物流業界ではドライバーの人手不足が深刻化し、輸送能力の不足が懸念されています。この問題の解決には、トラックドライバーの長時間労働の是正とともに、物流全体の効率化が欠かせません。
政府は2023年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」を取りまとめ、その施策の一環として「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン(以下、物流ガイドライン)」を策定しました。
本記事では、この物流ガイドラインの背景や目的、荷主企業が知っておくべきポイントを解説します。
まず、物流ガイドラインが策定された背景や目的について解説します。
物流業界では、ドライバーの人手不足の深刻化とドライバーの長時間労働が課題となっています。これを是正するため、2024年4月よりトラックドライバーの時間外労働の上限が年間960時間に制限されました。
しかし、この規制はドライバーの労働環境を改善する一方で、輸送能力の不足を招くリスクがあります。推計では2024年度には約14%、2030年度には約34%の輸送能力が不足するとされており、これは「物流2024年問題」として広く認識されています。
※出典:公益社団法人全日本トラック協会,「知っていますか?物流の2024年問題」
そこで物流全体の効率化を推進するため、政府は2023年6月2日に「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」において「物流革新に向けた政策パッケージ」を取りまとめています。同時に、これを実現する施策の一環として、発荷主企業、着荷主企業、物流事業者が早急に取り組むべき内容をまとめた「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取り組に関するガイドライン(物流ガイドライン)」を策定しました。
※出典:国土交通省,「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」を策定しました
関連記事▶ 2024年問題で何が起きる?物流への影響や具体的な対策を解説
関連記事▶物流政策パッケージとは?わかりやすくポイントを解説
関連記事▶物流総合効率化法とは?概要や背景、目的などを詳しく解説
物流ガイドラインの策定目的は、輸送能力不足を回避し、物流の適正化と生産性向上を図ることです。発荷主事業者、着荷主事業者、物流事業者が協力し、以下の目標を達成するための指針を示しています。
・ドライバー不足の解消
・労働環境の改善
・環境負荷の低減
・運送契約の最適化
このガイドラインに基づく取り組みが進むことで、長時間労働の是正や効率的な物流網の構築が期待されています。
※出典:国土交通省,「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」を策定しました
関連記事▶ 2024年問題と労働時間規制|荷主企業が今すぐ知るべき対策
物流ガイドラインは、発荷主企業、着荷主企業、物流事業者の3者が早急に取り組むべき事項を網羅しています。
その主な内容は以下の通りです。
項目 | 実施が必要な事項 | 実施が推奨される事項 |
1. 発荷主事業者・着荷主事業者に共通する取り組み事項 | ・荷待ち時間・荷役作業等に係る時間の把握 ・荷待ち・荷役作業等時間2時間以内ルール/1時間以内努力目標 等 | ・予約受付システムの導入 ・パレット等の活用 ・検品の効率化・検品水準の適正化 等 |
2. 発荷主事業者としての取り組み事項 | ・出荷に合わせた生産・荷造り等 | ・出荷情報等の事前提供 ・物流コストの可視化 等 |
3. 着荷主事業者としての取り組み事項 | ・納品リードタイムの確保 | ・発注の適正化 ・巡回集荷(ミルクラン方式) 等 |
4. 物流事業者の取り組み事項 | 共通事項: ・業務時間の把握・分析 ・長時間労働の抑制 ・運送契約の書面化 等 個別事項: ・荷待ち時間や荷役作業等の実態把握 ・トラック運送業における多重下請構造の是正 ・「標準的な運賃」の積極的な活用 | 共通事項: ・物流システムや資機材(パレット等)の標準化 ・賃金水準向上 個別事項: ・倉庫内業務の効率化 ・モーダルシフト、モーダルコンビネーションの促進 ・作業負荷軽減等による労働環境の改善 等 業界特性に応じて、代替となる取り組みや合意事項を設定して実施 |
その他(推奨される取り組み) | ・物流システムや資機材(パレット等)の標準化 ・共同輸配送の推進等による積載率の向上 ・荷役作業時の安全対策 ・発送量の適正化 等 |
※出典:国土交通省,「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン(概要版)」
ここでは、荷主企業が知っておくべき物流ガイドラインのポイントについて解説します。
物流ガイドラインでは、トラックドライバー1運行あたりの荷待ち時間や荷役作業時間を「合計2時間以内」に短縮することをルール化しています。これは現状の平均約3時間を大幅に削減する取り組みで、発荷主事業者と着荷主事業者が連携して達成すべき課題とされました。
すでに2時間以内を達成している場合は、さらに1時間以内を目標とすることで物流の効率化を追求しているのです。
荷待ち時間削減を含め、物流効率化のため、具体的には以下の取り組みが求められています。
・荷待ち時間と荷役時間の把握と削減
・フォークリフトやパレットの活用
・検品の効率化、検品の適正化
・自動化、デジタル技術導入による効率化
・トラック予約受付システムの導入
・輸送方法、輸送場所の変更による輸送時間短縮
・共同配送による積載率の向上
関連記事▶トラック予約システムとは|メリットや実際の導入事例を紹介
関連記事▶物流効率化に向けた政府の取り組みとは?荷主企業に求められることも解説
従来、物流業界では物流事業者の交渉力が弱く、荷主企業が契約外の荷役作業や費用を物流事業者に一方的に負担させる不公正な慣行がありました。現在も一部で残っているため、物流ガイドラインでは、こうした不合理な商慣行を見直し、物流事業者が安定した収益を確保できるよう業務の適正化を図ることを求めています。具体的には、以下のような取り組みです。
取り組み事項 | 内容 |
物流管理統括者の選定 | 荷主は物流の適正化に向けた取り組みを実施するため物流管理統括者を選定すること。 |
物流の改善提案と協力 | 荷主は物流事業者との協議を積極的に行い、荷待ち時間や附帯作業の合理化について要請を受けた場合、真摯に協議に応じること。 |
責任範囲の明確化 | 荷役作業や追加業務に関する責任範囲を明確にし、料金負担者を明らかにすること。また、契約外の荷役作業や追加業務が発生した場合、その作業に対する適正な対価を物流事業者へ支払うこと。 |
関連記事▶ロジスティクスと物流の違いとは?荷主が理解すべき「物流統括管理者」と「CLO」の違いについても解説!
物流ガイドラインでは、適正な運賃契約を通じて物流事業者の収益基盤を確立し、持続可能な物流を実現することを目指しています。具体的には以下のような取り組みが求められています。
取り組み事項 | 内容 |
運送契約の書面化 | 契約は書面またはメール等で電子的に行い、内容を明確化すること。 |
運賃と料金の別建て契約 | 運賃(運送費用)と料金(附帯業務の費用)を分けて契約すること。 |
燃料サーチャージ等の導入 | 燃料費や高速道路料金の上昇分を価格に適切に反映すること。 |
下請取引の適正化 | 多重下請構造是正のため、必要以上の下請を避けること。下請企業に発注する場合も、適正な運送契約を結び適正な運賃を支払うこと。 |
標準的な運賃の積極的な活用 | 標準的な運賃を基準に適正な運賃契約を結ぶこと。 |
※参考:国土交通省,「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」
関連記事▶標準的運賃とは?定義や改正のポイント、運賃の計算方法まで詳しく解説
関連記事▶下請法・物流特殊指定とは?違反行為についても詳しく解説
関連記事▶運送申込書/運送引受書とは?荷主が知っておくべきポイントを詳しく解説
国土交通省は、荷主企業や物流事業者に対し、物流ガイドラインに基づいた「自主行動計画」を作成・公表するよう求めています。この計画は、各企業が取り組むべき目標や具体策を明文化するもので、透明性の確保と取り組みの進捗管理に役立ちます。
※出典:国土交通省,「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」を策定しました
物流の2024年問題を解決するために策定された物流ガイドラインは、荷主企業と物流事業者が取り組むべき具体的な方向性を示しています。特に、荷待ち・荷役作業時間の短縮、商慣行の是正、運送契約の適正化は、物流事業者だけでは難しく、荷主企業の理解と協力が求められます。各企業が自主行動計画を通じて責任を果たすことが、持続可能な物流体制の構築につながるでしょう。