
2025年6月に成立・公布された改正貨物自動車運送事業法により、新たに「適正原価」が導入されます。適正原価とは、運送事業者が貨物を運送する際の運賃・料金について、国土交通大臣が定める原価の基準です。
適正原価の導入により、運送事業者だけでなく、運賃・料金を支払う荷主にも影響が生じます。そのため、制度の内容を理解し、施行に向けて必要な準備を進めることが重要です。
本記事では、適正原価の概要や算定方法、施行スケジュール、荷主・運送事業者への影響や取り組むべきことを解説します。

適正原価とは、運送事業者が貨物を運送する際の運賃・料金について、国土交通大臣が定める原価の基準です。2025年6月に成立・公布された改正貨物自動車運送事業法により導入されることが決まりました。
制度の施行後は、運送事業者が自ら貨物を運ぶ場合や、ほかの事業者に運送を委託する場合に、運賃・料金が適正原価を継続して下回らないようにすることが求められます。適正原価に関する規定は、法律の公布から3年以内に施行される予定です。
適正原価が導入される背景には、トラックドライバーの担い手不足や、物流の持続可能性を確保する必要性があげられます。国土交通省によると、対策を講じなければ2030年度には輸送能力が約34%不足する可能性が示唆されています。
また、運送業では赤字企業の割合が半数近くを占めており、ドライバーの年間賃金は全産業平均より低い一方、労働時間は長い状況です。
こうした課題を改善し、ドライバーの適切な賃金と安定した輸送体制を確保するため、適正原価を継続して下回る運賃・料金での取引を防ぐ仕組みが導入されます。
適正原価の対象となるのは、運送事業者や貨物利用運送事業者です。
運送事業者は、自ら貨物を運ぶ場合だけでなく、ほかの事業者に運送を委託する場合も、運賃・料金が適正原価を継続して下回らないようにすることが求められます。
また、自らトラックを保有せず、運送事業者を利用して貨物を運送する貨物利用運送事業者にも、同様の規制が適用されます。
適正原価には、運送事業を適正に運営するために通常必要と認められる以下の費用が反映されます。
適正原価の導入に伴い、「標準的運賃」は廃止されます。標準的運賃は、運送事業者が自社の適正な運賃を算出し、荷主との運賃交渉に活用するための参考指標として設けられたものです。
適正原価の導入によって、運賃交渉の参考となる水準を示す仕組みから、運送事業を適正に運営するために最低限必要な原価を示す仕組みへと移行します。
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適正原価の具体的な水準や算定方法は、現在、国土交通省の有識者検討会で検討が進められています。ここでは、現時点で公表されている資料をもとに、適正原価の水準や算定方法について解説します。
適正原価の具体的な金額は、現時点では決まっていません。国土交通省は2026年7月に「適正原価の設定に向けた有識者検討会」を設置し、適正原価の水準や算定方法などについて検討を進めています。
ただし、検討の対象は制度の枠組みが中心で、適正原価の具体的な金額については議論しないことが想定されています。
適正原価に関する規定は、2025年6月の改正法公布から3年以内に施行されるため、運送事業者や荷主は今後公表される具体的な内容を確認しましょう。

適正原価の算定方法は現時点では確定していませんが、国土交通省は上記のような算定式のイメージを示しています。
このうち運賃原価は、時間当たりの固定費に総稼働時間を乗じた金額と、1km当たりの変動費に総走行距離を乗じた金額を合計して算出する考え方です。
固定費や変動費などの単価は、地域や車種・車格ごとに設定することが想定されています。

適正原価に関する規定は、2025年6月11日の改正貨物自動車運送事業法の公布から3年以内に施行される予定です。
国土交通省が公表しているスケジュールでは、適正原価を告示したうえで、適正原価の遵守義務が施行される流れが示されています。

適正原価の導入は、運送事業者だけでなく、運賃・料金を支払う荷主にも影響します。制度の施行に向けて、荷主にどのような影響があるのか確認しておきましょう。
適正原価の導入により、荷主が負担する物流費が上昇する可能性があります。制度の施行後は、運送事業者に対して、運賃・料金が適正原価を継続して下回らないようにすることが求められるためです。
現在支払っている運賃・料金が適正原価を下回っている場合は、適正原価を踏まえた運賃・料金への見直しによって、物流費がこれまでより増加する可能性があります。
適正原価の導入に伴い、荷主は運賃だけでなく、荷待ち時間や荷役・付帯作業に関する取引条件も確認する必要があります。国土交通省が示す適正原価の構成要素案には、待機時間料や積込料・取卸料、付帯作業料なども含まれています。
ドライバーの荷待ちや荷役・付帯作業が発生している場合は、その内容や対価を明確にするとともに、荷待ち時間の短縮や作業負担の軽減に取り組むことが重要です。

適正原価の導入に向けて、荷主企業も現在の取引状況を確認し、必要な準備を進めておくことが重要です。制度の施行後にスムーズに対応できるよう、荷主企業が取り組むべきことを解説します。
適正原価の導入に備えて、荷主企業は現在の契約運賃や輸送条件を整理しましょう。運送事業者に支払っている運賃のほか、輸送距離・荷物量・荷待ち時間・積込み・取卸し作業などの取引条件を洗い出します。
現状を整理しておくことで、適正原価が告示された際に現在の契約内容との違いを確認しやすくなり、運賃・料金の見直しや運送事業者との協議にも対応しやすくなります。
荷主企業は、適正原価の導入に備えて、荷待ち時間や付帯作業などの物流条件を見直すことが重要です。適正原価では、待機時間料や積込料・取卸料、付帯作業料などを料金原価として反映する方向で検討されています。
適正原価の施行後に不適切な取引とならないよう、荷待ちや付帯作業の発生状況と、それぞれの対価が適切に設定されているかを確認しましょう。
現在の契約内容や物流条件を整理したら、運送事業者と今後の運賃・料金や委託条件について協議しましょう。
運送事業者から運賃・料金の見直しを求められた場合は、提示された金額やその根拠を確認し、適正原価を踏まえて取引条件を話し合うことが重要です。
あわせて、運送が複数の事業者へ再委託されている場合は、請負階層の削減も検討しましょう。2025年4月に施行された改正貨物自動車運送事業法では、元請事業者に対し、再委託の回数を2回以内とするよう努めることが求められています。
荷主企業も、運送の委託状況を把握し、運送事業者と協力して不要な再委託を減らすことが大切です。

適正原価の導入により、運送事業者の運賃・料金の設定や荷主との取引、他の運送事業者への委託にも影響が生じます。制度の施行によって、運送事業者にどのような影響があるのか解説します。
適正原価の導入により、運送事業者は適正原価を下回る運賃・料金での受注を抑制しやすくなります。適正原価を支払わない荷主は、違反原因行為として是正指導の対象となるためです。
荷主側にも適正原価を踏まえた取引が求められることで、運送事業者が適正原価を下回る運賃・料金での依頼を受け入れざるを得ない状況の改善が期待されます。
適正原価が設定されることで、運送事業者は国が定めた原価を根拠として、荷主と運賃・料金の交渉を行いやすくなります。
とくに、現在の運賃・料金が適正原価を下回る場合は、適正な水準への見直しについて荷主と協議しやすくなるでしょう。
他の運送事業者に運送を委託する場合も、適正原価への対応が必要です。制度の施行後は、自ら貨物を運ぶ場合だけでなく、他の運送事業者へ委託する場合も、運賃・料金が適正原価を継続して下回らないようにすることが求められます。
適正原価を継続して下回る運賃・料金で取引している場合、事業許可を更新できなくなる可能性があります。
荷主から受け取る運賃・料金だけでなく、委託先に支払う運賃・料金についても確認し、適正原価を下回る取引が続かないよう管理しましょう。

適正原価の導入に向けて、運送事業者は自社の原価や現在の取引状況を確認し、制度の施行に備える必要があります。適正原価が告示された際にスムーズに対応できるよう、今のうちから取り組むべきことを確認しておきましょう。
適正原価の導入に備えて、運送事業者は自社の運送原価と取引ごとの採算を把握しておきましょう。燃料費や人件費だけでなく、車両の減価償却費や保険料、安全確保に必要な経費など、運送にかかる費用を整理します。
自社の原価を把握することで、現在の運賃・料金で必要な費用をまかなえているかを確認できます。
自社の運送原価や取引ごとの採算を把握したら、現在の運賃・料金や契約内容を確認しましょう。適正原価の導入後は、運賃・料金が適正原価を継続して下回らないようにすることが求められます。
現在の運賃・料金の水準だけでなく、荷待ち時間や積込み、付帯作業などに対する料金が適切に設定されているかも確認が必要です。見直しが必要な取引を洗い出し、適正原価の施行に備えましょう。
運賃・料金の見直しが必要な取引については、荷主と交渉するための資料を準備しておきましょう。運送原価だけでなく、輸送距離・走行距離・稼働時間・荷待ち時間・付帯作業の内容など、取引ごとの実態を整理します。
また、現在の運賃・料金や待機時間料、荷役料などの設定状況も確認し、実際にかかっている費用との差を把握しておきます。適正原価が告示された後は、これらの情報と適正原価をもとに、荷主と運賃・料金について協議できるようにしましょう。

適正原価の施行後は、適正原価を下回る運賃・料金での取引が継続した場合、規制や措置の対象となる可能性があります。ここでは、適正原価を下回る取引に対する規制・措置を、荷主・運送事業者それぞれ解説します。
荷主側が原因で、運送事業者が適正原価を下回る運賃・料金を収受せざるを得ない状況が生じた場合は、「違反原因行為」に該当します。
違反原因行為が確認された荷主は、トラック・物流Gメンによる働きかけ・要請・勧告・公表などの是正指導の対象となるため注意が必要です。企業名が公表された場合は、取引先や顧客からの社会的信用の低下につながる可能性もあります。
運送事業者は、運賃・料金を「収受する場合」と、他の運送事業者への委託で「支払う場合」の双方が対象となります。違反した場合は、以下の措置の対象となります。
違反内容 | 措置 |
運賃及び料金について、適正原価を下回る水準で継続的に収受した場合 | ①適正化機関による巡回指導(法第39条) ②監査による行政処分(法第33条) ③更新の不許可(法第6条の2) |
運賃及び料金について、適正原価を下回る水準で継続的に支払った場合 |
受注時と委託時のどちらも適正原価を下回る状態が継続しないよう、運賃・料金を適切に管理しましょう。

適正原価への対応によって運賃・料金が見直されると、荷主が負担する物流費が増加する可能性があります。
物流費の上昇を抑えるには、運賃・料金を引き下げるのではなく、物流業務の効率化によってコストを削減することが重要です。ここでは、具体的なコスト削減方法を紹介します。
物流費の上昇を抑えるには、荷待ち・荷役時間を削減することが重要です。適正原価では、待機時間料や積込料・取卸料などを料金原価として反映する方向で検討されています。そのため、荷待ちや荷役にかかる時間を短縮することで、物流費の抑制につながります。
たとえば、トラック予約システムの導入によるバース混雑の抑制、荷役手順の見直しなどが有効です。運送事業者に適切な対価を支払いながら物流費を抑えるために、不要な待ち時間や作業を減らして物流を効率化しましょう。
積載率を高め、1台あたりの輸送効率を改善することも、物流費の抑制につながります。積載率が低い状態では、荷物を運ぶために必要な車両や運行回数が増え、輸送コストがかさみやすくなるためです。
発注ロットや配送頻度を見直して1回あたりの輸送量を増やすほか、荷姿や積み方を工夫して荷台の空きスペースを減らしましょう。少ない運行回数で効率よく輸送できれば、物流費を抑えやすくなります。
物流費を抑えるには、共同配送やモーダルシフトなどを活用し、輸送方法そのものを見直すことも有効です。共同配送では、複数の荷主の貨物をまとめて輸送することで、トラックの積載率向上や運行回数の削減が期待できます。
また、長距離輸送の一部をトラックから鉄道・船舶へ切り替えるモーダルシフトも選択肢のひとつです。輸送距離や荷物の特性に応じて輸送方法を見直し、物流全体の効率化によってコストの抑制につなげましょう。
適正原価の導入に備えるには、現在の運賃・料金や取引条件、委託状況などを把握できる環境を整えましょう。
「ハコベル配車管理」は、配車依頼から運行管理、請求・支払いまでのプロセスをデジタル化できるシステムです。案件ごとの請求・支払金額や配車情報などを蓄積できるため、現在の運賃・料金や取引状況の把握、物流コストの可視化に活用できます。
また、待機時間の可視化に加え、実運送事業者の請負階層を管理し、実運送体制管理簿を作成することも可能です。委託先や請負階層を把握することで、運送委託の状況や取引構造を見直す際にも役立ちます。
適正原価の導入に向けて、運賃・料金や取引条件、委託状況をデータで把握して取引の見直しを進めたい企業は、ぜひ導入をご検討ください。
荷主として知っておきたい トラック・物流Gメンの活動内容と是正指導の基準
「ハコベル配車管理」は、物流・運送業をはじめとするさまざまな企業で導入されています。ここでは、運送実績や物流コストの可視化、配車業務の効率化などを実現した導入事例を紹介します。
丸紅ロジスティクス株式会社様は、運送実績の可視化や配車業務の効率化を目的に「ハコベル配車管理」を導入しました。全国26拠点へ展開し、これまで拠点ごとに管理していた運送実績を一元的に可視化できる環境を構築しています。
さらに、新潟物流センターでは「トラック簿」と連携し、トラック予約/受付システムを活用した結果、30分を超える荷待ちの発生率が37.7%から2%まで改善しました。
運送実績を一元的に把握できる環境を整えるとともに、荷待ち時間の削減など物流業務の効率化につなげた事例です。
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株式会社ダイフク様は、配車情報の一元管理や物流コストの可視化などを目的に「ハコベル配車管理」を導入しました。導入前は電話やFAX、メールによるやり取りが多く、配車情報やコストを十分に把握できていないことが課題でした。
導入後は、運送会社への配車依頼から請求金額の算出までをシステム上で管理できるようになり、物流コストの可視化を実現しています。また、配車に関する情報を一元管理することで、進捗状況の確認や関係各社とのやり取りも行いやすくなりました。
物流コストや配車情報を可視化するとともに、配車業務の効率化や属人化の解消につなげた事例です。
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適正原価は、運送事業を適正に運営するために必要な原価を確保し、持続可能な物流を実現するために導入される仕組みです。適正原価に関する規定は、2025年6月の改正法公布から3年以内に施行される予定で、具体的な水準や算定方法は現在も検討が進められています。
制度の施行に向けて、荷主企業は現在の運賃・料金や輸送条件、荷待ち・付帯作業などを整理し、必要に応じて運送事業者と取引条件を見直すことが重要です。運送事業者も、自社の運送原価や取引ごとの採算を把握し、荷主との運賃交渉に備えておく必要があります。
また、物流費の上昇が見込まれる場合は、荷待ち・荷役時間の削減や積載率の向上、輸送方法の見直しなどによって物流全体を効率化することが大切です。
適正原価の導入に備えて運賃・料金や取引状況を把握したい場合は、「ハコベル配車管理」の活用もご検討ください。配車情報や請求・支払いなどのデータを一元管理し、物流コストや取引状況の可視化・見直しに活用できます。