2024年4月、「物流総合効率化法」及び「貨物自動車運送事業法」(物流関連二法)が改正されました。物流関連二法は荷主や物流事業者などに規制的措置を講じるものであり、遵守すべき義務や罰則規定も設けられています。
この物流関連二法の改正の背景には「物流2024年問題」の存在が指摘されますが、その根源は1990年の「貨物自動車運送事業法」及び「貨物運送取扱事業法」((旧)物流二法)にまで遡ります。(旧)物流二法による規制緩和の弊害という歴史的経緯を知ることで、物流関連二法の制定に至る背景を理解できるでしょう。
本記事では物流関連二法の概要と改定のポイント、及び法改正に至る歴史的経緯について解説します。
まず、物流関連二法とはどのような法律でしょうか?本章では物流関連二法の概要について説明します。
物効法とも呼ばれる「物流総合効率化法」の2024年4月の法改正前の名称は「流通業務総合効率化法(正式名称:流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律)」です。「我が国産業の国際競争力の強化」など4つの目的を掲げ、総合効率化計画の認定と事業の促進を対象としていました。
※出典:国土交通省,物流総合効率化法(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律)の概要
2024年4月の法改正では、目的に「必要な員数の運転者の確保に支障が生じつつある」という問題意識を反映し、荷主・物流事業者に対する規制的措置を明記しました。それに伴い「運転者の運送及び荷役等の効率化」に関する規定も追加されています。
法改正にあたり、「流通業務総合効率化法」から「物流総合効率化法」に改称されました。
なお、「物流総合効率化法」は、2025年から「物資流通効率化法(正式名称:物資の流通の効率化に関する法律)に名称が変わります。
※参考:e-Gov,流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律
「貨物自動車運送事業法」とは、以下を目的とした法律です。
①貨物自動車運送事業の適正かつ合理的な運営
②輸送の安全の確保
③貨物自動車運送事業の健全な発展
その条文においては、貨物自動車運送事業の定義や事業運営の許可、輸送の安全の確保に必要な措置に関する規定などが定められています。「荷主の配慮義務」や「荷主勧告」に関しても規定されており、荷主としても理解しておくべき法律です。
2024年4月に改正された物流関連二法では、荷主・物流事業者への強力な規制的措置が講じられました。本章では荷主・物流事業者が把握しておくべき改正のポイントを解説します。
荷主・物流事業者に対して、物流効率化に向けて取り組むべき措置と努力義務を定めており、その詳細は国の策定する判断基準に基づきます。併せて、当該判断基準に基づき国が指導・助言、調査・公表を実施するとされました。
また、一定以上の規模の事業者(特定事業者)には「中長期計画の作成」や「定期報告等」を義務付けており、中長期計画に基づく取り組みの実施状況が不十分な場合、国が勧告・命令を行います。なお、特定事業者のうち荷主には「物流統括管理者の選任」が義務付けられています。
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荷主・物流事業者に対して、下請事業者への発注の適正化に関する努力義務が課されました。併せて、運送契約を締結する際に提供する役務の内容や附帯作業などの対価を記載した書面の交付を義務付けています。
また、元請事業者に対しては実運送事業者の名称や下請次数などを記載した「実運送体制管理簿」の作成、そして一定規模以上の事業者(特定事業者)に対しては発注適正化に関する管理規程の作成や管理者の選任が義務付けています。
他に軽トラック事業者への規制的措置も設けられ、「安全管理者選任と講習受講」や「国土交通大臣への事故報告」が義務付けられました。
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全ての荷主は、物流関連二法で定められた努力義務及び義務を継続的に履行する体制づくりが必要となります。義務を履行できない場合、勧告・命令などの行政処分、または罰金刑が科される可能性があります。
また、物流総合効率化法における特定事業者に該当する場合、物流統括管理者には「事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者」が求められますので、自社の役員に就任を依頼する必要もあるでしょう。
なお、2024年11月現在、努力義務に関する判断基準の詳細や法的義務の施行日時は決定されていないため、政府の発表を待つ必要があります。
※出典:国土交通省,改正物流効率化法を踏まえた取組状況について
「物流2024年問題」は、運送会社とドライバーの苦境を受けた政府の規制強化が契機となっています。では、運送会社とドライバーの苦境はどのような経緯で生じたのでしょうか?
この政府の規制強化の流れを説明するためには、1990年の(旧)物流二法の施行に遡る必要があります。ここでは、(旧)物流二法の施行から現在に至るまでの経緯を解説します。
従来、戦後の物流行政の基本は産業の保護育成を目的とした「需給調整」でした。
ところが、1980年代後半には政府の行財政改革の一環として物流業界における規制緩和が議論され、1990年(平成2年)には「経済的規制の緩和」と「社会的規制の強化」を特徴とする(旧)物流二法が施行されました。
※参考:国土交通省,貨物自動車運送のあり方,p11~
2003年(平成15年)には当時の政府の規制緩和の方針に沿い、「貨物自動車運送事業法」の更なる規制緩和措置が取られます。
また、「貨物運送取扱事業法」は「貨物利用運送事業法」に名称が変更され、こちらも参入規制や運賃・料金規制の緩和・撤廃が図られました。
ただし「社会的規制」は一貫して強化されたと言えます。例えば輸送の安全の確保や法令違反時の行政処分の強化など、事後チェックの仕組みの整備などが挙げられます。
※出典:公益社団法人全日本トラック協会,「日本のトラック輸送産業 現状と課題 2023」,p12
(旧)物流二法による規制緩和の結果、運送会社数が急増し、競争が激化しました。特に小規模の運送会社は荷主に対する交渉力が弱いことが多く、政府による対荷主交渉力のテコ入れが図られます。
また、経営環境の悪化に伴い、ドライバーの賃金水準の低下や荷主による附帯作業の押し付けなどが深刻化し、ドライバーの負担が増加しました。社会的に「働き方改革」の機運が高まる中、宅配クライシスも発生し、長時間労働の是正に注目が集まります。
このような状況は物流体制の非効率性を放置する荷主に原因があると考えられ、対荷主規制の強化が図られました。
象徴的な例として、貨物自動車運送事業法における「荷主勧告制度」の強化が挙げられます。特に2018年(平成30年)の法改正では「荷主対策の深度化」が掲げられ、荷主の配慮義務の新設とともに「荷主勧告制度」において段階的な法的措置の強化が規定されました。
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ただし、規制の再強化以降もドライバーの労働環境はあまり改善されませんでした。
そのような中、「働き方改革」による時間外労働の上限規制が2024年(令和6年)4月から適用され、運べないリスクが顕在化しました(=「物流2024年問題」の誕生)。
2023年(令和5年)には「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」が開催され、政府の強い行動姿勢が示されます。その具体的な政策措置として物流関連二法が改正されたという経緯になります。
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本記事では物流関連二法の概要と改定のポイント、及び法改正に至る歴史的経緯を解説しました。
物流関連二法では物流関係者に対する努力義務や義務に関して多くのことが定められましたが、その背景には過去の規制緩和の弊害の是正という政策的意図があります。
荷主はそのような歴史的経緯を理解し、政策の方向性に沿った対応策を考えていく必要があると言えるでしょう。