サプライチェーンリスクは、業務運営において避けられない課題の1つです。自然災害やサイバー攻撃などがサプライチェーンに影響を及ぼし、供給の遅延や停止といった深刻な事態を引き起こすことがあります。
しかし、リスクへの対策を講じることで、影響を最小限に抑えることが可能です。そこで本記事では、サプライチェーンリスクの発生要因や具体的な対策方法について解説します。
サプライチェーンリスクとは、製品やサービスが消費者に届けられるまでに発生し得るさまざまなリスクの総称です。従来は、自然災害やサプライヤーのトラブルにより供給が一時的に止まるといった「物理的なリスク」が主な懸念とされていました。
しかし近年では、サイバー攻撃や情報漏洩といった「情報セキュリティリスク」が大きな課題です。多くの企業がネットワークを活用してサプライチェーンを管理する現代では、関連企業のセキュリティ対策が不十分だと、サイバー攻撃の標的になる可能性があります。結果、自社も被害を受けるリスクが高まっています。
以下では、サプライチェーンにおける4つのリスクと要因について説明します。
環境的リスクとは、サプライチェーンに自然環境や気候変動が及ぼすリスクのことです。具体的には、地震や台風、洪水などの自然災害や、パンデミックのような大規模な健康危機が該当します。
環境的リスクは、工場の稼働停止や物流の遅延を引き起こし、供給網全体に深刻な影響を与える要因です。
経済的リスクとは、需要の急変や原材料の価格変動、労働力不足など、経済状況の変化によりサプライチェーンが影響を受けるリスクのことです。
例えば需要ショックによる急な需要増減や原材料価格の急激な上昇は、供給プロセスに大きな影響を与えます。また、国際的な投資規制や関税の変更、労働力不足は、サプライチェーン全体の効率を低下させる要因です。
技術的リスクとは、サプライチェーンに関連する技術やシステムの問題によって引き起こされるリスクのことです。サイバー攻撃による情報漏洩やランサムウェアの脅威、輸送インフラの障害やシステムダウンなどが含まれます。
特にネットワークに接続されたサプライチェーンは、サイバー攻撃の標的になりやすいです。セキュリティ対策が不十分な取引先やサプライヤーを介した攻撃がリスクを増大させます。
※参考:経済産業省,通商白書2021 第2部 第1章 第2節 サプライチェーンリスクと危機からの復旧
サプライチェーンリスクがいつ発生しても被害を最小限に抑えられるよう、日頃から対策を講じることが重要です。
ここでは、サプライチェーンリスクを軽減するための対策を紹介します。
サプライチェーンリスクマネジメントとは、リスクを予測・評価し、発生時の影響を最小限に抑えるためのプロセスを整備することです。
具体的には、以下のステップで進めます。
<具体的なステップ>
・サプライチェーンの現状把握
・リスクの特定と評価
・リスクの優先順位付けと対策の策定
・リスク軽減策の実行
・定期的な対策の訓練と評価
サプライチェーンリスクマネジメントによって、リスク発生時の被害を最小限に抑え、供給の安定性を維持できます。契約書にリスク想定を盛り込むことも、リスク管理を強化する方法の1つです。
BCP(事業継続計画)とは、企業が災害や事故などの緊急事態に直面した際、重要業務を継続し、迅速な復旧を図るための具体的な計画のことです。策定には、業務の優先順位の分析・リスクの明確化・発動基準の設定・社内共有・訓練と評価といった段階が必要です。
BCPの導入により、サプライチェーンが一時的に寸断される状況でも早期復旧が可能となり、被害を最小限に抑えられます。
それぞれのリスクへの具体的な対策は以下の通りです。
リスク | 要因 | 対策 |
環境的リスク | 自然災害、気候変動、パンデミック | ・供給ルートの多様化と分散調達 ・在庫の適正管理 ・災害発生時の早期警戒や被害予測をするため、 IoTセンサーやGIS(地理情報システム)などのデジタルツールを活用する |
地政学的リスク | 紛争、政治的不安定、貿易規制、テロ | ・供給ルートの多様化と分散調達 ・各地域のリスク情報をリアルタイムで把握するため、サプライチェーン可視化ツール(SCV)などのデジタルツールを活用する |
経済的リスク | 需要ショック、商品価格の変動、投資規制、労働力不足 | ・供給ルートの多様化と分散調達 ・在庫の適正管理 ・リアルタイムの需要予測のため、AIとビッグデータ分析ツールなどのデジタルツールを活用する |
技術的リスク | サイバー攻撃、情報通信途絶、輸送インフラ不全 | ・在庫の適正管理 ・サプライチェーン全体のデータ保護とサイバー攻撃へ対処するため、セキュリティツールなどのデジタルツールを活用する |
供給ルートの多様化と分散調達とは、製品やサービスのために必要な原材料や部品を複数の供給元から調達することです。この対策により、1つのサプライヤーに依存することで供給が途絶するリスクを分散できます。
時には、自然災害や政治的混乱により、特定の供給元からの調達が困難になることがあるでしょう。このような場合でも、他のサプライヤーからの調達を行うことで、サプライチェーンの安定性を維持できます。
在庫の適正管理は、在庫を適正な水準に保ち、欠品や過剰在庫を防ぐことを目指す対策です。適正な在庫量を確保することで、欠品や過剰在庫のリスクを抑え、取引先のトラブルや需要の急変にも柔軟に対応しやすくなります。
デジタルツールの活用は、サプライチェーンリスクの軽減に効果的です。
具体的には、ERP(基幹システム)やSCM(サプライチェーンマネジメントシステム」)を導入し、業務全体を一元管理することで、在庫状況や生産能力を把握しやすくなります。需要予測をリアルタイムで行えるため、供給の遅延や過剰在庫のリスクを抑えられます。
さらに、IoTやAIなどの最新技術を取り入れることで、サプライチェーンの透明性と効率性が向上し、リスクへの迅速な対応が可能になります。
サプライチェーンリスクは、企業の供給体制やビジネス運営に深刻な影響を与える可能性があります。自然災害・地政学的問題・経済的リスク・技術的脅威など、リスクの種類は多岐にわたり、どれも軽視できません。
適切な対策を講じることでリスクの影響を最小限に抑え、事業継続性を高めることが可能です。サプライチェーンリスクの軽減に向けて、BCPの策定や在庫管理の最適化、デジタルツールの活用といった対策を実行することで、リスクに対する準備を万全にしましょう。