「物流2024年問題」に関して盛んに報じられるようになった物流規制の強化。荷主に対する規制の代表例としては「荷主勧告制度」が挙げられます。すでに荷主の行動に対して政府介入のプロセスの整備と実効性の確保が図られてきました。
それゆえ、荷主は「荷主勧告制度」における行政措置の適用条件や具体的な内容、その影響などを理解しておく必要があります。同時に「業務プロセスの改革」と「法令遵守体制の整備」などの対策が求められます。
本記事では歴史的に強化された「荷主勧告制度」の経緯や直近の動向に加え、罰則の条件と影響、望ましい対策などを解説します。
なお、「物流2024年問題」に関する説明は関連記事をご参照ください。
1990年代以降、物流政策は規制緩和を前提としてきましたが、過当競争による労働環境の悪化という弊害が顕在化し、2010年代半ば以降、政府は規制強化に舵を切りました。
その過程で、ドライバーの労働環境の適正化に影響力を及ぼす荷主に対し、規制が強化されました。規制の代表例として「荷主勧告制度」が挙げられます。
本章では「荷主勧告制度」の概要を解説します。
「荷主勧告制度」とは貨物自動車運送事業法第64条にて規定されており、運送会社が行政処分等を受ける際に荷主が主体的に関与していたと認められる場合、再発防止を荷主に勧告する制度です。
これまで2014年、2018年、2023年に規制の厳格化を伴う改正が行われましたが、特に2018年の法改正では「荷主対策の深度化」という方針のもと、政府介入の強化が図られました。
「荷主対策の深度化」の要点は以下の国土交通省の資料のとおりです。運送会社の法令遵守に対する荷主の配慮の義務付けや荷主勧告の公表などが明記されています。
※出典:国土交通省,貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律(平成30年法律第96号)について
ここで、新設された③国土交通大臣による「働きかけ」規定により変更された「荷主勧告制度」のフローについて詳しく説明します。
このフローは(1)働きかけ(2)要請(3)勧告・公表の3ステップで構成され、段階的に荷主に対する法的措置の程度が強くなります(荷主への疑いに相当な理由がある場合は(1)が省略されることもあります)。また、各段階で独占禁止法違反の疑いがある場合は公正取引員会へ通知されます。
※出典:労務賞,取引環境適正のための荷主対策・連携,p11
このように「荷主勧告制度」では政府が荷主の法令遵守を強く促す仕組みが整備されています。
国土交通省は継続的に実効性の確保にも取り組んでいます
①2023年7月:悪質な荷主企業・元請事業者の監視を強化するために「トラックGメン」を創設
②2024年1月:荷主・元請の2社に対して初の荷主勧告&社名公開を実施
③2024年11月:トラックGメンを「トラック・物流Gメン」に改組
③では以下のような取り組みを行い、体制強化を図っています。
(1)倉庫業者からも情報収集を開始
(2)担当人員の増員と各都道府県トラック協会が新設する「Gメン調査員」の追加
他にも厚生労働省が「荷主特別対策チーム」を編成して、長時間の荷待ちの抑制を荷主に求めています。
※出典:国土交通省,トラックGメンを「トラック・物流Gメン」へ改組・拡充し、集中監視月間を実施します~倉庫業者からも情報収集するとともに、体制を拡充し総勢360名規模で対応~
関連記事▶2024年問題における荷主の責任とは?影響を避けるための3つの対策を解説
「荷主勧告制度」では段階的な法的措置が取られ、最終的な手段である「勧告・公表」では荷主名が公表されます。本章では荷主勧告制度の罰則の詳細と影響について説明します。
以下では荷主勧告の条件や「勧告・公表」を受けた場合のプロセスを説明します。
国土交通省は、以下のパンフレット資料で紹介される荷主の主体的な関与の4つの事例に基づき、調査を行います。その他、荷主が運送会社に対して違反行為を指示、強要などを行う場合も調査の対象です。
調査の結果、荷主の主体的な関与が確認されると荷主勧告を行います。
※出典:国土交通省他,荷主の皆様へ…トラック運送事業者の法令違反行為に荷主の関与が判明すると荷主名が公表されます!
国交省が荷主勧告を行う場合、違反内容に応じて個別具体的に再発防止に必要な内容が示された「荷主勧告書」を発出します。「荷主勧告書」は以下のようなフォーマットです。
併せて企業名や荷主勧告の内容などを公表します。過去3年以内に荷主勧告を発動していた場合は、過去3年以内のすべての荷主勧告の年月日と内容を公表します。
公表資料は国土交通省のホームページへの掲載や報道機関への提供などがなされ、社会一般に広く公表することも規定されています。
※出典:国土交通省,「荷主への勧告について」他
荷主勧告を受け、企業名や荷主勧告の内容が公表されると、社会的信用が低下します。また、信頼回復に向けた改善計画の提出と実行が求められます。
先述の2024年1月に実施された荷主勧告の事例では、多くの国民がアクセスするポータルサイトなどにもニュースが掲載され、荷主勧告を受けた企業は世間の厳しい批判にさらされました。
荷主勧告を受けた企業は自社HPに謝罪文を掲載すると同時に、国土交通省に対して改善計画を提出しています。今後については、国交省による継続的なフォローアップの実施や改善が図られない場合、更なる法的措置の実施などが予定されています。
※出典:
日本経済新聞,国交省、ヤマトなど初の是正勧告 長時間荷待ち強制疑い
国土交通省,王子マテリア株式会社に対する 「勧告」(概要)
荷主勧告を受け、社会的信用が低下する事態を回避するにはどのようなことが必要でしょうか?
本章では大きく「業務プロセスの改革」と「法令遵守体制の整備」に分けて、合計4つの必要な対策を紹介します。
荷主勧告が出される背景には、現在の運用方法と仕組みの問題があります。そのため「業務プロセスの改革」の視点が重要です。
「業務プロセスの改革」には以下の2つの対策が考えられます。
例えば、トラックの入場受付を先着順から予約制に変更すると、作業計画の目途が付けやすくなります。その結果、トラックの到着までに出荷準備を完了でき、トラックの長時間待機が削減されます。
トラックの入場受付の予約制を実装する措置として、「トラック予約/受付システム」の導入が考えられます。
荷主勧告を受けないためには、法令を遵守する姿勢を徹底し、なおかつ実効性を持たせる制度も必要です。
「法令遵守体制の整備」には以下の2つの対策が考えられます。
運送会社に発注する立場の従業員に対して、関連法令に関する社内教育を徹底するようにします。
内部統制の実効性を確かなものにするために、独立した組織による定期的な監査を実施します。監査結果をフィードバックし、法令遵守体制が維持されるように役立てることが重要です。
自社で対策立案が可能な人材が揃えられない場合、外部の専門家の力を借りるのも良いでしょう。
本記事では「荷主勧告制度」の経緯や直近の動向、罰則の条件や影響、望ましい対策などを解説しました。
近年では荷主に対する規制は強化される傾向にあり、法令違反時の影響は甚大です。荷主は「荷主勧告制度」をはじめとする規制的措置についてしっかり理解しておく必要があります。
荷主勧告を受ける事態を回避するためにも、「業務プロセスの改革」と「法令遵守体制の整備」などの対策を検討しましょう。