物流業界ではドライバー不足が深刻化しており、特にバースでの待機時間削減が重要な課題となっています。荷主企業や倉庫事業者にとって、バースの運用を最適化することは、待機時間の短縮や配送遅延の防止、コスト削減につながるでしょう。
本記事では、物流におけるバースの基本的な役割と効率化のための方法を詳しく解説します。
本章では、バースの意味、ヤードとの違い、バースの種類について詳しく解説します。
バースとは、トラックが荷物の積卸しを行うためのスペースを指し、トラックバースとも呼ばれています。この言葉は、船舶が停泊し荷物を積卸しする場所「バース(Berth)」から来ています。バースは物流施設の効率的運用には欠かせない存在で、作業スピードの向上や待機時間削減の鍵と言えるでしょう。
物流センターや倉庫に設置されることが多く、効率的な作業のため入荷用と出荷用のバースを分けているところもあります。
バースと似た言葉でヤードという言葉がありますが、意味が異なります。
トラックヤードはトラックバースを含む敷地全体を指し、荷物の積み替えや保管を行うエリアを示します。ヤードは主に、商業施設や物流センターに設置されます。
一方、トラックバースはその中のトラック専用スペースを指し、トラックが荷物の積卸しのために接近できる場所のことです。
バースには、高床と低床の2つの形式があり、それぞれ異なる用途や特徴があります。
高床バースは、トラックの荷台と同じ高さに倉庫の床を設計しているため、積卸し作業がスムーズに行える点が特徴です。床が地面から高いため、ほこりや湿気が入りにくく、食品や精密機器などデリケートな商品の保管に適しています。そのため主に食品、家具、家電などの配送センターに多く利用されています。ただし、トラックを倉庫内に駐車することはできません。
低床バースは地面と同じ高さに倉庫の床があるため、トラックやフォークリフトの出入りがしやすく、車両の出入りが頻繁にある倉庫に適しています。主に運送業や配送業で利用され、特にEC物流センターでの採用が増加しています。トラックを倉庫内に停めたまま積卸しが可能なため、悪天候でも荷物が濡れにくい特徴があります。ただし大雨や洪水時に浸水リスクがあるため、特に低地では対策が必要です。
バースは、トラックが迅速かつ安全に積卸し作業を行える拠点であり、その役割は以下の通りです。
トラックが指定の場所で荷物の積卸しを行うことで、効率的な配送が実現します。バースを活用すると物流のスピードが保たれ、後工程へのスムーズな流れが確保できます。
バースの位置や誘導システムを適切に管理することで、施設内での渋滞や混雑を回避できます。特に、トラックの待機場所や順序を明確にすることにより物流施設内の交通をスムーズにし、効率的な作業環境を作り出します。
逆にバースを適切に管理できていないと、交通渋滞やトラック待機時間の発生につながってしまいます。国土交通省の調査(※)によると、1運行あたりの荷待ち時間は平均で1時間34分となっており、対策が必要な状況です。
※出典:国土交通省,トラック輸送状況の実態調査結果(概要版),p12
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バースでは、トラックと作業員の動線をしっかり分けることで事故を防止し、安全な作業環境を確保することができます。また、車両が適切に誘導されることで作業者の安全性が向上し、荷役作業の効率も高まります。
荷待ち時間などが発生している場合、バース活用の効率化を検討する必要があります。
以下に、物流倉庫におけるバース効率化の方法を解説します。
トラック予約システムを導入し、トラックの到着時間を事前に調整します。その結果、バースでの待機時間が短縮され、積卸し作業をスムーズに行えるようになります。このシステムを活用するとドライバーの待機時間削減にもつながり、配車効率が向上します。
倉庫管理システム(WMS)などのシステムを導入することで、入出庫作業がスムーズとなり、バースでの作業効率向上が期待できます。
自動化技術の一例として、フォークリフトの自動化が挙げられます。トヨタL&Fが開発した「トラック荷役対応 自動運転フォークリフト」は、AIや3D-LiDAR技術を活用し、トラック位置や荷姿の自動認識が可能です。実証試験では、有人作業の約5倍かかっていた作業時間を約2倍まで短縮し、自動運転・荷役における要素技術の目途付けを完了しました。
※参考:株式会社豊田自動織機,トヨタL&F トラックへの荷役に対応した自動運転フォークリフトを開発
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作業フローを標準化することにより、バースでの安全性や作業効率向上が期待できます。また、各プロセスでの動線を整えることで作業者間の混乱を防ぎ、ミスの発生率を低減できます。
入荷トラックと出荷トラックを明確に分けることで、混雑を避け、効率的に積卸しできるようになります。特に、入荷と出荷の時間帯を分散させることができれば、施設全体の稼働率が向上し、バース利用の回転率も改善が期待できます。
荷物の積卸しにパレットを利用することで、効率的な作業が可能となります。フォークリフトによるパレット搬送は手作業による積卸しに比べて時間短縮でき、作業の負担も軽減されます。さらに、パレットを標準化できれば荷役作業の一貫性も保たれます。
物流業務のペーパーレス化のため帳票類を電子データでやりとりすることになると、紙の帳票を管理する手間も省けるため、作業の効率化につながります。また、ドライバーや管理者との情報共有がリアルタイムで行えるようになり、業務の正確性やスピードが向上します。
トラックの誘導にSMS(ショートメール)を活用することで、トラックドライバーへの案内をスムーズに行えるようになります。到着予定のトラックに空いているバースや最適な誘導先をSMSでリアルタイムに伝達すれば、待機時間を減らし、施設内の交通を効率的にコントロール可能です。
ピッキング作業とバース作業を連携させることで、全体の作業効率が向上します。例えば、ピッキングが完了したタイミングでバースの準備が整っていると積込がスムーズに進み、トラックの待機時間が削減されます。さらに、ピッキングの進捗をリアルタイムで共有するシステムを導入すれば、バース作業員が次に必要な準備を事前に把握でき、無駄のない動きが可能となります。
本章では、バース予約システムが有する主な機能について解説します。
受付機能とは、受付にタブレットやPCを設置し、ドライバーに受付処理を行ってもらう機能です。そのほか、受付画面には次のような情報を表示できます。
・待機時間
・待ち時間
・ドライバーに対する伝達事項(アルコールチェックや構内ルール案内など)
また、ドライバーの情報や入出庫製品情報の入力をはじめ、各項目の入力形式や入力項目のカスタマイズができるシステムもあります。
バース管理とは、拠点の担当者がドライバーの受付情報や各バースの作業状況を確認し、バースを割り当てる機能です。
端末を複数利用することにより、事務所と倉庫など物理的に離れている場所でも、常に最新状況をリアルタイムで確認できます。
バース予約とは、倉庫側の担当者をはじめ、運送会社やドライバーが倉庫などの物流拠点に対して荷役の予約時間を登録する機能です。主な予約方法や概要は下記の通りです。
予約方法 | 予約者 | 概要 |
倉庫指定予約 | 倉庫側 | ・倉庫側で予約を登録し運送会社に対して時間を指定する。 ・倉庫側で予約登録を行うと、ドライバーや配車担当者へ通知される。 |
運送会社指定予約 | 運送会社の配車担当 | ・運送会社の配車担当者が、倉庫側から割り当てられた予約可能な時間やバースの枠内で予約を行う。 ・倉庫側の確定処理によりドライバーへ予約時間が通知される。 |
ドライバー指定予約 | ドライバー | ・ドライバーがスマートフォンなどから予約をリクエストする。 ・倉庫側の確定処理によりドライバーへ予約時間が通知される。 |
作業実績管理あるいはダッシュボードとは、さまざまなデータを管理し、自動的かつリアルタイムに集計する機能です。
集計されたデータはダッシュボード画面にグラフで可視化されるため、紙ベースやExcelなどの手作業で行っていた時間を削減できます。
また、CSVファイルでのダウンロードに対応したシステムであれば、他システムへの連携なども簡単に実現可能です。
ドライバー呼び出しとは、スマートフォンなどを利用してドライバーを簡単に呼び出せる機能です。この機能により、これまでは口頭あるいは電話で行っていたドライバー呼び出しを省力化できます。
主な通知方法としては、SMS、LINE、バース予約システムの専用アプリがあります。なお、SMSは1通の送信ごとに数円〜数10円が必要となるため、無料で通知ができるLINEや専用アプリがおすすめです。
スマートフォン受付とは、トラックに乗車したまま、スマートフォンから遠隔で受付ができる機能です。
トラックを降りて受付まで移動する必要がなくなるため、受付に関する作業時間を削減できます。特に以下のようなケースに有効です。
・倉庫の敷地が狭い
・トラックの待機所が遠い
・受付事務所が建物の上層階など移動に時間がかかる場所にある
・受付が混雑しやすい
なお、システムによっては、倉庫外であっても特定の半径内であれば受付可能なものもあります。
通知管理とは、自由にメッセージを通知できる機能です。
倉庫によっては独自ルールを設けているケースもありますが、緊急時はドライバーへの連絡にも効果的です。
なお、通知頻度が高いものはテンプレート機能を利用すると効率的に運用できます。
API連携を備えていれば、さらなる業務効率化やコスト削減を実現できます。バース予約システムが連携できる主なシステムや概要は次の通りです。
連携システム | 連携対象データ | 連携により実現できること |
WMS(Warehouse Management System/倉庫管理システム)連携 | ・荷ぞろえ状況 | ・商品や伝票の事前準備、タイムリーな荷渡し |
車番認証連携 | ・入退場ゲート | ・認証カメラによるナンバープレートの読み取りと照合 ・ゲート開閉やアラート点灯、電光掲示板へのメッセージ切り替えなど |
TMS(Transport Management System/輸配送管理システム)連携 | ・配車計画 | ・TMSで作成した配車計画をもとにバース予約情報を自動作成 ・バース予約システムに蓄積された実績データをTMSへ連携することにより、配車計画を精緻化 |
動態管理連携 | ・位置情報 | ・GPS情報の連携により、予め設定した範囲内に入ると自動受付を実行 ・予約時間に到着していないトラックが存在した場合、遅延アラートを通知する |
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バース予約システムにはさまざまなメリットがあります。本章ではバース予約システムの主なメリットを解説します。
バース予約システムの導入により、トラックの待機時間が短縮され混雑が緩和します。また、効率的な荷卸しや積込が可能となります。倉庫側は、トラックの到着時間を予め把握できるため、効率的な計画の策定が可能です。その結果、倉庫や物流センターの無駄な待機時間や作業を削減できるでしょう。
さらに各種システムとの連携により、バース予約の自動化や自動受付なども可能です。システム化や自動化が進めば、手作業による入力ミスや漏れも防止できます。
手作業やExcelによるデータ管理は、手間や時間がかかります。また、バースの予約状況などは状況把握が難しく、リアルタイムで確認できません。
バース予約システムを導入すれば、荷待ちや荷役時間をはじめとするさまざまなデータを一元的に管理可能です。現場の改善に必要なデータの管理・分析をリアルタイムで行えるため、迅速な状況把握や対策が可能となります。
バース予約システムの導入によって業務効率化やコスト削減が進めば、ドライバーの長時間労働を改善できたり、報酬アップの原資を創出したりすることが可能になります。競合他社より高待遇を実現できれば、社員の離職率は低下し、採用市場での人材獲得も有利になるでしょう。その結果、人材不足解消を期待できます。
トラックの待機時間が短縮されれば、CO2排出量も削減可能です。環境にかける負荷が低減するため、SDGs経営を推進できます。
ここでは、ハコベル社が提供するトラック予約受付システム『トラック簿』を活用して、バース効率化を実現した事例をご紹介します。
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作業服やアウトドア・スポーツウェアなどを開発・販売している株式会社ワークマンは、2018年3月期に560億8,300万円だった営業総収入が、2023年3月期 1,241億1,000万円と大幅にアップしています。同社の物流を支えている伊勢崎流通センターは、8年後の出荷量が現在の2倍に達すると予想されていました。
一方で低価格戦略を継続するには、簡単にコストを商品へ転嫁できないため、業務効率化や簡素化を進めなければならないという課題を抱えていたのです。
まずは業務を分析したところ、伊勢崎流通センターでは、ノートでトラックドライバーの受付を行っていることがわかりました。また、トラックドライバーの順番が来ると、流通センタ-担当者は構内のどこかにいるドライバーを探して伝えるというアナログな業務も行っていたと判明します。そのほか、バースが空いているにも関わらず見落としてしまうなど、さまざまな業務に効率低下の原因が潜んでいました。
この状況を打破すべく導入したのが、バース予約システムである「ハコベル トラック簿」です。「トラック簿」の導入により、同社はトラックの受付や接車バースの運用管理に関するデジタル化を実現しました。
導入後は効率的なスケジューリングが可能になり待機時間を削減できたため、物量が増加しているにも関わらず、以前は午後までずれこんでいた待機車両が、現在では午前中には解消するようになりました。さらに、流通センター担当者は管理画面からドライバーを呼び出せるようになったため、大幅な負担削減に成功しています。
また、蓄積したデータにより待機原因の特定がしやすくなり、運送会社との適正な運賃維持にも寄与しています。
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ダイキン工業株式会社は、ドライバーの待機時間削減を目的としてExcelによる予約運用を始めましたが、運送会社とのやりとりや集計業務に多大な時間を要していました。また、待機時間や作業時間について正確な時間を収集できないという課題も存在していました。
バース予約システム導入後、トラックは予約時間を目指して入場するとともに、SMSによるスムーズな呼び出しにより、ドライバーの98%が予約時間までの待機時間を30分未満へ短縮することに成功します。また、紙の受付簿からExcelに打ち込み加工していた時間など、倉庫内の工数削減を達成し、さまざまな効果を得たと言えるでしょう。
バースの役割や効率化方法を見直すことにより、荷待ち時間の削減や配送の問題解決につながります。トラック予約システムや自動化技術の導入など、自社に合わせたバース効率化方法を取り入れることで、業務効率化が期待できるでしょう。
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