近年物流のデジタル化が推進されており、業務効率化やコスト削減を目的として、SaaS(Software as a Service)の導入が加速してきました。具体的には、WMS(倉庫管理システム)やTMS(輸送管理システム)、OMS(受注管理システム)などです。
荷主企業は複雑化するサプライチェーンや多様化する顧客ニーズに迅速かつ柔軟に対応する必要があり、SaaSはこのような課題を解決する手段として期待されています。
本記事ではSaaSの意味や代表的なサービス事例、選定時のポイントを解説します。
まず、物流SaaSの意味について解説します。
SaaS(Software as a Service)は、ソフトウェアをクラウド経由で提供するサービス形態です。利用者は、インターネット環境さえあれば特定の端末や設備に依存せずにアクセスできます。オンプレミス型ソフトウェアとは異なり初期費用を抑えられる場合が多く、最新の機能を自動的に利用できることが大きな利点と言えるでしょう。これにより、企業は設備投資を最小限に抑えながら迅速に新しいシステムを導入できます。
※オンプレミス型ソフトウェア:自社内のサーバーやデータセンターにソフトウェアをインストールして運用するタイプ(プライベートクラウドとして構築される場合もあります)。
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物流分野に特化したSaaSには、主に以下3つがあります。
倉庫内での入出庫管理、在庫管理、ピッキング作業の効率化を実現するシステムです。多品種少量生産が進む中、在庫の適正化やスペースの有効活用が求められる現場に欠かせないツールとなっています。
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輸送計画の立案、配車管理、輸送状況の追跡を可能にするシステムです。リアルタイムでのデータ共有により、輸送コストの削減や配送効率の向上を支援します。
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受注から出荷までのプロセスを一元管理するシステムです。EC市場など複数チャネルからの注文を効率的に処理する必要性がある場合に活用されます。
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これらのシステムは、倉庫管理や輸配送管理にとどまらず、サプライチェーン全体の最適化に活用されます。例えば、WMSとTMSを連携させることで倉庫内の出庫情報をもとに輸送計画をリアルタイムで更新できます。さらに、OMSを加えれば受注情報に基づいた在庫管理や出荷指示の自動化が可能となり、業務全体の効率化につながるでしょう。
冒頭のオンプレミス型ソフトウェアとの比較で、SaaSのメリットについて少し触れましたが、以下では物流SaaSを導入するメリットを詳しく解説します。
SaaSはクラウド上で提供されるため、自社でサーバーや専用設備を用意する必要がありません。これにより、ハードウェアの導入コストや保守費用を削減できます。特に中小企業にとって、低コストで高度なシステムを利用できる点は大きな魅力です。
オンプレミス型のシステムと異なり、SaaSはインターネット環境さえあればすぐに利用を開始できます。開発やカスタマイズの手間が少なく、短期間で業務に組み込めるため、DX推進に役立ちます。
SaaSでは、提供会社がシステムのアップデートやセキュリティ対策を実施します。自社でのメンテナンス作業が不要なため、IT担当者の負担を軽減できます。
企業の成長に応じて、必要な機能を簡単に追加・変更できる点もSaaSのメリットです。事業拡大や業務プロセスの変更にスムーズに対応し、無駄な投資を抑えながら最適なシステムを維持できます。
多くのSaaSは、ERP(企業資源計画)やCRM(顧客関係管理)とのAPI連携が可能です。データの一元管理が実現し、手入力によるミスや業務の重複を防げます。
SaaSはクラウド上で動作するため、場所を選ばずにアクセスが可能です。配車管理や倉庫管理など、物流業務においてもリモート対応がしやすくなり、業務の効率化と働き方の柔軟性向上に貢献します。
SaaSの多くはリアルタイムでのデータ更新や分析機能を備えており、物流の進捗状況や在庫管理を瞬時に確認できます。これにより、迅速な意思決定が可能となり、業務の最適化につながります。
ハコベルでも物流業務のデジタル化と効率化を支援するSaaSソリューションを提供しています。
以下に主なサービス内容を紹介します。
AIによる最適化計算により、誰でも短時間で効率的な配車計画を作成できます。属人化を解消し、物流コスト削減や業務の標準化、生産性向上を実現します。
協力会社のトラック手配や配車業務を一元管理し、配車依頼、運行管理、請求支払までを効率化します。法改正にも対応可能です。
ドライバーアプリで車両の位置情報や到着予測を管理できます。トラッキングや遅延検知により荷主と運送会社がリアルタイムで状況を把握でき、運行効率が向上します。
トラックの予約受付やバース管理を効率化し、荷待ち時間の削減や業務の標準化を実現します。
※参考:ハコベル,物流DXシステム
山田化学株式会社は、ハコベル配車管理を2024年2月に導入し、トラックの荷待ち・荷役時間ゼロ、社員の残業時間削減といった成果を実現しました。
チャーター便の手配状況が共有されず、トラックの到着時間や荷役条件が不明確でした。手配担当者は1日中電話対応に追われていたため、生産・在庫管理に時間を割けず、物流課もトラックの入場時間を把握できずに作業の優先順位を決めにくい状況でした。
ハコベル配車管理の導入により、以下が実現しました。
・誤出荷や積み忘れが、導入後 3ヶ月で2〜3件削減
・電話対応の回数が1日60本から10本以下へと約80%削減
・業務フローが効率化されたことによる社員の残業時間の削減
・配車の最適化によるトラックの荷待ち・荷役時間の削減
このように、ハコベルの物流SaaSを活用することで、配車管理の効率化やリアルタイムデータの共有化が実現し、業務負担の軽減につながります。
※出典:ハコベル,配車から出荷、運送会社までシームレスに連携し、荷待ち・荷役時間ゼロ&残業削減を実現 「ドライバーから選んでもらえる荷主になるための足掛かりをつかめた」山田化学株式会社
物流SaaSを選定する際には、以下の点を考慮する必要があります。
予算に見合ったツールを選ぶため費用対効果を十分に検討し、長期的な運用を見据えた選定を心掛けましょう。
中小規模の事業者向けか、大規模事業者向けかを見極める必要があります。
既存のERP(企業資源計画)やCRM(顧客関係管理)とスムーズに連携できるかを確認しましょう。
データの機密性を守るため、堅牢なセキュリティ対策が実施されているかどうかを確認します。
導入後のトラブル対応や技術的な支援がしっかりと整備されているかを事前に確認することが大切です。
物流SaaSの導入は、サプライチェーン全体の効率化や競争力の強化につながります。物流業務に特化したWMS、TMS、OMSを活用することで、在庫管理や輸配送計画、受注管理といった複雑なプロセスを自動化・最適化できます。費用対効果やシステム連携性など、この記事で紹介した選定時のポイントを考慮することで、適切なツールを選定することができるでしょう。