フィジカルインターネットとは何か?物流業界に革命を起こす次世代の物流システムを解説

フィジカルインターネットとは何か?物流業界に革命を起こす次世代の物流システムを解説

EC市場の拡大に伴い、物流の需要も年々増加しています。しかし、ドライバー不足などが影響し、需要と供給のバランスが保てなくなってきているのが現状です。経済産業省の調査によると、物流需要の取りこぼしにより、2030年には約7.5兆円〜10.2兆円の経済損失が発生すると予測されています。(※)

このような状況を改善する方法として、注目されているのが「フィジカルインターネット」の導入です。フィジカルインターネットを活用すれば、業務の効率化、稼働率の引き上げ、コストの削減、CO2の削減など、さまざまな効果が期待できます。増加する需要を取りこぼすことなく、最適なサービスを提供できるでしょう。

本記事では、フィジカルインターネットの基本的な定義、物流業界への効果、実現するための方法について解説します。

※出典:経済産業省,フィジカルインターネット・ロードマップを取りまとめました!

この記事でわかること

  • フィジカルインターネットの基礎知識

1. フィジカルインターネットとは

フィジカルインターネットとは、物流の配送や輸送を効率化するための新しい概念です。物流業務の効率や柔軟性を高め、物流業界の課題を解決する手段として注目されています。

フィジカルインターネットの概要

経済産業省の資料では「フィジカルインターネットとは、インターネット通信の考え方を、物流(フィジカル)に適用した新しい物流の仕組み」と定義されています。(※)

インターネット通信では、共有しているインターネット回線上で、データを「パケット」と呼ばれる単位に分割し、情報を交換しています。こうしたインターネット通信の仕組みを物流に適用したものがフィジカルインターネットです。情報の交換を荷物の交換に置き換え、配送や輸送の効率性、強靭性の向上、雇用の確保、地域格差の解消を目指す考え方を指します。

※出典:経済産業省,物流危機とフィジカルインターネット,p13



SDGsの目標達成をサポート

フィジカルインターネットは、SDGsで掲げられている17の目標のうち、8つの目標達成(気候変動、生産・消費、都市、不平等、イノベーション、成長・雇用、エネルギー、保険)をサポートします。

※出典:経済産業省,フィジカルインターネットロードマップ,p27


2. フィジカルインターネットが注目される理由

フィジカルインターネットが注目される理由は、物流業界が直面している課題の解決が急務となっているためです。それぞれの課題について解説します。

ドライバー不足による労働力の減少

1990年と2003年の規制緩和によって、物流業界の競争が激化しました。その結果、労働環境が悪化し、ドライバーの数が急激に減少している状況です。経済産業省の資料によると、2027年にはドライバーが24万人不足するという試算が出ています。(※)

また、人口減少に伴う労働力不足も深刻化している状況です。特に物流業界では労働環境の整備が遅れており、若者に敬遠される傾向があります。

※出典:経済産業省,物流危機とフィジカルインターネット,p3

※関連記事:2024年問題によるドライバー不足の対策方法とは?原因や影響も解説

EC市場成長に伴う宅配物の増加

2023年の日本国内における「BtoC-EC(消費者向けEC)」市場規模は、前年から9.23%増加し、約24.8兆円でした。また「BtoB-EC(企業向けEC)」市場規模は、前年から10.7%増加し、約465.2兆円です。(※)

EC市場は年々拡大しており、宅配便の量も増加傾向にあります。2023年の宅配便取扱個数は、前年から0.3%増加し、50億733万個でした。(※)

物流業界では、増加する需要に対応していかなければならず、業務効率化や労働力の確保が急務となっています。

※出典:

経済産業省,令和5年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました

国土交通省,令和5年度 宅配便・メール便取扱実績について

※関連記事:物流クライシスとは?原因や影響から解決策までを解説!

CO2排出と気候変動問題への対応

2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて物流業界では、CO2排出量の削減など、気候変動問題への対応が求められています。

現在、物流業界において営業用の車両は約140万台あり、CO2の排出量は約7600万トンです。日本国内全体のCO2排出量は約11億800万トンのため、物流業界が占める割合は全体の約6.8%となります。今後、何らかの制約が設けられる可能性が十分にある状況です。

※出典:経済産業省,物流危機とフィジカルインターネット,p5

社会インフラの課題

物流業界では、価格や輸送期間などの地域格差が発生しています。輸送資源が乏しい地域の場合、アクセスが悪かったり、道路の整備がされていなかったりするためです。地域によっては、輸送に多くの時間とコストがかかる場合があります。

※関連記事:物流業界の課題は山積み?効果的な解決策も解説!

グローバルサプライチェーンの安定化

新型コロナウイルスのパンデミックなどにより、世界的な物流の混乱やサプライチェーンの脆弱性が露呈しました。グローバルなネットワークを標準化したり、リソースを共有したりするなど、物流の混乱を最小限に抑える対策が必要です。安定した供給を確保できる仕組みとして、フィジカルインターネットが注目されています。

※関連記事:グローバルサプライチェーンとは?運営・構築するメリットや課題を解説


3. フィジカルインターネットがもたらす物流業界への効果

物流業界にフィジカルインターネットを導入すると、どのような効果が得られるのでしょうか。ここでは、経済産業省が挙げている「4つの価値」について解説します。

積載効率の向上

現状は運送会社ごとに専用の車両で輸送しています。物流の需要拡大や荷物の小ロット化に伴い、車両ごとの積載効率が低下している状況です。

フィジカルインターネットが実現すれば、多数の運送会社が車両を共有できるため、1台の車両に積載する荷物の量が増えます。積載効率の向上と輸送コストの低減、CO2排出量の削減が可能です。

強靭性を高める

自然災害などが発生した場合でも、物流の遅延や寸断がなく、目的地まで運べる耐性が強化されます。

現状では、何らかの災害で配送ルートが寸断された場合、代替経路に変更して輸送を継続します。この方法では、代替経路に交通が集中し、渋滞の発生につながりかねません。

フィジカルインターネットでは、元々代替ルートを利用している他社の車両に積み替えを行ったり、ほかの商品と合わせて輸送したりするため、交通量の増加を最小限に抑えられます。

※関連記事:2024年問題対策!モーダルシフトの概要やメリット、取り組み事例を解説

新たな雇用の創出

フィジカルインターネットを導入すると、業務の効率化や労働環境の改善につながります。その結果、経済成長が促進されれば、新たな雇用の創出が可能です。

また、個人や中小企業でも物流業界に参入しやすくなるため、新たなビジネスの機会が生まれます。経済全体の活性化により、多くの分野で雇用が確保されるでしょう。

ユニバーサルサービス化

フィジカルインターネットでは、物流に関する情報、機能、リソースを、業界や運送会社の垣根を超えて共有します。そのため、地域格差や少子高齢化の影響を受けている「買い物弱者」の問題を解消可能です。

輸送資源が少ない地域においても、貨客混載などの効率的な輸送資源の活用が期待できます。

※参考:

経済産業省,フィジカルインターネットロードマップ,p24-26

※関連記事:物流業界の今後はどうなる?人手不足や労働環境の鍵となる物流DX


4. フィジカルインターネットを実現するための方法

フィジカルインターネットを実現するためには、運送会社の垣根を超えて取り組むことが必要です。ここでは、具体的な3つの方法について解説します。

オープンな物流ネットワークの整備

ほかの運送会社と物流情報を共有する必要があるため、オープンな物流ネットワークの整備が不可欠です。コンテナや倉庫、車両などの物流資産を共有する必要があります。最適な積載方法や配送ルートを割り出し、柔軟性と効率性の向上、環境への負荷低減を実現します。

リアルタイムに可視化できるシステムの構築

柔軟な積載方法や配送ルートを割り出すためには、自社の輸送状況をリアルタイムに可視化できるシステムの構築が必要です。車両ごとの輸送計画、現在の走行位置、目的地点に到着する予定時間など、正確な情報が重要となります。

荷物のサイズや規格を標準化

さまざまな形状の荷物を配送すると、積載率が低下します。また、ドライバーが荷積みする際の手間が増えることで、作業効率も悪くなるでしょう。

フィジカルインターネットを活用するためには、荷物の形状や大きさの標準化が必要です。輸送事業者だけではなく、荷主やメーカーの協力も必須となります。

※関連記事:2024年問題における荷主の責任とは?影響を避けるための3つの対策を解説


5. まとめ

EC市場の拡大に伴い、物流業界の需要は増加傾向です。しかし、ドライバー不足や地域格差、環境問題など、物流業界はさまざまな課題を抱えています。フィジカルインターネットを活用することで、物流の効率化が実現し、強靭性の確保や新たな雇用の創出など、さまざまな効果を得られるでしょう。課題を解決し、増加する需要に対応していくために、フィジカルインターネットの導入を検討してみてはいかがでしょうか。




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