物流業界に大きな変革をもたらす「2024年問題」が現実となりつつあります。働き方改革関連法の施行により、トラックドライバーの労働時間に厳しい制限が課せられることで、業界全体に深刻な影響が予想されています。
そこで本記事では、まず2024年問題を引き起こす主要な制度変更と、主な影響についてまとめます。また、政府の「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」の内容を踏まえ、具体的な解決策3つについて詳しく解説します。
物流業界の2024年問題とは、働き方改革関連法により労働時間に制限が設けられることで生じる課題を指します。具体的には、主に次の3つの制度変更が行われます。
2024年4月1日以降、トラックドライバーの年間時間外労働時間の上限が、36協定(労使協定)締結を前提として960時間に制限(※)され、労働時間が大幅に減少します。
※出典:厚生労働省,トラックドライバーの新しい労働時間規制が始まります!
2024年4月1日以降、トラックドライバーの年間時間外労働時間の上限が、36協定(労使協定)締結を前提として960時間に制限(※)され、労働時間が大幅に減少します。
※出典:厚生労働省,トラックドライバーの新しい労働時間規制が始まります!
働き方改革関連法により2023年4月1日から、時間外労働が月60時間を超えた場合、大企業だけでなく中小企業にも50%以上の割増賃金の支払い義務が発生し(※)、企業の人件費が増加します。
※出典:厚生労働省,2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます
この制度では、仕事終了から翌日の出社までに「継続11時間以上、最低9時間」の休息時間を確保することが義務付けられました(※)。これにより配送スケジュールの見直しが必要となる可能性があります。
※出典:厚生労働省,自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)
なお、物流業界における2024年問題制度変更についての詳しい解説は、関連の記事をご参照ください。
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上記の制度変更が物流業界にもたらす影響について解説します。
時間外労働の制限や勤務間インターバル制度の変更によりドライバーの稼働時間が減少するため、輸送能力低下が予想されます。何も対策を打たない場合、2024年には約14%、2030年には約34%の輸送力不足が起こるという分析(※)もあります。これにより、輸送の遅延や輸送品質の低下も懸念されています。
※出典:内閣官房,「物流革新に向けた政策パッケージ」のポイント
労働時間の制限と割増賃金率の引き上げは、必然的に物流コストの増加をもたらします。同じ量の貨物を輸送するためにより多くのドライバーや車両が必要となり、人件費や車両維持費が増加します。これらのコスト増加は運送会社の利益率を圧迫するだけでなく、最終的には荷主企業や消費者に転嫁される可能性もあります。
労働時間制限により、これまで1日で行っていた長距離輸送が複数日にわたる可能性が高くなり、受注から配送完了までのリードタイムが全体的に延長されることが予想されます。Just-In-Time(JIT)生産方式を採用している製造業や、鮮度が重要な食品業界などは特に大きな影響を受けることになるでしょう。
2024年問題に対処するため、政府は「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」(※)を策定しました。その内容を踏まえ、特に重要な3つの解決策について具体的に解説します。
影響 | 解決策 |
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輸送能力、輸送品質の低下 | 労働環境・条件の改善による人員確保
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物流コストの増加 | 荷待ち、荷役時間の削減
|
リードタイムの延長 | 輸送方法、輸送形態の見直し
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※参考:国土交通省,物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン
2024年問題の根本的な解決には、トラックドライバーの労働条件を改善し、業界全体の魅力を高めることが不可欠です。
労働時間管理システムやデジタルタコグラフの導入により、ドライバーの労働時間を正確に把握し、適切に管理することが重要です。これにより法令遵守とドライバーの健康管理を両立できます。また、AIを活用した配車システムの導入により、効率的なシフト管理や業務割り当てを行えるようになり、労働時間の最適化を図ることが可能です。
荷主企業との交渉を通じて、労働時間や待機時間に応じた適正な運賃設定を実現することは欠かせません。これにより、ドライバーの収入を安定させ、モチベーションの向上や離職率の低下につなぐことができます。運賃契約の見直しや附帯業務、待機時間に対する適切な料金設定も重要です。「貨物自動車運送事業法」改正に伴う「標準的な運賃」告示制度(※)の周知徹底により、業界全体の賃金水準向上が期待されます。
※出典:国土交通省,トラック輸送の「標準的な運賃」が定められました
ドライバーが安心して働ける環境を提供するためには、荷主企業と協力し、安全設備の整備や作業手順の見直しが必要です。これにより、事故や怪我のリスクを低減し、働きやすい職場環境を実現することで荷役作業の効率化も図れます。
輸送効率を向上させるためには、荷待ち時間や荷役時間の削減が不可欠です。具体的な方法は以下の通りです。
バース予約システムを導入することで、トラックの到着時間を事前に調整し、荷待ち時間を大幅に削減できます。また、AIを活用した配送ルート最適化システムによって交通状況や配送先の受入れ状況をリアルタイムで考慮した最適なルート設定が可能となり、輸送効率を向上させることができます。
パレット化を推進し、さらにパレットのサイズや仕様を標準化することで、荷役作業の効率化を図ることができます。また、パレット化によりフォークリフトなどの機械を使用した迅速な積卸しも可能となり、荷役作業の効率化やドライバーの労働負担軽減につながります。
倉庫内作業の自動化、機械化を進めることで、入出荷業務や検品の効率化を図ることができます。自動仕分けシステムやピッキングロボットの導入により、作業時間の短縮と精度向上を同時に実現できます。その結果、トラックの待機時間を短縮し、全体的な物流効率を向上させることが可能となります。
労働時間制限に対応するためには、従来の輸送方法や輸送形態を根本的に見直す必要があります。
複数の企業が協力して共同輸配送を行うことで、トラックの積載率を向上させ、全体的な輸送効率を高めることができます。特に、同じ地域への配送や類似した商品を扱う企業間での共同輸配送は、大きな効果が期待できます。積載率の向上は、物流コストの抑制やドライバー不足の解消にもつながります。
トラック輸送から鉄道や船舶による輸送へのシフト(モーダルシフト)を進めることで、長距離輸送におけるドライバーの負担を軽減することができます。特に大量輸送や長距離輸送の場合、CO2排出量の削減など環境負荷の低減につながり、社会的な要請にも応えることができます。
長距離輸送を複数の短距離輸送に分割する中継輸送方式を導入することで、各ドライバーの労働時間を短縮しつつ、全体の輸送能力を維持することが可能となります。中継拠点の設置や運用には課題もありますが、労働時間制限に対応する有効な手段のひとつとして注目されています。
物流業界における配車管理システムの導入事例として、日清食品様の成功例を紹介します。
日清食品様はサプライチェーン改革の一環として、2021年3月から「ハコベル配車管理」を導入しました。これにより、従来の紙とFAXによる非効率な体制からデジタル化が進み、ペーパーレス化とデータの一元管理が実現されました(※)。
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ハコベル配車管理は約2ヶ月で90%の導入率を達成。使い慣れたスマートフォンで操作をスムーズにできるため、導入しやすい点が成功の要因です。運送会社やドライバーの業務負担の軽減と効率化にも貢献しています。
2024年問題への対応には、トラック業界だけでなく荷主企業の協力が不可欠です。この影響は規制対応に留まらず、物流業界全体の構造改革と競争力強化の機会であり、各企業の特性を活かした戦略が重要です。しかし、1社だけでは解決は困難です。荷主と運送会社が情報や技術を共有し、オペレーションやデジタル化の標準化を協力して進めることが求められます。これにより、持続可能な物流システムが構築され、2024年の問題克服と業界成長につながるでしょう。