や商品の供給が滞り、生産ラインの停止や在庫不足が発生する可能性があります。
製造業や小売業のサプライチェーンが寸断されると、商品の供給体制が不安定になります。特にグローバルサプライチェーンを持つ企業では、海外からの部品供給が途絶えるリスクはより高まります。
物流企業への影響は以下のとおりです。
ドライバー不足や規制強化により、限られた人員で多くの業務をこなさなければならなくなり、オペレーションの効率が低下します。これにより、従業員の負担が増し、労働環境がさらに悪化する可能性があります。
輸送の遅延やコストの増加によりサービスレベルを維持することが難しくなると、荷主企業からの信頼を失い、契約を失うリスクが発生します。
労働力の確保やコスト増加に対応するための投資が必要となり、収益性が低下する可能性があります。加えて、労働環境改善や新技術導入のためのコストが負担となることもあるでしょう。
また、物流クライシスは物流業界のみならず、多種多様な業種の生産性の低下に影響するおそれがあります。配送が滞ることで製品の製造に支障をもたらすこともあるためです。
消費者への影響は以下のとおりです。
物流コストの増加は最終的に商品の価格に転嫁されます。特に、食品や日用品など、物流に依存する商品では価格上昇が顕著になるでしょう。
物流の停滞により、商品が店舗に届かない、またはオンライン注文品の配送が遅れるなど、供給不足や欠品が発生するおそれがあります。
現在使用している生活必需品にまで影響が及ぶ可能性もあります。
トラックドライバーの人手不足により、配送時間の指定や再配達などのサービスが維持できなくなる可能性があります。特に、ECサイトの即日配送や翌日配送の遅延は顧客満足度を大きく損なう要因となりえます。
国土交通省によると、物流クライシスの対策を講じなければ2024年度には14%、2030年度には34%の輸送力が不足すると指摘されています。荷主と物流企業は物流クライシスについて中長期的に考える必要があるでしょう。
ここでは、物流クライシスへの具体的な対策について解説をします。
帰り便(配送後の帰り道に荷物を運ぶ)、中継輸送の導入などトラックを有効に活用すれば、大幅な労働時間の短縮が見込まれるでしょう。人員不足の物流企業にとっては業務効率化も可能です。
賃金の適正化や職場環境の整備など待遇改善を行い、ドライバーを確保することが重要です。
トラックドライバーの年収は平均より低い傾向にあり、時間外労働によってカバーしてきた部分も大きいと言われています。時間外労働の上限規制によって離職率が上がらないよう、固定給の賃上げなどを検討しましょう。
従来、物流業界はアナログで伝票や梱包サイズを決定するなど、人力による対応が多くありました。労働時間を削減するためには、既存の輸送システムを見直すことが必要です。
具体的には、フィジカルインターネット(AIやIoTを活用して効率的な配送を行うこと)、共同輸送(トラックや貨物を荷主や物流企業で共有すること)などが有効でしょう。
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ドローンによる配送は、人手不足を補える、交通渋滞を避けて配送できる、山間部など配送が難しい地域に対応できるなどのメリットがあり、研究開発が進められています。
しかし、操縦士が必要となることや法律上の規制など、課題もあります。
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物流ロボットの活用は人材不足の解消だけでなく、求人広告費や従業員の教育コストを抑えることも可能です。物流ロボットは24時間365日稼働可能なため、生産性を大幅に向上させてくれるでしょう。
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荷物の積卸し作業では、バラ積みではなくパレットやカゴ車を使用することで作業を効率化し、荷役作業時間を短縮することができます。ドライバーの負担は減りますが、荷主と物流企業を巻き込む必要があるため、大幅な改善になるでしょう。
EC市場では「配送料無料」という認識が広まっていますが、2024年問題の影響などで人材の確保は難しくなっています。そのためには配送料の値上げは避けられません。
また、人材確保には賃上げが必要ですが、問題は物流業界は中小企業が多いことです。受注減の影響を考慮すると、人件費を配送料に転嫁することは難しいでしょう。
したがって、賃上げのためには物流業界全体で連携することが必要です。
荷主としても、適正な運賃への見直しに協力することが欠かせません。荷主企業と物流企業で契約内容を適正化し、荷待ち時間や不公平な取引条件の改善に努めることが必要です。
物流クライシスが発生すると、物流企業だけでなく荷主企業、消費者にさまざまな影響を及ぼす可能性があり、無視することはできません。物流クライシスを解決していくためには、物流企業と荷主企業が協力する姿勢が大切です。