物流業界では、EC市場の拡大やドライバー不足、燃料費の高騰など様々な課題が深刻化しています。特に2024年問題として知られるトラックドライバーの労働時間規制は、物流能力に影響を与えると懸念されています。こうした状況を打開する手段として注目されているのが「物流最適化」です。
物流最適化は、輸送効率の向上やデジタル技術の活用を通じてコスト削減や業務効率化を実現し、企業の収益向上や顧客満足度の向上につなげる取り組みです。
本記事では、物流最適化の目的や方法、実際の取り組み事例をわかりやすく解説します。
物流最適化とは、輸送や保管、荷役、情報管理といった物流プロセス全般を効率化し、コスト削減やリードタイム短縮、サービス品質の向上を実現する取り組みを指します。これにより、企業の収益性を高めるだけでなく、顧客満足度の向上や環境負荷の軽減も実現します。
物流を取り巻く環境は、近年、大きく変化してきました。EC市場の拡大による物流量の増加やドライバー不足、燃料費の高騰によるコスト増加など、物流業界は多くの課題に直面しています。
特に深刻化しているのが「2024年問題」です。2024年4月からトラックドライバーの時間外労働時間の上限が年間960時間になり、輸送能力の低下や物流コストの増加が懸念されています。
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物流最適化の目的は、大きく以下の5つに分類されます。
・輸送コスト、保管コスト、人件費などを削減する「コスト削減」
・納期遵守率を向上させる「リードタイム短縮」
・確実な配送、柔軟な対応などによる「顧客満足度向上」
・ドライバーの負担軽減、労働時間短縮などの「労働環境の改善」
・輸送効率向上、CO2排出量削減などの「環境負荷の低減」
企業により異なりますが、上記いずれかの目的で物流の最適化を目指します。
物流最適化は、分野を問わず企業にとってもはや必須の取り組みとなっています。なぜなら、物流は企業活動において重要な役割を果たしており、その効率性や品質が企業の競争力に直結するからです。
物流コストの削減やリードタイムの短縮は企業の収益向上に直接つながり、高品質な物流サービスの提供は顧客満足度向上に貢献するため、企業のブランドイメージを高めることが可能です。
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政府も物流最適化の重要性を認識し、様々な取り組みを進めています。2023年6月には、経済産業省、農林水産省、国土交通省が共同で「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」を策定しました。このガイドラインでは、荷待ち時間の削減や運送契約の適正化など、荷主企業と物流事業者が連携して行うべき具体的な内容を確認することが可能です。
※参考:経済産業省・農林水産省・国土交通省,物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン
ここからは物流最適化を行うための5つの代表的な方法を紹介します。
輸送効率を高めることは、物流を最適化する上で欠かせない取り組みです。トラックの積載効率を高めたり配送ルートを最適化したりすることで移動距離や時間を短縮し、燃料費や人件費を削減できます。また、共同配送を導入し、複数の荷主の荷物を1台のトラックで配送することは、コスト削減や環境負荷の低減にもつながります。
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近年、ドローンや自律走行搬送ロボットなど、新たな輸送手段も注目されています。例えばドローンを使った配送は、山間部や離島のようなインフラが整っていない地域での物流を可能にし、災害時の緊急物資輸送にも役立ちます。一方、自律走行搬送ロボットは、ラストワンマイル配送の自動化を実現する手段として、宅配便や食品配送といった人手不足が深刻な分野での活用が進んでいます。
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物流結節点とは、複数の輸送ルートが集まる拠点を指します。具体的には物流センターや港湾、空港などが該当します。これらの拠点を強化することで荷物の積替えや保管作業を効率化し、輸送全体のスピードアップを図ることが可能です。適切な結節点の整備は、輸送効率向上に大きく貢献します。
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倉庫は、商品の保管や仕分け、ピッキングなど、物流において重要な役割を果たします。
倉庫管理を効率化することで在庫管理が最適化され、保管スペースの有効活用や作業効率の向上が期待できます。特に、倉庫管理システム(WMS)を導入することにより、在庫状況をリアルタイムで把握したり、入出庫管理を自動化したりすることが可能になります。
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IoT、AI、ビッグデータ分析などのデジタル技術は、物流最適化を大きく進化させています。これらの技術を活用することで、需要予測、在庫管理、輸送管理、配送管理など、物流のあらゆるプロセスを効率化し、高度な最適化を実現することが可能です。
例えば、IoTセンサーでトラックの位置情報や荷物の状態をリアルタイムで把握し、輸送状況を可視化することで、異常発生時の迅速な対応や配送ルートの最適化などにつなげることができます。
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※参考:国土交通省,地域の輸送資源を活用した物流ネットワーク最適化に関する調査研究,p9
物流最適化を成功させるには、以下の3つのポイントを考慮する必要があります。
物流は複数のプロセスが複雑に絡み合っているため、個々のプロセスだけでなく、全体を俯瞰することが重要です。
物流には、荷主企業、物流事業者、運送会社、倉庫会社など、多くのプレーヤーが関わっています。関係者間で情報を共有し連携を強化することで、スムーズな物流が実現でき、最適化の効果を高めることができます。
物流に関する様々なデータを収集・分析することで、より精度の高い最適化を実現できます。例えば過去の出荷データや配送データを分析すれば、需要予測や配送ルートの最適化に活用できます。最新のデジタル技術を活用することでデータの収集・分析が容易になり、より高度な最適化が実現できるでしょう。
これら3つのポイントを踏まえることで、より効果的な物流最適化を実現することが可能です。
物流業界では、様々な最適化の取り組みが進められています。ここでは、国土交通政策研究所の調査研究を参考に、具体的な事例を紹介します。
こうした事例を参考にすることで自社での最適化にも役立てることができるでしょう。
CBcloud株式会社は、荷主とドライバーをつなぐマッチングプラットフォーム「PickGo(ピックゴー)」を提供しています。このプラットフォームを活用することで、荷主は必要な時に必要なだけトラックを手配することができ、ドライバーは帰り荷や空き時間を有効活用することが可能です。
結果としてトラックの積載効率が向上し、輸送コストの削減にもつながります。
株式会社かもめやは、香川県三豊市本土と粟島を結ぶドローン物流航路を開設しました。このサービスにより、島民は本土のコンビニなどに注文した商品を、その日のうちに受け取ることが可能になりました。
また、セイノーホールディングス株式会社は、山梨県小菅村でドローンと既存の物流を組み合わせた「SkyHub」と呼ばれる新しい物流サービスを本格化させています。
佐川急便株式会社は松浦鉄道株式会社と連携し、長崎県佐世保市江迎町において、旅客列車の車内スペースを活用した貨客混載輸送を実施しています。これにより、宅配事業の効率化と地方交通の維持・発展に貢献しています。
これらの取り組みは、物流業界全体の効率化や生産性向上に貢献すると期待されています。 しかし、新しい技術の導入や関係者間の連携には課題も多く、今後の更なる取り組みが求められます。
※参考:国土交通省,地域の輸送資源を活用した物流ネットワーク最適化に関する調査研究
物流最適化とは、限られた資源を有効活用し、効率的かつ低コストで商品を届ける仕組みを実現することです。人手不足やコスト増加といった課題を抱える物流業界では、輸送効率の向上や新たな輸送手段の導入など、多様な取り組みが行われています。自社の課題や状況に合った方法を検討していきましょう。