
エルテックラボ代表の物流ジャーナリスト 菊田一郎氏をホストに毎月お届けしているハコベルのスペシャルウェビナー。今回は株式会社マルアイで物流戦略を担う仲村貞明氏をゲストに迎え、2025年に行ったドライセンターのオペレーション改善について伺いました。
株式会社マルアイ
事業推進部 物流課 課長
仲村 貞明 氏
商社系物流会社で物流センター長や物流企画を経験後、2018年に株式会社マルアイへ入社。店舗オペレーションの経験を経て、2019年11月に稼働した自社初の物流拠点「マルアイロジスティクスセンター」の立ち上げに従事し、ベンダー物流からの移行準備や運用ルールの整備を担当した。 会社初の物流拠点開設に加え、新型コロナウイルス感染拡大の時期とも重なり、多くの課題に直面したが、地道な業務改善を重ね、安定稼働を実現。その後は、要冷・常温商品の混載配送やカテゴリ別・通路別納品体制の構築を推進し、物流効率化と店舗作業負荷軽減の両立を実現した。 2023年のCGCグループ加盟を機に他社との連携を深め、2025年からは関西SM物流研究会に参加。今後深刻化が見込まれる物流供給力不足や人手不足など、一企業では解決が難しい物流課題について、持続可能な物流体制の構築に向けた研究・検討に取り組んでいる。
エルテックラボ L-Tech Lab
菊田 一郎 氏
1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年間勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体役員等を兼務歴任。この間、国内・欧米・アジアの物流現場・企業取材は約1,000件、講演・寄稿など外部発信多数。 2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化/DX、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスし、著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より㈱大田花き 社外取締役、20年6月より23年5月まで㈱日本海事新聞社顧問、20年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル㈱顧問。著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。
冒頭は菊田氏による前振り解説です。「なぜ今、物流の効率化・高度化、共同化が必要なのでしょうか。それは、物流が産業と地球社会の持続可能性の確保に貢献できるからです」と話し始め、物流業界の課題と改革の必要性について説明。もはや個社の効率化では追いつかないため、業界を横断した水平・垂直連携が必須だと強調し、現状を具体的な数字を挙げて紹介しました。

以前の政府試算では「対策を講じなければ2030年度には最大約34%の輸送力が不足する恐れがある」とされましたが、今春発表された最新の総合物流施策大綱までに、その数値は「最大26%」へと下方修正されました。一方でトラックの積載率はいまだに改善されていません。国交省の集計によると、営業用トラックの平均積載率は38%。つまり62%はカラで走っているわけです。そして日本政府は、2030年までに運輸分野のCO2を2013年比で35%削減する目標を定めています。「次世代に少しでも良い環境を残すために、私たちは温暖化防止をあきらめてはいけません」と菊田氏は訴えました。
2025年11月~12月に国交省が行った調査によると、平均荷待ち・荷役時間は2時間2分。改正物流効率化法の施行が奏功し、前年比で1時間16分も削減されています。1運行あたり2時間以内の目標値に大きく近づきましたが、この数字はあくまでも平均値。全てのドライバーの荷待ち・荷役時間が2時間以内に抑えられるよう、事業者はこの取り組みの継続に注力する必要があります。

総合物流施策大綱には、担い手不足が深刻化する今後5年間に集中的に改革を推し進めると記されています。「核心となるのは、やはり物流効率化法が規定する3大(努力)義務。荷待ち時間の短縮、荷役等時間の短縮、積載効率の向上です」と菊田氏。
「こうした課題山積の状況の中、マルアイさんでは昨年ロジスティクスセンターでオーバーフローが発生。この出来事を機にオペレーションを見直したということです。問題解決のためにどのような策を講じたのか、仲村さんのお話を聞きましょう」
菊田氏の言葉を受けて、ゲスト講師の仲村貞明氏が登壇。最初に、所属企業の概要を説明しました。株式会社マルアイは、兵庫県加古川市に本社を置く地域密着型の食品スーパー。兵庫県内、特に南部の沿岸部を中心に70店舗を出店し、食料品と日用品を販売しています。
2025年3月からは、物流分野を各企業間の「競争領域」ではなく「協力領域」と捉え、手を携えて物流効率化を進めることを目的としたSM物流研究会・関西SM物流研究会に参画。意欲的に取り組んでいます。

以前は物流を取引先である問屋に頼っていましたが、2019年に本社の隣に物流センターを新設しました。チルドから順次稼働させ、コロナ禍で緊急事態宣言が発出された2020年3月にフル稼働を開始。運営業務は3PL事業者に委託し、出荷拠点の集約による配送管理の一元化やコールドチェーンの確立による品質向上などを実現しました。店舗はおよそ10~50km圏内に分布。どの店舗もおよそ1時間以内に配送できています。
その物流センターで2024年末、オーバーフローが発生。繁忙期に出荷が滞り、店舗における品切れリスクが高まりました。大量発注に備えてはいたものの、処理能力を大きく超える発注数に対応が追いつきませんでした。仲村氏は、店舗の増加に加え販促形態の変更が大きな原因になったと振り返りました。「以前は在庫型商品と通過型商品の比率は45対55で作業にも余裕がありましたが、そのうち在庫型商品が65~70%と比率が逆転。センターの負荷が大きくなっていました」
比率変更は意図的に行ったものでした。商品のEDLP(Evelyday Low Place)化を進め、広告を打って集客する特売商品の割合を減らすことで、店舗の作業負荷軽減を狙ったのです。「実際、物流センターの負荷は上がりましたが店舗の負荷は下がり、店舗には意図したとおりのメリットがありました」

店舗からドライセンターへの定番品の発注締め時間が17時だったため、夕方から人員確保の難しい深夜帯に仕分け・ピッキング作業を行い、翌朝に出荷していました。そんな中で店舗増加と在庫型商品の増加が進み、余裕のない作業と人員不足が常態化していました。
そこで仲村氏は3つの打ち手を考え、段階的に実行しました。

① 定番品の発注締めを12時に変更
締め時間を5時間前倒して作業時間を深夜から日中に変更することを決め、影響範囲が比較的小さい酒類から段階的に導入。システム改修要否を確認しながら効果検証を進め、無理なく全カテゴリに広げていきました。この運用変更により、作業者の負担が軽減され、人員確保に余裕が生まれ、繁忙期でも安定した定番出荷作業が可能になりました。

② 通過型商品の入荷を前日から前々日へ
在庫型商品の出荷作業と通過型商品の出荷作業が重なると、作業導線や仮置きスペースで渋滞が起きて効率が悪いため、通貨型商品の入荷日を1日前倒し。これにより通過型商品の出荷作業を計画的かつ効率的に進められるようになりました。
「所有権は移さずに商品をセンター内に保管し、翌日朝一から作業に取り掛かれるようにしました。この運用は珍しいと思います」と仲村氏は話します。

③ 夜間配送をスタート
過去に一部店舗で実験的に行ったドライ商品の開店前陳列の経験から、来店客不在時の陳列作業は営業時間中の同じ作業と比べて生産性が約3割高いことが分かっていました。そのときから営業時間外の陳列作業を具体化したいと考えていた仲村氏は、この機を逃さず夜間配送を開始。現在19店舗で開店前陳列を実現し、今後も段階的に拡大予定です。また、1つの車両を夜間と日中で別運用することで、トラックの稼働率を上げられたこともメリットでした。「夜間・早朝納品は、住宅地を避けるなど、地域への影響が少ないところから法律を順守して行っています」
全カテゴリの運用を一斉変更すると、店舗発注システム、仕入れ先の出荷調整、センター内オペレーションの変更が同時に発生します。そこで仲村氏は、時間をかけて段階的に進めることで混乱のリスクを抑え、確実な運用の定着をめざしました。
第1段階(4月14日~)
酒類のみ先行実施。システム改修やオペレーションの課題を抽出し、全カテゴリに適用する際の参考にしました。
第2段階(9月30日~)
発注締め時間の変更、通過商品の入荷タイミングの変更、仕入れ先への周知、システム対応を並行して実施。ドライセンターの作業は、深夜から日中への時間帯変更とともに、1バッチ運用を夜間配送便と通常便の2バッチ運用に変えました。

第3段階(11月1日~)
運用が定着したことを確認。納品時間帯を変更して夜間配送をスタート。サプライチェーン全体を最適化し、年末繁忙期に備えました。「この年、2025年の12月には前年のようなことは起きず、オペレーション変更はうまくいったと一安心しました」
オペレーション改善後、センター・配送・店舗それぞれに良い変化が見られました。作業者の負担が大きい深夜作業がなくなったことで、センターは余裕をもって出荷できるようになりました。また、作業時間が日中になったことで人員確保もしやすくなりました。配送では1車両を日中・夜間それぞれ運用することで稼働率が向上し、経費削減につながりました。店舗では、開店前に効率的な陳列作業を行うことで日中作業の削減と人員削減に貢献。「それぞれに良い変化が見られ、労働環境の改善と商品の安定供給を両立させました」と仲村氏は話します。
仲村氏は、これまでの話を踏まえて今後の展望を4点にまとめました。

① 在庫商品処理能力の継続的な向上
作業時間帯の平準化は実現しましたが、取扱SKU数と店舗数の増加傾向は今後も継続する見込みです。物量の増加に左右されない運用体制を築くため、「見える化」「標準化」「ピッキング精度の改善」「繁忙期の事前物量シミュレーション」などで計画的に備えることをめざします。
② 仕入れ先・店舗との連携強化
安定供給には仕入れ先の出荷情報と店舗の発注精度の両立が欠かせません。仕入れ先には予約入荷精度の向上を働きかけ、店舗には在庫状況などの情報を充実させ、サプライチェーン全体で需給を支え合う協力体制の強化を推進していきます。
③ チルド商品の完全LT2化
チルドセンター特有の夜間作業から日中作業へのシフトを進めることで、働き方の改善とスペース効率改善の両立を図りたい同社。2027年夏頃を目標に、チルド商品の完全LT2化をめざしています。
④ 次期物流センター構想に反映
「今回のオペレーション改善で得た課題と知見は、次期物流センターの設計・運用に役立て」、在庫型商品と通過型商品の最適配分や自動化・省人化設備の導入を引き続き検討し、人口減少時代にも止まらない持続可能な物流体制を構築していきます。
「物流センター、店舗、取引先。今後はどこにもしわ寄せがいかないよう運用を進めていきたい」という仲村氏の言葉で、講演は和やかな空気の中で終了しました。

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