物流業界における働き方改革関連法への対応|法成立の背景や目的、内容を詳しく解説

物流業界における働き方改革関連法への対応|法成立の背景や目的、内容を詳しく解説

働き方改革関連法は、日本の労働環境を大きく変革する法律です。2019年4月から段階的に施行され、長時間労働の是正、多様な働き方の実現、そして労働生産性の向上などを目指しています。働き方改革関連法に基づいた労働法改正によって生じる様々な問題を総称して「2024年問題」といい、物流業界における対応が重要視されています。


本記事では、働き方改革関連法の背景や目的、具体的な改正ポイント、企業の取り組み事例、運送会社が対応すべき施策について詳しく解説します。

この記事でわかること

  • 働き方改革関連法の背景や目的
  • 具体的な改正ポイント
  • 取り組み事例、運送会社が対応すべき施策

1. 働き方改革関連法とは

働き方改革関連法は2018年6月に成立し、2019年4月から施行された労働関連法の包括的な改正を定めた法律です。正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」です。この法律の背景や目的、2024年問題との関連性について以下に解説します。


働き方改革関連法の背景と目的

この法律は、日本が直面する労働問題に対応するために制定されました。主な課題には、労働人口の減少、長時間労働、雇用形態による賃金格差、低い有給取得率、多様な働き方のニーズなどがあります。法律制定の主な目的は以下の通りです。


  1. 長時間労働の是正
  2. ワーク・ライフ・バランスの実現
  3. 多様な働き方の促進
  4. 公正な待遇の確保
  5. 労働生産性の向上


これらを通じて労働環境の改善と働く人々の生活の質向上を目指しています。

※参考:厚生労働省,働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~


働き方改革関連法と2024年問題の関連性

物流業界では長時間労働が常態化しており、これを是正するために働き方改革関連法に基づく法改正が行われました。2024年4月1日から自動車運転業務の時間外労働の上限が960時間に制限されることにより、輸送能力低下や物流コストの上昇など様々な問題が起きることが予想されています。そのため、この問題を総称して「2024年問題」と呼ぶようになりました。

※参考:公益社団法人全日本トラック協会,知っていますか?物流の2024年問題


関連記事▶2024年問題に立ち向かう物流・運送業界|働き方改革関連法制定の背景や目的をわかりやすく解説



2.働き方改革関連法の9つの改正ポイント

働き方改革関連法による改正ポイントは主に9つです。以下で詳しく解説します。


改正ポイント

施行日

改正前

改正後

時間外労働の上限

大企業2019年4月1日

中小企業2020年4月1日

自動車運送業務、建設事業、医師2024年4月1日

法律上は、残業時間の上限なし(行政指導のみ)

法律で残業時間の上限を定め、これを超える残業は禁止。

・原則: 月45時間、年360時間

・労使協定に基づく特別条項: 年720時間(自動車運送業務は年960時間)、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)

・臨時的な特別な事情がある場合でも、時間外労働が月45時間を超えるのは6か月を限度とする。

勤務間インターバル制度の導入促進

努力義務化2019年4月1日

義務化?2024年4月1日

継続8時間以上に努める

1日の勤務終了後、翌日の出社までに、 一定時間以上の休息期間(インターバル)を確保する仕組みを導入。

・継続11時間以上が基本。9時間を下回ってはならない。

年次有給休暇の確実な取得

2019年4月1日

労働者が自ら申し出なければ、年休を取得できなかった

使用者が労働者の希望を聞き、希望を踏まえて時季を指定する。

年5日取得を義務化。

労働時間状況の客観的な把握

2019年4月1日

割増賃金を適正に支払うため、労働時間を客観的に把握することをガイドラインで規定。

ただし、裁量労働制が適用される人などは対象外。

健康管理の観点から、裁量労働制が適用される人や管理監督者も含め、すべての人の労働時間の状況が客観的な方法その他適切な方法で把握されるよう法律で義務化。

「フレックスタイム制」の拡充

2019年4月1日

労働時間の清算期間:1か月

労働時間の清算期間:3か月

「高度プロフェッショナル制度」の導入

2019年4月1日

なし

一定の年収以上の高度専門職を対象に、労働時間規制から除外する制度を新設。ただし、労使委員会の決議及び労働者本人の同意を前提とし、年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講ずること。

月60時間超残業に対する割増賃金引き上げ

中小企業2023年4月1日

月60時間超の残業割増賃金率

大企業は50%

中小企業は25%

月60時間超の残業割増賃金率

大企業、中小企業ともに50%

※中小企業の割増賃金率を引き上げ

雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

大企業2020年4月1日

中小企業2021年4月1日

なし

同一企業内において、正社員と非正規雇用労働者の間で、基本給や賞与などあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることを禁止。

「産業医・産業保健機能」を強化

2019年4月1日

産業医は、労働者の健康を確保するために必要があると認めるときは、事業者に対して勧告することができ、事業者はその勧告を尊重する義務がある。

事業者は、労働者の健康相談等を継続的かつ計画的に行う必要がある。(努力義務)

事業者から産業医への情報提供を充実・強化。

産業医の活動と衛生委員会との関係を強化。

産業医等による労働者の健康相談を強化。

事業者による労働者の健康情報の適正な取扱いを推進。

※参考:厚生労働省,働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~


①時間外労働の上限規制

法改正により時間外労働に明確な上限が設けられました。


・原則: 月45時間、年360時間

・労使協定に基づく特別条項: 年720時間(自動車運送業務は年960時間)、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)


また、原則である月45時間を超えることができるのは、年間6か月までです。

違反すると、罰則があります。(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)


②「勤務間インターバル制度」の導入促進

勤務終了後、次の勤務までに一定時間以上の休息期間(インターバル)を確保する制度の導入を企業に義務として課しています。


③年次有給休暇の確実な取得

使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、年5日は時季を指定して取得させることが義務付けられました。違反した場合は、罰則の対象となります。


④労働時間状況の客観的な把握

使用者は、管理職、裁量労働制対象者も含め、全ての労働者の労働時間を客観的に把握する義務が課されました。

※参考:厚生労働省,働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~


⑤「フレックスタイム制」の拡充

フレックスタイム制の清算期間の上限が1か月から3か月に延長されました。また、精算期間が1か月超・3か月以内の場合、精算期間内の1か月ごとに1週平均50時間を超えた労働時間は、割増賃金の対象となります。


⑥「高度プロフェッショナル制度」の導入

高度な専門知識を持ち一定の条件を満たす労働者に対し、労働時間規制の適用除外を可能にする制度が導入されました。


⑦月60時間超残業に対する割増賃金引き上げ

2023年4月1日から、中小企業も時間外労働が月60時間を超えた場合、大企業と同様50%以上の割増賃金の支払い義務が適用となりました。


⑧雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

同一企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差が禁止されました。同一労働同一賃金ガイドラインを策定し、どのような待遇差が不合理に当たるかが明確化されました。


⑨「産業医・産業保健機能」を強化

産業医の権限強化や事業者の情報提供義務など、労働者の健康管理体制が強化されました。

※参考:厚生労働省,働き方改革~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~


関連記事▶2024年問題と労働時間規制|荷主企業が今すぐ知るべき対策



3.働き方改革関連法への取り組み事例

以下に、働き方改革関連法に伴う制度変更への取り組みを実際に進めている企業の事例を紹介します。


北陸コンピュータ・サービス株式会社の勤務間インターバル制度の導入事例

北陸コンピュータ・サービス株式会社は、2017年4月に全従業員を対象とした勤務間インターバル制度を導入しました。制度の概要はインターバル時間を10時間と設定したもので、就業規則に明記しています。インターバル時間確保のため、勤務終了時刻に応じて翌日の勤務開始時刻を調整する仕組みを整えました。

※参考:厚生労働省,勤務間インターバル制度 導入・運用マニュアル,p66


導入による効果

制度の効果として、若手従業員の離職率低下や従業員満足度の向上が見られたとのことです。



4.働き方改革関連法に関して運送会社が対応すべきこと

働き方改革関連法に関して、運送会社が対応すべきことについて以下で詳しく解説します。


法令遵守のため労務管理を見直す

労働時間を正確に把握するシステムの導入・更新、36協定の内容の見直し、勤務間インターバル制度の導入、年次有給休暇の最低5日取得の管理を確実に行う必要があります。これにより、法令遵守だけでなく、従業員の健康維持とワーク・ライフ・バランスの向上も期待できます。

※参考:厚生労働省,働き方改革関連法に関するハンドブック


労働環境や採用活動を見直す

長時間労働の是正と残業削減の推進、週休2日制の完全実施、フレックスタイム制やテレワークなどの多様な働き方の導入を検討する必要があります。また、賃金アップや給与体系の見直し、キャリアパスの提示により、従業員のモチベーション向上を図ることも求められます。若手や女性への広報活動を強化し、人材確保に努めることも重要です。

※参考:公益社団法人全日本トラック協会,トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン


システムやAIを導入し業務効率化を図る

配車支援システムやAIを活用した需要予測・ルート最適化を導入し、効率的な車両運用を実現することが必要です。さらに、倉庫内作業の自動化・ロボット化やパレットの活用により、作業時間短縮と業務品質向上を図ります。これにより、全体的な労働時間削減と生産性向上が期待されます。


関連記事▶物流効率化に向けた政府の取り組みとは?荷主企業に求められることも解説


輸送方法を変更する

モーダルシフトを推進し、長距離トラック輸送から鉄道・船舶輸送への切り替えを進める必要があります。また、共同配送や中継輸送の導入により、全体的な効率化を図るべきです。ラストワンマイル配送では、宅配ボックスやドローンの活用を検討し、再配達削減と配送時間短縮を目指すことで、ドライバーの労働時間短縮と負担軽減を実現することが欠かせません。


関連記事▶2024年問題対策!モーダルシフトの概要やメリット、取り組み事例を解説


荷主や消費者への広報活動を強化する

働き方改革の実現には、荷主企業や消費者の理解と協力が不可欠です。SNSや自社サイトを活用し、ドライバー不足や人件費の上昇、リードタイムの延長について情報を発信し、消費者や荷主の理解を得ることが重要です。


関連記事▶2024年問題における荷主の責任とは?影響を避けるための3つの対策を解説



5. まとめ

2024年の働き方改革関連法完全施行に向け、物流業界は様々な課題に直面していますが、法令遵守への適切な対応は、人材定着率向上などの好影響をもたらす可能性もあります。


運送会社が働き方改革を進めるためには、荷主や消費者の協力も必要です。関係者が協力し、持続可能な物流体制の構築につながることが期待されています。本記事が、運送会社での働き方改革への積極的な取り組みを検討するきっかけとなれば幸いです。

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